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    黒凪 傀

    @kuronagi1014
    マレシル中心にシル右書き手。バスターズとかも書いてます。ここでは俳優パロ連載したい。

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    黒凪 傀

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    バトルシーンの息抜きに書いてた俳優パロ2
    ヴィルシル・マレシルな感じです。

    俳優パロシル♀愛され2買い物に出た街。『ヴィル・シェーンハイトに恋人の影!?』なる見出しの広告を見上げ、シルバーは本屋の前で凍り付いていた。
    モザイクが掛かっているが、この場所は良く知っている。
    オーディション合格の連絡が届いたのはあの次の日。ヴィルのマネージャーからはその連絡とほぼ同時にヴィルが選び抜いたというコスメグッズがシルバーの元に届けられた。
    シルバーは基本、体も顔も髪も洗う時は石鹸である。清潔であればいいのではないのか。
    毎日お風呂には入っているし、ヘアオイルやら美容液やら化粧下地の必要性がいまいちわからない。
    忙しい彼に迷惑が掛からないように礼を書いたメールの最後、そこまで変わるものだろうかと疑問を書いたところ、次の日にヴィル本人が来た。
    一通り必要性を説かれ、使い方と量を指南され、父の鍛錬以上にへとへとになった。
    これを毎日行っているというモデルや俳優たちを尊敬すると言ったら一般女性もやっているそうである。
    そして、ヴィルの帰った後に触った自分の肌や髪はいつもよりもすべすべつやつやしているように思えた。
    そして多分、今目の前で広告に載っている写真はその帰り際に撮られたものではないだろうか。
    かつてないまでに混乱しつつ開いたメールに、先に本人から連絡が来ている。
    『ちょっとミスったわ。マレウスの家に用があって行ったって公式発表するからアンタは知らぬ存ぜぬで通しなさい。返信してる暇があったら美しさに磨きをかけること』
    そのままスマホを仕舞い、深いため息をつく。
    ここまで迷惑を掛けることとなるのならば、やはり主が勧めてくれたこととはいえ断った方が良かったのではなかろうか。
    後で何かお詫びに持って行こう。しかしトップモデルであるヴィルに何を贈れば良いだろうか。
    はふぅ、ともう一つため息。ここで立ち止まっていても仕方ないと通り過ぎかけた本屋の平台に、今考えていた人の優雅な笑みがあった。
    「ダイエットレシピ…」
    確かに、ヴィルの体形は学生時代から一切変わらない。走り込みや体力作りをやっているのは知っていたが、食べるものにも気を使っているのか。
    本人に聞かれたら『当たり前でしょ』と呆れられること確定の思考をしつつ、本を手に取る。
    父の料理を回避するために磨いた料理スキルを発揮するときはきっと今だ。
    味と栄養の面は気にしていたものの、カロリーという点はそういえば気にしたことのない彼女である。
    某コメンテーターであり有名リストランテのオーナーである蛸の人魚が笑顔でキレそうな事実に今更気付き、きゅ、とくびれたウエストに手をやりつつもシルバーは財布を取り出した。



