花のそよぐ日 薄桃色の花雨が、嵐山の前を歩いていた迅へと降り注いだ。桜並木が大きく揺れて、空も地面も巻き上げるような強い風と共に視界が遮られる。溺れるような花の中でも、彼の着る鮮やかな青色はよく見えた。
「はあ。すごい風だったな」
「迅、すごかったぞ。花びらに包まれてるみたいだった」
「ほんと、息したら花びら吸い込むかと思ったよ。見て」
迅が嵐山の目の前で閉じ込めるように合わせていた両手を開くと、手の中からいくつもの花びらがこぼれおちて風に乗った。
長くとどまっていた冬の気配はようやく去り、暖かな春がやってきた。嵐山が迅の微笑ましい行動に笑っても、もう息は白くならない。
「なんだか動いてるなとは思っていたけど、花びらを捕まえてたのか」
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