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    akari

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    じんとおきつね🦊やまと雪。

    ##迅嵐
    ##おきつねパロ

    おきつねとゆき(2)「は〜つっかれた!」
     ざくっとスコップを雪にさす。いや本当に疲れた。めずらしく降ったと思えばこのドカ雪である。おれが住んでいる場所は早めに除雪が入ったのもあってさほど影響がなかったのだが、もしやと思って寒い中重い腰をあげ、神社を訪れたところほぼ巨大なかまくらになっているようなありさまだった。
    「迅、ありがとう!おかげですっきりした」
     神社の中からおれの働きを見守っていた嵐山が頭を下げる。おれが雪かきをするのを見て「手伝うぞ!」とはりきっていたのはいいものの、子狐の姿じゃこの大雪の前では無力である。参道の雪に足を踏み出したとたんずぼっと腰まで埋まっていく嵐山を救出するのがおれの一番最初の仕事になった。
    「おまえんちなのにあんな雪まみれでよく過ごしてたね」
    「ここに来るひとは少ないから雪かきなんてすっかり忘れてた。俺たちにとっては自然とはこういうものだから」
    「なるほどなあ。わざわざ雪かきなんてしないか。寒くないの?」
    「ああ、今は冬毛だからな!」
    「確かに前よりもこもこしてるかも」
     嵐山の三角耳がぴこぴこと動く。耳もしっぽも最初に会ったときよりボリュームがある気がする。耳としっぽがなければただのひとの子どもにしか見えないのだが、いったい体のどこまでがもふもふなのだろう……というおれのどうでもいい疑問は置いておく。
     雪で湿った縁側に座ると一度中に入った嵐山が温かいお茶を運んで来てくれる。
     ……うん、あったかい。ほう、と息をつく。さびれている神社にお湯を沸かす設備があるようにも見えないけれど、そこはそれ。ひとに化けられる狐なのだから不思議なちからを持っていてもおかしくない。
    「熱くなかったか?」
    「うん、ちょうどいい感じ」
    「よかった!お客さま用のとっておきのお茶なんだ」
     ごきげんに言って嵐山も大きい湯のみを傾ける。おおきな銀色のしっぽが楽しそうに左右に揺れていた。
     魅惑のふわふわ。好奇心に抗えず、おれは中身を飲み終えた湯のみを縁側に置いて、同じように湯のみを置いた嵐山をちらっと見る。
    「……嵐山、あっち向いてくれない?」
    「? いいぞ」
     言う通りにくるんと方向を変えてくれる。目の前でひょこひょこと揺れるしっぽにおれは顔を近づけた。
     もふっ。もふ、もふ。
     ……うわ、あったかい。すごい。コート要らないかもしれない。
     顔を埋めた銀毛は見た目よりも柔らかく、綿のたくさん詰まったクッションみたいにふわふわしていた。頬を擦ってみてもきもちいい。
     ひゃっ、なんて声が聞こえたような気もしたけど、とりあえず後回しで。
    「あ〜ほんとだ……おまえこんなにあったかいんだ……なんか香ばしいにおいする……」
    「じ、迅っ……!」
    「ん?」
    「そんな、だいたんな……」
     顔を上げる。嵐山は耳をぴんと立てて、口をわななかせながら振りむいた顔を真っ赤にしていた。
    「毛並みを整えるのだって家族やつがいしかしないのに、そんないきなりしっぽに顔を……においまで……」
     恥ずかしそうに小さな手で顔をおおっている。おれはなんらかのことが起きているのにようやく気付く。
    「ええっ? その、ごめん! 知らなくって、いや、いきなりしっぽになんかしたら怒るよなそりゃ!」
     嵐山はぷるぷる体を震わせている。めちゃくちゃ怒っているかもしれない。一瞬最上さんの顔が頭をよぎった。
    「……せきにん」
    「せきにん?」
    「だから、俺と迅がつがいになれば解決ってことだ!!」
    「お断りします」
     勢いに弱いおれでもさすがにこれには流されません。ガーンという文字が後ろに浮かびそうな顔をして嵐山はあんぐり口を開けている。これ前にもあったな。
     さーて雪かきの続きでも、そう思ったおれの腰になにか重みが飛びつく。
    「嵐山、動きにくい。まだ雪かきできてないとこあるから」
    「迅がいいって言うまで離さないぞ」
    「じゃあこのままやろうかな。今の嵐山なら軽いし」
    「む、このまま大きくなってもいいんだぞ」
    「できないでしょ。神社雪塗れだし、まだ掃除できてないし」
     図星をつかれた嵐山はまるく大きい新緑のしずくみたいな瞳を潤ませて無言でおれを見上げてくる。三角の耳をたらしたそのかわいさにとんでもなくわるいことをしたような気になって心が揺れる。
     いずれなるのなら今なってもいいのかも……という気持ちになりかける。いや、小声でせきにん……って言ってるな。ちょっと怖い。
    「種族のあいだの壁とかいうわけじゃないけど、人間には人間の順番があるんだよ。いきなりつがいとか簡単にできるわけじゃない」
    「でもじいちゃんはそういう人間も居るって言ってたぞ? 結んだふたりがかけおち?のためにうちに祈りにくることがあるんだって」
     まさかの歴史である。ここの神社はそういうご利益があるんだろうか? まあでも、そのとおり。そういう人間もいる。
    「あー……いやまあ、そういう人もいる。世の中いろんな人間がいるから。……だから、おれは順番を大事にしたい人間ってだけ。そういう関係になるかはともかくおまえんちの管理人なんだから、まずはお互いのことを知るところから始めたいっていう、おれの気持ち。おれも引き継いだばかりで管理人のこともわからないことばっかりだしな」
     嵐山の頭を撫でると、ぱっと腰から腕が離れる。
    「つまりお見合いから始めたいってことだな」
    「なんかおまえの知識偏ってない?」
    「わからないけど、生まれてからずっとこの山にいるからかな」
    「ここに? 降りたことないの?」
     嵐山が不思議そうに頷いた。山から出たことがないなら、狐の仲間やこの山に訪れた誰かからもらう知識がすべてなんだろう。互いを知って、互いを教えて。もしかしたら、この嵐山という狐と関わることは重大な責任が伴うことなんじゃないか。そんな予感が、なんとなく心の内にわいてくる。
    「おれはそうしたいって思うんだけど……おまえはどうなの? 狐にも狐の事情があるんだろ」
    「……うん。迅がそうしたいなら、俺もそうしたい。迅のことたくさん知りたいんだ」
     好きだから。そう明るく笑って、今度は立ち上がったおれの背中に飛びついてきた。
    「よし、雪かきの続きだ!」
    「え、背負ったまま?」
    「軽いんだから大丈夫だ! 俺は後ろで応援してるぞ」
     ちょっと前の自分の軽口を拾われてしまった。明日は筋肉痛だろうなあ。
    「わかったよ、ちゃんとしがみついてて。落ちたらまた埋もれるよ」
     うん、と嵐山が言う。背中にぽかぽかとした体温を感じながらおれは再び雪の舞い始める空を見た。
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