箱の蓋を開けると甘い香りと共に、様々な形に固められ木の実や砂糖菓子で飾られた鮮やかなチョコレート達が現れる。
ウーノは丁寧に煎れたコーヒーを片手に顔をほこらばせ、それらのうちの一つを指でつまんだ。
と、その時部屋のドアがノックされたかと思うと素早く開け放たれた。
「・・・あっ・・・ごめーん、お邪魔だった?」
すまなさそうな顔をして、シエテが席に着く。
「いいや?かまわないけれど・・・、とりあえずこれを食べてしまっていいかい?」
「うん、食べて食べて」
シエテはそう言いながら机の上に様々なデザインの箱をどかどかと置く。
そして、ウーノがチョコレートを味わう様を見届ける。
全くそんなじっくり見つめる気持ちもなかったが、なぜかシエテは見入ってしまう。
目を閉じて口の中で溶けるチョコレートの甘さとまろやかさを味わうウーノの顔は普段よりもずっと優しく穏やかなものに見えた。
コーヒーを一口飲み、彼はホウというため息を漏らした。
「団長ちゃんからのチョコレートは美味しい?」
「ああ・・・美味しいよ。とってもね。」
笑みをたたえてウーノが答える。
「ところでシエテ、一体何の用だい?」
「ああ~、実はね貰ったチョコレートをウーノと一緒に頂こうかなぁなんて思ってね。」
「それは賛成しかねるねぇ。せっかく頂いたものなんだ、君一人で食べなさい。」
「え~・・・この団に来てからこんなに消費しきれなさそうな数のチョコを貰ったから助けてもらおうと思ったんだけど・・・。今年はソーンやエッセルまでなんか貼り切って作ってくれちゃったし。」
「全部一気に食べ切ろうとしないで少しずつ食べればいいと思うんだがね。」
「う~、それだと依頼をこなしたりしてる内にいつ食べ終わるかわからなくない?」
「それなら依頼をしながら携帯食にするのはどうかな? チョコレートはカロリーも高いし、甘いものはリラックス効果もあるというからね。」
「わかった・・・。頑張って消費する。貰った皆の分しっかり味わうよ。」
「うんそれがいい。」
そう言うとウーノはまた別のチョコレートに手を伸ばして味わう。
そしてまたコーヒーを一口飲みホウと言うため息をこぼす。
全体的に言っていつもより限りなくとてもウーノがゆるい雰囲気を漂わせている。
シエテは朝から何となくソワソワと落ち着かなかった彼の姿も思い出す。
なるほど喜びと美味しい物があると彼はこんなにも変わるのかと一人納得する。
自分の目の前の丹精込めて作られたであろうチョコレート達に目を向け、これを誰かに手伝って食べようとした自分の浅はかさを反省する。
そしてまたウーノに目を向け、彼をこんなに喜ばせるんだったら来年自分も贈ってみてもいいかもしれないと言う気持ちになる。
そうなるとウーノはお返しに気を使うかもしれないけれど。
「シエテ、君、私を眺めてばかりいないで今ここでチョコレートを食べたらいいんじゃないのかな? コーヒーくらいなら淹れてあげられるよ。」
「あっ・・それもそうだね・・・。アハハ。じゃあお願いしようなぁ~。」
なぜそう言う妙案が思い浮かばなかったのか、シエテは不思議になる。
きっと浮かれているんだろう。
たくさんのチョコレートを貰ったこととウーノが喜んでいる姿を見て自分自身も嬉しかったから。
END