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    pole_chan5

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    Q53 続き 年齢操作
    ドイツの研究室で治療を受ける病弱Q5(15歳)×日本の大学で教授に頼まれて5と文通を始めるQ3(20歳)

    sealing wax(Q53)初めて「彼」についての話を聞いたのは、大学二年生の春だった。
    辺鄙すぎないとはいえそこまで煌びやかでもない自分の故郷を離れ、都会にある大学へと進学した僕もようやく二年生となり、大学生活にもそこそこに慣れてきた頃。──夕飯は何にしようか、近所のスーパーは火曜が卵の特売日だから、今日はカニ玉でも作ろうかな──なんて考えながら都心特有の小さく雑多なアパートへの帰路をシュミレーションしつつファイルをカバンへ仕舞っていると、いつも世話になっている教授から直々に「碇くん」と声をかけられた。
    「はい、なんでしょうか」
    一体何の用だろう。まさか今日提出のレポートに不備でもあったかな...と少し心配にはなったが、老教授の温和な雰囲気がそのままなのを確認すると、僕は安堵して再び柔らかく笑う。
    「実は君に頼みたい事があってな。何、そこまで重大なものではないから、そう強ばらなくても構わないよ。ただのお願いだ」
    「お願い?」
    「碇君は英語の成績が良いな」
    僕はその言葉に目を丸くする。英語の成績。確かに僕は大学では英文学を専修しているし、そこまで悪い結果を残している...わけでもないと思っている。英語に関係のある頼み事なのだろうか。
    それなら、僕以外にももっと適性のある学生がいると思うけれど。

    「とある人と文通をして欲しいんだ。君にしか頼めない事なんだよ、碇シンジ君」


    _________


    「相手の名前は渚カヲル。歳は15歳。ドイツにある研究施設で治療を受け、検体そのものとして収容されている。とてもではないが、管理外で日常を送れるほど身体が強くなくてな。だが第一線の最高医療を施しても生かしていたいほど、彼は我々にとって興味深い存在なんだ」
    そう端的に説明をする教授の横で、僕はメモを取りながら頷いた。
    「その子と、僕はこれから文通をしたらいいんですね?」
    「ああ、頼みたい」
    渚カヲル...カヲルくん、だろうか。15歳ということは、僕とは5つ離れていることになる。周りに幼い子供のいなかった僕は、少しだけ嬉しい気持ちになった。歳下と交流を持つのは久々だ。
    そう思う反面、教授の指した──彼の「研究」という言葉にも引っかかっていた。特別な子供、というやつなのだろうか。類稀なる才能や容姿を持って産まれた子達。そんな先天的に選ばれた子供を特別に保護管理下に置き、研究する組織がある......というのは、聞いたことがある話だった。憶測にすぎないが、まさか本当に存在していて...しかも僕とそんな子が手紙交換を始めるなんて思っていなかったけれど。
    「それにしても...どうして僕なんですか?その、僕よりも英語が堪能な生徒さんは沢山いますし、教授ご自身がなさってもよろしいのでは?」
    「それがだな、...実は先に君の話を彼にしてしまって......とは言っても名前と人種と性別、年齢くらいしか話してはいないが......それはもう大層喜んで、君でなければ話をしない、筆も取らない、君からの手紙だけを待ち続ける...と言った塩梅でな。こちらとしても参っているんだ。文通自体はそもそも君と話がしたいという彼の望みであるし、何より...」
    「...研究、に必要だと?」
    「そういう事だ。彼の言動や思考、もちろん──心の変化なども我々にとって重要な研究材料となる。だからこそ、彼が手紙を書いてくれないと困るんだよ」
    ラットのような物言いだと、素直に思った。遠い海の向こうにいる彼はたったの15歳だ。彼だって僕らと同じ人間なのに。身体が極端に弱く、施設の中で生きる、孤独な子供。もしかしたら素直に僕と話をしたいと思ってくれたのかもしれない。それを研究データとして...結果的に利用することになってしまったとしても、僕は彼自身を知ってみたいと思った。まだ彼のことを何も知らないのに、僕も彼と同じように、名くらいしか知らない彼に惹かれていた。だから僕はその頼み事を喜んで承諾し、さっそく家に帰って一通目を書き始めることにしたのだ。もちろん、夕飯のカニ玉の材料をしっかり買って。


