成人式1月。
ようやく大学への入構が解禁されたことで、俺は長い休みのうちに溜まりに溜まった仮説や題材を消化するためいつものように研究室に篭っていた。冬休みの終わりを嘆く学生を横目に試験管やシャーレと戯れていたある夕方、白衣のポケットに放り込んでいるスマホが着信音を鳴らした。
一瞬気が散ったものの、1mgの誤差も許されないのが薬学の世界だ。いや、まだもう少し、とピペットに意識を集中すること数十分。ご苦労なことに電話の主は根気よくスマホを握り続けていたらしく、いい加減にうるさくなった為勘弁して出ることにした。ここまでしつこくかけ続ける人間は俺の知る限り一人しかいない。
「…今取り込み中なんだけど」
「おっと、随分不機嫌だね。また不摂生を日下くんに叱られたかな?」
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