空却くんとキスをしながら色々考えてしまう夢 ソファの真ん中に座ってスマートフォンを触っている空却と、その下のローテーブルでスマートフォンを触ってる私。空却は動画でも流しているのか、誰かの声や何らかのBGMらしき音が聴こえる。自分の手元の画面を見るのにも飽きて空却を向くと、じっとスマートフォンを眺めている。
「空却」
「んー?」
「ちゅーしたくなった」
「……んじゃこっちこいよ」
「空却の右側と左側どっちに座ったらいい?」
「どっちでも良いから早く座れよ、拙僧もしたくなった」
要望を出したら乗っかって同調してくれた。やった。適当に隣のスペースに座る。空却も空いてる側へ寄って二人でくっつく。空却を向いて目を合わせて、緩んだ口元を見てから目を閉じる。空却の唇が触れた。空却とキスをすると空却の唇って柔らかいんだなあと改めて思う。短い髪のつんつんした毛先も、私よりよっぽど分かりやすく現れている筋肉も、身に付けている装飾品も、外見的な特徴はどれも硬さをイメージさせるのに、唇に触れればこんなにもふにっと柔らかい。たまに指で空却の唇を触ることもあるけど、指よりも唇で触れたほうがより柔らかさを感じる。
唇を食む動きの中で空却の口が開いたような気がしたから、応えるつもりで舌を動かして空却へ伸ばした。でも、空却はそういう唇の動きをしただけだったらしい。こちらに入って来ようとしていたわけではないみたいだ。空却の唇を私の舌が撫でて、もっと触れたいって急かしたような、誘ったような、そういう流れになってしまった。それは不本意だった。私からそうやって先に触れることもあるし、もしあとちょっとこのまま続いたら私から触れてたかもしれないけど、今のはそういうんじゃなかった。空却はどう思ってるだろうか。私が早く触れたがってるって思わせてるかもしれない。それがきっかけになってか、空却の舌も私の唇に触れて来たので、こちらへ入って来る舌を迎える。キスそのものを誘ったのは私なのに、別に何の問題もないのに、そこは私が誘ったんじゃないもんって言い訳したくなる。もしかしたら空却は結果的に私が先に動いた形になったということに気付いてすらいないかもしれないのに、無性に気になってしまう。
私が集中し切れていないことを感じ取ったのか、空却は唇をそっと離した。
「……なあ」
「……ん、?」
何考えてんだ、どうしたんだ、気になることでもあんのか、……空却が言いそうな言葉が、このわずかな時間で頭の中をめぐる。
「焦ってんのがバレバレなんだよ、ちゃんと考えてること分かってっから安心しろ」
「……え、うん」
「今更何でそんなところで恥ずかしがってんのかは分かんねーけどな」
「う、……だって、なんか私がすごくがつがつしてるみたいじゃん」
「そんなもんマジでがっつかれたとしても興奮しかしねーっつの」
「でも今のは違うもん」
「舌入れんの嫌だったか?」
「それは全然嫌じゃなかったけど」
「ならいいだろ」
空却は私の気持ちとか思ってることを全部分かってて、言い方は率直過ぎるけどあやされてるみたいだ。空却のこの察する力がこんなにも発揮されるのは、私に対してだからだったらいいのにって欲張りなことを思う。
「つーか続きしてーんだけど」
「……うん」
今、目を合わせたらいつものキスよりどきどきしてしまいそうだ。こんな気持ちも見透かされてるだろうか。空却の顔が近寄る気配を感じたから、目が合ってしまう前に慌てて目を閉じながら自分の顔を空却に向ける。空却が喉で笑っているような気がしたけど、知らないふりをした。