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    pokkematu0405

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    Adam/やや未来/同棲
    茨は負けず嫌いだけど凪砂の幸せには負けてほしいという性癖

    #Adam

    ドローゲーム「ええそれでは。次回のミーティング日程は改めてご連絡させて頂きます。」
    爽やかな青年実業家七種茨は深々と頭を垂れ、クライアントの乗り込むタクシーを見送った。

    エンジン音が遠のくと、茨は安堵のため息を付き、首元のネクタイを無造作に緩めた。本日の一大イベントを終え、後は凪砂の待つ自宅に帰るだけ。タクシーへ向かおうとした折、こじんまりとした洋菓子屋が目に入った。
    以前、凪砂と訪れた店だった。日々樹氏からの勧めと凪砂は期待を頬を色づかせ、茨を同行させた(猊下のお気に入りだという)。
    流石猊下の御用達、期待を越える名店だと茨も記憶に残っていた。

    磨き込まれたガラスケースの中にピスタチオケーキ、アップルパイ、カスタードプリン。凪砂のお気に入りは言わずもがな、ダークチョコレートでコーティングされた黒い宝石だった。

    (…わぁこれ、あのお店のザッハトルテ?また行ってみたかったんだ。わざわざ買ってきてくれたの?)凪砂はすぐに食べ始めず、しげしげと皿の上の戦利品を眺めるだろう。凪砂が重宝する石に向けるように、瞳を煌めかせて。
    (…ありがとう、茨。)ひとしきり目で味わった後、こちらに向き直り優しく眉を下げる。俺は凪砂さんの腰を引き寄せ、トパーズの瞳に自分を映しーーーー幻影が自動再生されていたことに茨はハッとした。何を夢想に耽るなんて疲労で脳が停止しているのか俺は。さっさと買って、帰ろう、と眼鏡のツルを上げ、自動ドアをくぐった。

    ...
    マンションに帰り着き鍵を回すと開けるより先にドアが開いた。
    「…茨、おかえり」凪砂はワクワク、と顔に書いてあるような表情で出迎えた。
    「た、だいま戻りました。」
    遅かったんだね。お疲れ様。と労いの言葉をかける声のトーンが一弾弾んでいるようで、凪砂の機嫌が伝わってきた。くるりと背を向けて戻る凪砂の後を追って、居間に入ると、机の上に白い箱が置かれていた。
    「あんな箱ありましたっけ?」
    「…私からの差し入れだよ。」
    嬉しそうに話す凪砂に、機嫌の理由に合点が着いた。
    「…あの店の取材の時、美味しそうに食べていたから。」
    ああ店のロゴに見覚えがある。確かに、あの店のカスタードプリンは自分の好みに近かった。凪砂に、自分の心情の揺れを見破られていたのが複雑だ。
    仕事の品質には差が出ないよう、表情管理をしている、その自負もしている身としては。一方で、凪砂が常人の五感とは異なる次元に住んでいることは重々理解をしているが。

    「茨、今日の顧客だったら、お昼ご飯は物足りないんじゃないかなと思ってね。折角だから久しぶりに一緒に食べたくて。」
    この人、俺以上に俺を把握しているんだよなぁ。と考えながら、茨は自分の手元の品は見つからない方が良いと判断を下したが一歩早く、凪砂の眼に茨の手元が移った。

    「…そこのお店…」
    澄んだトパーズは瞬間瞬いた。
    「ああ…はい。商談場所の近くに丁度ありまして。」
    サプライズが達成出来なかった今、茨は居心地悪そう答えた。
    「ザッハトルテ?」
    「はいはい。そうですよ。この店と言ったらザッハトルテでしょ。あんたは。」

    気恥ずかしさから投げやり気味に、茨は箱を凪砂の前面に突き出した。
    ふふそうだねと凪砂は微笑みながら、茨の突き出した箱を両手で包んだ。

    「…ありがとう、茨。私またここのお店のザッハトルテ、食べたくて……」
    「いいですいいですそれは!」自分の妄想が思い出され恥ずかしくなる。サプライズが失敗しているだけでもう結構悔しいのに。
    茨の急な制止から凪砂はキョトン、と言葉を止め、茨を見つめ、少しの間の後、口を開いた。

    「…茨が商談で疲れてることは想像していたんだけど、私を喜ばせて悦に浸りたいと思っている所までは予想して無かったんだよね。」
    「なんでそれ、言っちゃうんですか?!要りませんその振り返り!」
    「…茨も、私がサプライズを仕掛けるって予想して無かった。」
    1勝1敗で引き分けだね、と楽しそうに凪砂は茨の手から箱を引き取る。興味はもはや麗しい甘味に移ったようでスタスタとダイニングテーブルに持ち去っていった。

    このクソ万能神……折角、凪砂さんが喜ぶと思って…………………何はともあれ可愛くない。
    あんな可愛くない態度のままにしてられない。
    茨は負けず嫌いスイッチをオンにし、商談宜しく脳内演算を回し始めたがその最中、テーブルに戦利品を預けた凪砂が向き直り、トコトコの近づいてくる。

    「…でも、嬉しいな」
    「私たち、どちらが上だ下だって言い合ってきたけど」
    2人で訪れた店を見たら、買って帰ってあげたいな、と、戦略も謀略も無く、茨が想ってくれるのだとしたら、
    「こんなふうに単純にお互いのことだけ、考えられる日がくるものなら」
    凪砂はそう呟き、正面から茨の腰にそっと手を回した。
    「人生はまだまだ、面白いものだね。」
    長い睫毛の一本一本まで分かる距離の中、優しく細められたトパーズの瞳は茨で満たされた。

    (反則なんですよ)凪砂の体温で温められ、先程までの闘争心は強制シャットダウンボタンを余儀なくされる。ああもう、引き分けなんて俺に取っては負けと同義であるはずなのに。

    茨は、凪砂の瞳の中にいる、表情管理力を総動員した、要は頑張って感情をひた隠しにした自身を目の当たりにしながら、ぶっきらぼうに「…良かったですね」と呟いた。
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