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    森永ぴの

    @m0rinaga_pi

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    森永ぴの

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    お題もくりにてワンドロで書いたものに少しだけ加筆しました

    お題【喫茶ウェイター×花屋】

    花屋の描写はまっっっったく出てきません

    尾はばあちゃんの営む花屋さんで働いてます
    そのうち出てきます(そのうちとは)

    くるっぷにあげたものと同じです

    喫茶ウェイター×花屋「いらっしゃいませ」
     重たいアンティーク調の扉を押すと、チリンチリンと来客を知らせる鐘が鳴り、渋い声が俺を歓迎した。
    「どうも」
     ダークブラウンのテーブルに、赤いベロア調のソファ。テーブルランプはステンドグラスのランプシェード。四人掛けの席には、暇を持て余した老人たちが座って談笑している。他のテーブルにも、外回り中の営業マンのような男性客がノートパソコンを開いていたり、ひとりで新聞を読んでいるじいさん、常連っぽい年配客のグループがランチをしている。
     それを尻目に俺はカウンター席へと座った。ボトムのポケットからシガレットケースを取り出すと、中から煙草を一本抜いて咥える。ジッポーライターの火を点けると、ゆっくりと煙を吸い込んだ。令和の時代にしては珍しく、喫煙できるこの喫茶店を俺は気に入っていた。
     マスターが俺の前に水の入ったコップを置く。
    「珍しいじゃないか。昼間に来るなんて」
    「そうですね。せっかくなんで飯でも食って行きますよ」
     煙草を吸いながら、目の前に立てられたメニューを手に取り開いて見る。この古い喫茶店は置いてあるメニューも昔ながらで、ナポリタンやオムライス、一日煮込んだカレー、チーズのたっぷり乗ったピザトースト。それから色鮮やかな緑色の液体の上にバニラアイスが乗ったクリームソーダ。生クリームと缶詰のさくらんぼが添えられた硬めのプリン。
    「尾形、カレーにするか? 自分で言うのもなんだがな、美味いぞ〜」
    「そーですね。なんでもいいんですけど、腹が膨れれば。あ、ドリンクセットにしてください。コーヒーで。出すのは食後でお願いします」
     あいよ、と景気良く返事をしたマスターの名前は菊田さん。歳は四十の頃。脱サラして閉店していたこの古い喫茶店を買い取り、夢だったレトロ喫茶を営んでいる。禁煙にしてないのは自分もへビースモーカーだからだそう。
    「相変わらず地元密着型ってかんじですね。回転率悪くて儲からないんじゃないですか」
    「キツイこと言うなよ。でも休日にはこの古くさい喫茶店目当てに若い子だって来るんだぜ」
    「自分で古くさいって言っちゃうんですか。レトロって言うんですよ」
     カウンター席から注文をこなす菊田の手元を見ながら煙を吸っていると、木製の重たい扉がチリンチリンと鳴った。新しい客が入ってきたのか、とそちらを見ることもなかったが、どかどかと足音が近づいてきた。
    「おはようございます!」
     大きな声の挨拶に思わず振り向いくと、そこには見たこともない若い男。
    「おお、ノラ坊。おはよう。そっち側から入って、エプロンあるから」
    「はい。よろしくお願いします」
     ノラ坊と呼ばれたその男は、カウンターの中へ入るとそこからバックヤードへと姿を消した。
    「菊田さん、誰ですか、あれ」
    「あれってなんだよ。新しいバイトだ。前にいた子、辞めちまったからな。暇そうに見えてもひとりだとなかなか大変なんだって」
     ほらよ、と置かれた皿には、しっかりと玉ねぎを飴色になるまで炒めて作った欧風カレー。食欲をそそる香りが鼻を抜ける。いただきます、と手を合わせステンレス製のスプーンをカレーに突き刺した時に、さっきのやつが戻ってきた。
     ノラ坊と呼ばれたその男は、白いカッターシャツに黒いエプロンを身に付けてカウンターへと立つ。
     菊田さんに何からすれば良いですか、と仕事を聞いている。
    「こんにちは」
     食事をしている俺に突然、明るい挨拶が降ってきた。俺に言ってるのか?
    「……こんにちは」
     挨拶を返すと、ノラ坊はニコッと微笑んだ。そいつは顔を横断する大きな傷をこさえていた。そんな傷が気にならないくらい整った顔立ちをしていた。むしろ傷さえもそいつの顔の良さを引き立てているようだ。
     今思うと、一目惚れだったと思う。

     ノラ坊は杉元佐一と言う名前らしい。栄養士の学校に通っていて、カフェ巡りが趣味で、最近レトロ喫茶も良いと気付いて、たまたま入ったこの店で、たまたま食べた菊田さんのカレーが美味しくて、ちょうどアルバイトを募集していたから、応募したそうだ。
    「お兄さんて、仕事何してんの?」
    「ん、俺か? んー、内緒」
     
     俺が花屋で働いていることは、杉元には言っていない。
     
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