試し読みεïз用特別編<ポムフィオーレ><ポムフィオーレ>
喉が、渇く。
残る感覚はそれだけ。それすら通り越し本能のままに曝け出せば、きっとこの耐えがたいまでの渇きは収まるのだろう。
半分に欠けた視界の中、松明がゆらりと照らす古城を歩く。
逃げて。と思うと同時に、食いたいと、思ってしまう。
背後で騒ぐ蝙蝠たちは、その抵抗を嘲笑いながら彼の陥落をただひたすらに待ち望んでいた。
喉が、渇いて。それを潤すものがこの先にあるのを知っている。
紅い色。生命の音。それが、どれだけ甘美なのか、この喉を、魂を、満たすのか。
執着点は、巨大な扉の玉座の間だった。
鋭く尖ったように見える爪が、突き立てられる。
軽く押しただけなのに巨大な扉は簡単に軋む音を立て、その中に逃げ込んだ今宵の犠牲者たちの姿を晒した。
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