    _______

    返事が帰ってきたのは、手紙を送ってから3日後のことだった。
    いつもの通り大学から安アパートへと帰ってくると、小さい郵便受け(と言えるのかすら微妙な...ボックスのようなもの)に一通、ピンと張った綺麗な封筒が差し込まれていた。本当にシワひとつないその手紙は真っ白で、初めは光っているのかと驚いた。天使からの贈り物かのような、洗練された特別な雰囲気があったのだ。
    僕は手紙に小さく書かれた送り主の名前を確認する。「Kaworu Nagisa」とイニシャルではなく丁寧に画かれたそれを見て、ちゃんと自分に向けて送られたものなのだと認識した。それくらい、その便りは僕が今まで見たどれよりも美しかったのだ。

    手紙を手にし、鍵を開けて部屋に入る。僕の送った内容は簡潔極まりなく(本当はもっと色々話したかったけど初めてだったし、相手の性格も分からなかったから当たり障りのないことしか書けなかった)、定型的な挨拶と自己紹介、あとは「君と話が出来て嬉しい」という内容の文章だった。学んでいるとはいえ、さすがに母国語ではなく慣れない英語で書いた文に自信はないが、なんせ簡単な内容だし、読めないことはなかっただろうと信じている。これで返事の内容が「君の文章はあまりにもジャパニーズイングリッシュで何を言っているのかサッパリだ。PCの翻訳機と会話した方が何倍もマシだね」だったらもう僕にはお手上げだ。教授には悪いが、僕の実力不足だったということで退いてもらおう。
    まあ、彼もPCと話すことは不可能なはずなのだが。僕ははじめ文明にあやかろうとし、「ショートメールでは駄目なんですか?」と教授に問うた。答えはノーだった。当たり前だ。彼の病室には幾つもの「超」精密機械があるんだから、電子機器は持ち込めないのだろう。浅はかだった質問に少し恥ずかしくなる。
    それに文通だなんて前時代的かもしれないが、これはこれで情緒があっていいものだ。
    彼から送られてきた美しい封筒を眺め、僕は自然と口角が上がる。封をしていたのは、これまたアンティークで雰囲気のある、厚いシーリングワックスだった。まさか僕も、彼の返しが封蝋だとは思っていなかったから驚いた。細やかな模様が描かれた臙脂色のシーリングワックスはまるで中世ヨーロッパからタイムスリップしてきたかのように見事で、初めて見た僕は思わず魅入ってしまう。素敵だ。自分が送ったものは糊で貼り付けただけだったことを思い出し、次の手紙ではこれに感心したと褒めよう...と思った。

    手紙の内容はこうだった。
    『Dear Mr Ikari,
    はじめまして、碇シンジ君(さんか君かは見当がつかなかったが、手紙を通して読んだ感触では、僕の事を歳上として扱っている...風では無かったので、勝手ながら君付けとさせてもらう)。僕のことはカヲルと呼んでくれて構わないよ。お手紙をどうもありがとう。いつも部屋の掃除をしてくれる研究員から君の手紙を手渡された時、本当に夢かと思ったんだ。だって、今まで見た何よりも綺麗だったから。
    君は美しい文字を書くね。見とれてしまった。きっとこの字を手紙へと記す君自身も同じように綺麗で、何より清らかな心をしているんだろうなって。日本人だと聞いて、はじめは僕も日本語を勉強してみようかと思ったのだけれど。その必要はないみたいだ。だけど、君の書く日本語を見てみたいし、君に日本語でコミュニケーションを取ってもみたい。落ち着いたら少しだけ教えてもらってもいいだろうか。挨拶くらいでいいんだ。恥ずかしいことに、日本の小説を読んだことは何度かあっても、日本語で読んだことは一度もなくて。自分の住んでいる場所すらままならないから、日本のことも全然知らなかったのだけれど。君が生まれ育った場所だと思うと、きっと楽園のように美しく賑やかで、素敵な場所なのだろうと思うよ。
    僕はね、シンジ君。君からの手紙をすごく楽しみにしていたんだ。僕と文通をしてくれるって聞いた時、本当に嬉しかった。今でも信じられてなくて、君から届いた手紙をもう何回も何回も読み返している。研究所の人達は、一体何がそんなに僕を虜にさせているのかって、部屋の外で話し込んでいたよ(僕は耳がよくて。外の音がよく聞こえるんだ)。でもこの手紙は僕のだから、みんなには見せてやりたくないんだ。大切にするよ。僕だけの、贈り物だから。
    僕の人生は今始まった。僕は君のために生まれてきたんだ。
    お返事をお待ちしています。
    ありがとう。僕の天使 K.N』