    すぅ、と小さな寝息。
    淡い薔薇色のルージュを乗せた唇はわずかに開かれ王子様のキスを待つようだ。
    オフショルダーのプリンセスラインのドレスも濃い薔薇色で、シルバーは可憐な薔薇の花の妖精のようにも見える。
    撮影までの期間、ヴィルおすすめの化粧品によって磨かれたシルバーには天性の華やかさが備わっていた。口紅を際立たせるためほぼナチュラルメイクだというのに、撮影用のライトの下で彼女は本物の童話のお姫様のようにも見える。
    対してヴィルは少しきつめのメイクで暗めの紅い口紅を引き立てていた。
    何枚か撮られた写真のデータを確認し、艶やかなその唇が笑む。
    「ほらシルバー、起きなさい。次の撮影に入るわよ」
    ヴィランとプリンセス。シリーズ第二弾となるそのコンセプトは毒に精通する美しき女王と眠り姫だ。
    同じ童話ではつまらないと、二作品ずつ悪役とプリンセスをシャッフルする。
    第一弾はネージュとマレウス。林檎のような赤と、蠱惑的なまでの黒に近い口紅だった。
    「ん……」
    むにゃ、と幼い寝言が聞こえる。彼女の眠るベッドに腰掛け、ヴィルは優しくその銀の髪を梳いた。
    「起きないと、目覚めのキスしちゃうわよ」
    「んぅ……」
    もぞぞ、と動くもまだ寝惚けている。愛らしい眠り姫に美しき女王がキスをしそうな退廃的な雰囲気はある一定の層に人気が出そうだ。
    「シェーンハイト、今不埒な言葉が聞こえたようだが」
    冷え切った声と共に二人を見守っていたスタッフの間の空気が凍った。
    偉大なる茨の魔女、のモデルとなった青年が、その形良い唇に冷笑を浮かべ、背後に不穏な空気を纏いながらつかつかと歩み寄ってくる。
    「早いわね。撮影終わったの?」
    「一発でな」
    「共演者可哀想。そんなに大事ならアンタが起こしなさいよ、王子様」
    「起きているだろう」
    ヴィルが見下ろせば、長い長い睫毛がぱちぱちと瞬きをしていた。
    「…まれうすさま」
    ふにゃり、と幸せそうにその顔がほころぶ。わずかに桜色に上気した頬は最愛を見つけたそれだ。
    「撮影は終わったのか?」
    「まだよ。アタシと一緒のシーンが残ってるの」
    ちらりとカメラマンに視線を向ける。一緒の仕事を数多くこなしている彼は、今の表情もちゃんと捉えたと頷きを返してきた。
    「ほら、お姫様。王子様を待たせたくないでしょ」
    こく、と頷いてシルバーはベッドから降りる。ヒールのついた小さな靴は可愛いがいつも動きやすい履物ばかりだったシルバーには落ち着かない。
    「………脱いで」
    「え」
    「え」
    ぽかん、としたシルバーと殺気立ったマレウスの声が重なる。
    「靴よ。靴下も」
    「あ、ああ」
    言われるまま靴と靴下を脱ぐ。爪もきっちりと形よく整えてきた。
    深爪気味に爪切りで切っていたのは全力でNGを喰らったが。爪やすりで整え、何種類かで削って磨き上げるという文化を知ったシルバーは宇宙を背負った猫のような表情をしていた。
    「裸足で花畑を走るような破天荒なお姫様と、振り回されつつも姫を見守る女王、とかどう?」
    ちなみに前回は今にも戦いそうな白雪姫と茨の魔女とSNSで話題になっていた。
    どちらがより魅惑的に写るか、で対抗意識が芽生えてしまったらしい。
    「…物語通りなら僕とシルバーだったのに」
    むぅ、と時折見せる拗ねた表情でマレウスは撮影風景を見守る。
    花畑で動物たちに囲まれ微笑む裸足の少女と、呆れたような顔で彼女を見守る美しい女王。
    自分よりも美しく成長するかもしれない姫に敵意を向けても良いだろうに、女王の顔は毒気を抜かれたように優しい。
    それは多分、ヴィルからシルバーに向ける素のままの感情でもあるのだろう。
    ちりり、と自分以外から彼女に向く好意にマレウスの胸はざわつく。
    嫉妬を隠しもしない王子様の狭量加減に女王が笑みを深め。
    「…え?」
    ふわりと姫の前に跪くと顔をそっと寄せた。
    女王というよりも、彼女を奪う王子の仕草で。
    「っ」
    息を呑むマレウスに、もう一人の王子となったヴィルがダークチェリーのような唇で笑む。
    困惑の表情となったシルバーにこつりと少しだけ額同士を付け、ヴィルは何事もなかったかのように立ち上がった。
    「OK?」
    この場の全員が、ヴィル・シェーンハイトの雰囲気に完全に呑まれていた。
    正気を保っているのは彼を睨みつけている『茨の王子』くらいのものだ。
    「ほら、シルバー。終わったわよ」
    ぼんやりとしているのはシルバーも例外ではない。はふ、とため息めいた音が桜色の唇から落ちた。
    「やはり、ヴィル先輩は凄いな。……凄く、綺麗だった」
    陶酔めいた表情が微笑む。アンタ自分の今の表情と、あとそこで殺気立ったマレウスの顔見てから言いなさい、という言葉は何とか飲み込んだ。
    「ありがと」
    この子の言葉は世辞ではない。思えば学生時代から美しいものと言われてヴィルの名前を挙げたこともあった。
    だからきっと、女王は、どんなに美しくなろうともこの少女にだけは敵意を向けない。
    「とっとと着替えてくるわよ。アタシもまだ、馬に蹴られたくないから」



    眠り姫となった謎の少女の話題は今もネット上を賑わせている。
    何百枚かに一枚。あのルージュのチラシには目覚めた眠り姫バージョンがあるのも話題性を盛り立てているようだ。
    陶酔めいた表情の姫に少し悪い表情で女王が唇を寄せた広告の載った雑誌はすぐに売り切れ増刷が掛けられたとも聞く。『ヴィルって王子もできるのか』という意見も散見されたが、自分は俳優だ。任されればどんな役だろうと全力で演じてみせる。
    まぁ多分、だが。自分から王子を演じに行くのは今回が最初で最後だろう。
    「これで気付けばいいんだけど」
    学生時代から、シルバーはマレウスに向ける自分の感情に一切気づいていない節があった。
    幼馴染とも聞くし、近くに居過ぎた弊害なのだろうとはわかっている。
    だが、あれだけのマレウスからの鬱陶しいまでの矢印を全て天然に回避するのはそろそろやめてほしい。周囲が砂を通り越して砂糖を吐きそうだ。
    「…あら?」
    スマホが短い着信音を鳴らし、表示された名前にヴィルは片眉を上げる。
    シルバーからのメールだ。あの律義な子のことだから礼だろう。
    開くと思った通り、良い経験となったことと、サポートへの礼が丁寧に綴られている。
    元はといえばヴィルの方から望んだことだ、だから礼などと思いかけ、その下に続く文字に指が固まる。
    『お礼になるかわからないのだが、ヴィル先輩に食事を届けたい。貴方のレシピ本を買ったから好物を作れるはずだ』
    深い深い、ため息をつく。自分以外の男の好物を把握し、なおかつ美味しく作れるまでに修練するなどマレウスが色々拗らせている予感しかしないではないか。
    「…………あの子、狙ってないわよね」
    意図的にできるのなら恐ろしいまでの魔性の女となれるかもしれない。しかし、多分、これも素だ。
    後日、マレウスが苦虫を噛み潰したようなファンには見せられない顔でヴィルの楽屋に届けてくれた豆乳のシチュー。
    もうなるべくあの子を自分に会わせないようにするんだろうと確信しながら口にしたそれはとてもとても美味しくて。
    悪戯めいた顔の女王様が茨の王子様の護衛にちょっかいを掛けるようになるのはこの少し後のことであった。
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