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    フォロワー!久しぶりに舞台設定の基盤以外を新規で立てて創作したから見て!!
    (舞台設定・組織設定等は2014年には存在していたらしいです)

    #FC一次創作リレー
    fcPrimaryCreationRelay
    ##私性とレプリカ
    ##レプリカ本編

    荒唐 この世の全ては代替可能である。人は忘れ、成長する生き物である故だ。誰かが死んだからといって生を投げ打つ人間もいないことはないが、皆が皆そうではないと現代の社会が証明している。人が一人死んで、世界に影響を及ぼす可能性というのは限りなく低いし、それが永遠に残る傷跡になる可能性はゼロに等しい。
     だから『調整』に情を抱く必要は無い。人は何れ前を向き、死体は忘れ去られるのだから。
     それが、『荒唐』という組織で唱えられている思想に基づく理屈だ。この思想を受け入れていても、そうでなくとも、ここで呼吸をするには必要な思想である。大抵荒唐の下で生きていく者と言うのはそれしか選択肢を与えられなかった者たちであり、これを選ばなかった場合に残る選択肢は死であると推測される。
     しかし、この世で最も許されがたい人の死とは憎むべきものが物質としてある死である。自然災害であれば人間は地球という星に逆らえない故に悲しみが主に残るが、兵器による蹂躙や病を産む生命体、それから殺人は対象があるが故に怒りや恨みを引き起こす。荒唐が行う調整というものもこの殺人に該当する故に、喪った故人を強く悼み、そして荒唐というシステムを恨むだろう。
     ではどうするのか。
     手っ取り早いのは荒唐に反する人間を、調整対象諸共殺してしまうことだろう。しかしそれでは無意味な死体が増えるだけであり、調整という目的にも反する。成長を行えるような人間はシステムに無意味な反逆をせず、そのまま前を向いて世界を歩いて行くだろう。
     それ程までに強くない人類たちの為に、穴埋めを行うことも荒唐の構成員の仕事だ。多くは知人を失った対象に接近し、友人や恋人となることにより傷を癒やし、調整で失った人間を過去にすることが目的とされている。この責務により荒唐の仕事が続かなくなってしまう前に、構成員は誰かを攫って教育し、後釜とするのだ。
     荒唐のシステムで世界はつつがなく回っている。貧困や困難に喘ぐ者はシステムに組み込まれるか、殺されるかのいずれかであった故だ。後には程々に幸せな人間たちと、傷を癒やされる人間に二分される。密やかに回る幸福の管理システム。存在を勘づく人間こそいるが、大抵はお目溢しをしているシステム。
     荒唐に従わざるを得なかった人間の一部以外は、幸福な世界。
    「この人は何をやらかしたのかな」
     男は横たわる死体の側で、死体の指紋を使って端末を見ている。本名で危険思想を発信する人間はそう居ないものだが、張本人の情報ツールの痕跡を調べてしまえばそんなことは関係ないのである。勿論男の上長は何をしたかなど把握しているのだろうが、その下働きである彼に知る権限は与えられていない。
    「んーなるほど、お題目はサギか!」
     死体はどうやら情報教材系の詐欺を行っていたようだということが、端末から理解できた。正直な所調整の実行者である彼もさして殺人が快楽という訳でもないらしく、何が理由で自分に殺される羽目になったのかということを知るのは、彼の数少ない業務における楽しみである。
     荒唐に目をつけられる程というのは、広まってしまえば社会に大打撃を与えることになりかねない規模である。司法は何をやっているのかと憤る人もいるだろうが、その司法でどうにもならない部分を恐らくこのシステムが担わされているのだろう。
     冤罪だったらお上はどうするのだろうか、などと他人事のように彼は考える。これまで『楽しみ』で得た調整対象の前科は幸運か一見して真っ当な悪の手段であったが、次もそうであるなんて保証は彼からすればないようものなのだ。もしそのようなことがあれば、荒唐は恐らく平和のための調整などという名目を二度と名乗れないだろう。
     これこそ下働きである彼には思考するだけ詮ないことである。しかし人間は思考する生き物であり、彼も人間を辞めた覚えはない以上物思いにふけてしまうこともあった。反逆せず思想に従っているふりができるだけ許されたい。
    「まあ、調整遺族充填科の人よりかは幸せなのかな。 相手と性格が絶対に合う保証はない訳だし」
     調整実行は、人殺しに耐えがたい苦痛を覚えなければ対話相手は殆ど遺体であるためそういったストレスは少ない。人殺しに耐性があって良かったと、果たして思って良いのかは判らないが。
    「さて仕事終わったし遺体の証拠写真を撮……」
     突然、がたりと背後から物音がする。ここは調整対象の自宅であり、タイトルとしては自殺である。自宅である為に幾ら人目を避けた時間帯であったとしても、誰かと遭遇する可能性はゼロではない。
