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    mic_tamanegi

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    7thおはブクロ

    領収書は、「ありがとうございました。またお越しくださいませ。」

    騒がしい店内に虚しく響く声。
    きっと誰も聞いていない。気にも止めない。

    ここはヨコハマの少し外れた場所にあるスーパー。
    普段は穏やかな雰囲気だが、連休が始まると途端に神経をすり減らす戦場になる。
    今日だけでポップの付け間違いによる売価エラー、レジ員による誤打、お子様が走り回ってるから注意しろ、もう施行から1年経つのにレジ袋有料への文句!!
    これを全部、サービスカウンターが受ける。つまり私。

    働き始めて3年、職場のメンバーはいい人ばかりだけど、管理職はいざって時には忙しいふりして守ってくれないし、今日みたいに何もかも最悪な日と、淡々と時間が過ぎるだけの日のどちらかの生活。
    仕事ってこんなもの?何処に行っても同じ?まだ私、若いし。もっと世間を知るべきじゃない?
    偶然にも今日は契約更新日。

    ………辞めようかな。

    引き継ぎノートを眺めながらぼんやり考えていたその時。ふわりと甘くて、少しスパイシーないい香りがした。人の気配。お客様だ。

    顔を上げ、目に入った人物に喉がヒュッと鳴った。

    「すみません。あの、手書きの領収書、欲しいんすけど。」


    山田一郎だ。

    フードを被りマスクをしているが私には分かる。
    何故なら私はこのヨコハマに住んでいながらもブクロ推しだから。もちろんMTCにこのディビジョンを守ってもらってるから最推しはハマだけど!!
    山田三兄弟に幸せになって欲しい。そう心から思ってる。
    ってそうじゃなくて!!
    なんで!?なんでヨコハマに!?
    左馬刻様と犬猿の仲ってガイドブックに書いてたのに、ヨコハマにきて大丈夫!?
    あ、もしかしてそれでフードとマスクで顔隠してる?隠れてないよ、イケメン過ぎて。
    はっ!!ダメだ。仕事中。落ち着け私。

    「かしこまりました。レシート頂戴しますね。」

    引き出しから領収書を出し、ペンを走らせる。
    総額は…990円。今日の日付を書いて、再び顔を上げる。

    「宛名はいかがいたしましょう?」

    山田、かな。それともヨロズ屋ヤマダ?
    あー…ヨロズって漢字どんなだっけ…

    「…ひつぎ、で…」
    「えっ?申し訳ございません、もう一度…」
    「碧棺…で」
    「は」

    なんだって?

    「あ、漢字っすか?ちょっと難しくて、」
    「いえ、あの、ここ、ヨコハマですので。」
    「あ…そっすよね」
    「あおは王に白、下に石。ひつぎは木へんに官僚の官で、お間違いないでしょうか?」
    「はい…そう、です」

    震える手で確かに、この街の王の名を書く。
    チラリと目の前に立つ彼を見ると、纏っている洋服と同じくらいに顔を真っ赤にしている。

    か わ い い

    そっかぁ、犬猿の仲とか言われてるけで、本当は仲良いのかな。
    それか仲直りしたのかな。
    もちろんお客様情報だから誰にも話さない。
    いつかディビジョンバトルが終わって平和な世界になったら、2人が握手する姿を皆で見れるのだろうと、とても幸せな気持ちになる。


    「あ、こちら10%商品ですね。……但し書き、は、如何、いたしましょう?」

    総額は990円。購入点数一点。レシートに印字されたその商品名。

    『オカモト 0.01ミリ XLサイズ』

    これ、え?
    これ…これを左馬刻様の名前で領収書?
    え?待って、え?

    「あっ、えっと、但し書き、は…あー…クソ…あの、」
    「消耗品!!消耗品でよろしいでしょうか!?」
    「は、はい!!あざっす!!」

    消!!耗!!品!!

    力強く書き切り、複写された1枚に印鑑を押し手渡す。
    一郎くんはもうお洋服との境目が分からないくらい真っ赤になって少し涙目で、小さくお礼を言って帰られた。


    その後ろ姿を見送り、しばし余韻に浸る。

    これは、夢?
    チラリと控えを見れば確かに碧棺と書かれた宛名、添えられたレシートにはオカモト0.01XLの文字。

    遠くから店長の声がする。
    やめて今話し掛けないで。

    「喪部さん!契約更新なんだけど」
    「更新します。末永くよろしくお願いします。」

    またのお越しをお待ちしております。
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    ※H歴崩壊後
    ※名前があるモブ♂が出張ります、モブいちっぽい瞬間がありますがサマイチの話です。
    カーテンの隙間から薄い紫の空が見える。 まだ日は昇りきっていないが、どうやら朝になったようだ。
     のろのろと体を起こしスマホを手に取ると、時刻は五時を過ぎたばかりだった。
     隣で寝息をたてている一郎は起きる気配がない。
     昨晩は終ぞ正気に戻ることはなかったが、あれからもう一度欲を吐き出させると電池が切れたように眠ってしまった。
     健気に縋りついて「抱いてくれ」とせがまれたが、それだけはしなかった。長年執着し続けた相手のぐずぐずに乱れる姿を見せられて欲情しないはずがなかったが、その欲求を何とか堪えることができたのは偏に「かつては自分こそが一郎の唯一無二であった」というプライドのおかげだった。
     もう成人したというのに、元来中性的で幼げな顔立ちをしているせいか、眠っている姿は出会ったばかりの頃とそう変わらない気がした。
     綺麗な黒髪を梳いてぽんぽん、と慈しむように頭を撫でると、左馬刻はゆっくりとベッドから抜け出した。
     肩までしっかりと布団をかけてやり、前髪を掻き上げて形のいい額に静かに口付ける。

    「今度、俺様を他の野郎と間違えやがったら殺してやる」

     左馬刻が口にしたのは酷く物騒な脅 4404