30話で見たはずの王宵判断力がずば抜けていて思い描くのとほぼ同じように身体を使える。彼の運動神経の良さと勝利を信じて王城は地面からいつもより高い位置にいる宵越を見つめていた。
この勝負は絶対に宵越が勝つと最後まで疑わず、その想いの通りに激しい攻防の末に安堂のハチマキを勝ち取った彼は、ソレを強く握り締めて高く掲げる。
あたりは熱狂と興奮、そしてそれらを含んだ歓声に包まれていた。
宵越は手の中の戦利品を確かめてから、周りと同じように興奮する水澄や伊達、満足した様子の井浦とそしてその後ろから嬉しそうに見守っていた王城へと視線を向ける。
勝って当然というような表情で掲げた拳を勝利の証と一緒に見せつけてくる宵越に、王城はにこりと笑って「信じてたよ」とつぶやくように伝えた。
普段話すよりも小さいその声量では歓声の中でかき消されて聞こえるはずもないのだが、途端、彼は目を細めてとても誇らしげにそして嬉しそうに笑って見せる。
それが誰に向けてなのか、何に対してなのか、どれも傍目にはわからないものだったが、ただ「知っている」と動いた唇から王城はそれが自分に向けてのものだと確信した。
『そんな顔、ここで見せちゃだめだよ』
体育祭は大いに盛り上がりそれこそお祭り騒ぎとなっている今、もう宵越にばかり注目が集まっている訳ではないというのがせめてもの救いだった。
王城は、ちゃんと2人きりの時に言えばよかったと後悔をしながら、とりあえず今は後輩たちをめいっぱい褒めて感謝の気持ちを伝えようと切り替えて彼らの元へと向う。
「部長」
「なに?宵越く……」
宵越が握りしめていたハチマキを王城の胸の前に突き出し、とってきたぞと押し付けた。
とっさのことに王城は両手でソレを受け取ると、ほとんど反射に任せて礼を言いながら宵越を見上げる。
彼はもう一度、先程のように誇らしげで満足気で、しかしどこか勝利を喜んでいる時とは異なる表情を見せた。
色素の薄い髪の毛が太陽に透けて輝き、その美しさを王城は一身に浴びて、これは自分だけに向けられる自分だけの特権だと理解する。
『……まあ、見られるくらいならいいか』
それと同時に産まれた余裕と優越感に、先程の独占欲に満ちた心境は薄れてむしろ見せつけてやりたいとすら思う。
宵越の表情ひとつで正反対に変化した気持ちを、王城は我ながらどうしようもないなと一笑した。