登別の幽霊登別の温泉に幽霊が出ると言う噂。
明治時代に療養していた軍人の霊が誰かを待っている。顔に大きな傷のある、恐ろしい幽霊らしい。
浴衣姿の菊田はそんな話を観光に来た女性から聞いた。
「へぇ、そいつは恐ろしいな」
待ち合わせていたらしい女性は軽く会釈してぱたぱたと旅館の出口で待つ友人の元へ駆けて行った。
誰と話してたの?
なんかナンパ?イケおじだったよー
そんな人いたー?
「とは言っても中々出会えないもんだ。いい加減、全身ふやけちまうぞ、有古よ」
──また一緒に温泉入ろうな
湯船に浸かりながらか細い月を見上げる菊田。
いつかまた温泉に行こうと言ったあの日を、ぼんやりと思い出す。
すると湯煙の向こうから姿を現す大きな影がひとつ、有古だった。
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