    う、うわー!!!
    僕は手紙をまじまじと見て、一度閉じて、それからもう一度開いて見て、また閉じて、急に恥ずかしくなった。とても15歳の多感で繊細な時期のペン先から、紡がれた言葉だとは思えなかった。手紙につらつらと並べられていたのは目を塞いで走り回りたくなるほどの麗句達で、全肯定というか、なんというか、その、今まで言われたこともないような__僕を口説く気なのと思わず言いたくなるような、そんな恥ずかしさがあった。僕が15歳の時なんて、可愛いとか、綺麗とか、君のことが好きだ(...そんなこと言われてないけど)なんて、とてもじゃないけど言えなかった。手紙でもそれは同じだ。今言えって言われても恥ずかしい。
    やっぱり外界と隔てられた世界にいれば、必然的にそうなるのだろうか。それとも単純に、彼の性質的なものがそうさせているのだろうか。どちらもあり得ると思った。天使だと思っていた彼は、どうやら王子様でもあるようだったから。
    流れるような慣れた草書体。彼の異質とも言える──貴族のような不思議な雰囲気は、文字からも漂っていた。目に入るのは、さらさらと紙の上を走る薄く優しい筆跡と、柔らかな言葉遣い。普通の紙であるはずなのに、まるで羊皮紙にでも画かれたような上品さに、いつまでも見とれてしまう。
    僕はなんとなく便箋を裏返してみた。そこに何やら細やかな模様が描かれていることに気付く。よく見たくて、部屋を暖かく照らす人工的なルームライトにそっと透かしてみると、繊細な葉脈のように美しい細工が浮かび上がってきた。花園...だろうか。色々な種類の美しい花々が咲き乱れる姿は、なんというか...彼に良く似合うと思った。
    まだ歳若い少年のように赤くなった顔も冷めやらないまま、返事を書くために手紙をもう一度表へと返す。
    その時、ふと鼻を何かが掠めた。
    ───薔薇の香り?
    香でも焚いていたのか、それとも彼自身のものなのか判断のつかない、手紙から薫る...少し甘いが、あくまで自然な薔薇の香り。それは麗しい手紙の装飾や細密な筆跡と恐ろしいほど噛み合っていて、さながらひとつの美術品のようだった。
    ──もしかしたら彼は、薔薇が好きなのかもしれない。


    それから僕はすぐに手紙を書くのに取り掛かった。それはそれは丁寧に書いた。一度目もかなり時間をかけたけれど、二度目はその倍ほどかかった。思ったより彼が手紙で饒舌だったので、僕も同じだけ返そうとしたから、文章自体も長くなってしまった。
    書き終わった手紙を極めて殺風景な封筒に入れ(これしかないのだから今は仕方がない。次からはもっと趣向を凝らしたものを用意しようと思う)、彼の真似をして、表に「S.I」と頭文字を記す。
    僕のこの拙い手紙を。遠くにいる顔も知らない彼がそんなに楽しみに待ってくれているのなら、それに越したことはないと思った。


    __________


    彼からの手紙は、大学へと送ることとなった。
    実の所を言うと、本当は渡したくなかった。いや...あくまで享受から頼まれている身なんだし、僕の私情で交換している訳でもないんだから、渡して研究資料にしてもらうのは至極真っ当なことなんだけど。それでも彼の言葉をなぞって見ていると、どうしても──彼の素直な心を、ただのデータとして扱って欲しくないと思ってしまったのだ。
    ─秘密にしたくなった。でもそれが不可能だということも、きっと彼は分かっているのだろう。
    だから僕はせめてもの抵抗として、本当は禁止されていた、彼からの手紙のコピーを家で複数枚取っておいた。これくらいなら罰は当たらないだろう。安いコピー機で印刷された手紙は暖かさが抜け落ちてしまったみたいに色褪せて見えて、あの美しい花園の細工も、彼の優しさを形作るような柔らかい筆跡も、甘やかな薔薇の香りもしないことが、やはりどうしても気がかりだった。

    つづく
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