     男はすかさず振り返り、対象の腹部に刺していた獲物を引き抜いて物音の方向を見る。この様な状況に陥った場合に相手に与えられる選択肢は二つ、後継者となるか死ぬかである。たとえ子供だろうがその選択肢は変わらない為、どうか赤ん坊か物分かりが良い大人であればいいと彼は願った。
    「ひっ……」
    「……ついてないな。子どもで、しかも女だ」
     戦慄いた口元から漏れた悲鳴の音域が高い。更に言えば胸部に膨らみがあり、髪は長い。成人しているなら整形という手段もあるが、まだ幼さのある顔付きからしてそれも無いだろう。間違いなくそこに立っていたのは10代半ば以上の少女であった。
     幸い男に後継者は居ない。過去に存在してはいたが、人を殺すのは恐ろしいという理由で充填科に異動し、荒唐の役割から逃れていた。正常で宜しい事だが、彼の仕事に後継者が居ないのは思想から外れてしまう故、少し困っていた。
     この際性別は問わない。子どもに殺しの訓練をさせることは心苦しいが、罪のない子どもを無為に殺す方がもっと辛いことだということを男は知っていた。
    「俺と一緒に来るか、ここでこの男と一緒に死ぬか、どっちが良い?」
    「……えっ」
    「悪いけどそういう決まりでね。卑怯になりたくないから話すけど、俺と一緒に来た場合は俺の仕事が引き継げるように訓練してもらう」
     言葉を発しながら、男は内心自嘲する。エゴで今後の展望を明かすことがなければ、命惜しさについて来る可能性は今より低くならなかっただろう。分かっていながら言ったのだから、本当にただのエゴでしかない。ナイフの切先を少女に向けて、再度問う。
     少女は暫く男と死体を交互に見遣っていたが、ナイフが自分に向けられたことをしっかり認識したようでひくりと肩が動いた。このまま少女が狂乱して逃亡などを行っても殺す予定である。どの結果でも受け入れ、行動することが何度も出来た己が男は恨めしく思えた。
    「……一緒に、行きます」
    「そっか」
     少女は震えた身体ではあったが、瞳は揺らめかず真っ直ぐに男を見つめていた。これは命惜しさの選択ではなく何かしらの意思決定があったのだと、彼にも見て取れた。決意あれど殺人を実践できるかは別として後継者として多少は素質があるだろう、その意を込めて彼は頷いた。
    「じゃあ、そういうことで宜しくね。 君の名前は?」
    「百世」
    「モモセね、俺は飛雨」
     赤い飛沫の飛んだ、飛雨と名乗った男の表情には不釣り合いな手が百世に差し伸べられる。お互いの手は冷え切っており、これからの関係性を祝するものにしては血が通っていなかった。
     百世は握ったその手を、不必要なまでに強く握る。飛雨がそれに眉間を僅かに寄せたのを見て、彼女は漸く余裕ありげな笑みを浮かべる。
    「勘違いしないでくださいね、飛雨さん」
     百世は返事をした時の目の強さそのままに飛雨を射抜いた。天敵を目の前に威嚇する獣のような、生命力溢れる鋭い淡褐色の瞳が一体何を持ってして泣き叫びもせずに相対しているか、彼には分からない。
    「いや、これから教わるんだから先生の方が良いですか?」
    「どっちでもいいよ痛い」
    「痛くしてるんです」
    「やっぱ嫌んなったの? なら殺すしかなくなるんだけど」
    「違いますよ」
     百世は要領を得ない様子の飛雨を見て笑みを深める。何処までも怪訝な顔をして自分に気圧されないのが少々腹立たしくも思えたが。
    「私が先生の後継者になるのは、先生を殺す為です」
    「ああ、仇打ちってこと?」
    「ええそうです、気に食わないなら今すぐ私を殺したっていいんですよ、それでは調整の大義名分が成り立たなくなってしまうでしょうけど」
     飛雨からして少し低い位置にある顔が得意げだ。しかし百世の目には確かに天敵に睨まれた弱者の怯えをも宿しており、彼女からしたら大きな賭けであろうことが伺えた。
     これだけ肝が据わっている方が将来頼もしいかと、飛雨が抱いた感想はそれだけであって、百世の思惑に乗ってやる気なんてものはただの一つもないのである。
    「君がきちんと俺の後継者を出来るならそれで構わないよ」
    「……は!?」
    「その様子だと知ってるんでしょ? 荒唐の思想」
    「……『この世の全ては代替可能である』、本気でそう思ってるの?」
    「そう思わなければ生きていけなかったんだよ」
     正しくは彼女の思惑に乗ってやることはできない、と記した方が正確だろうか。
     百世が飛雨の後継者を務めることができるならば思想を表すことになる。飛雨を殺したきり従わなければ他に殺されてしまうか、脅迫の末無理矢理従わせられるかのどれかであって、どれであったとしても飛雨自身が苦に思うことはないのである。ただ飛雨に仕返しをしたいのならこの場でむざむざと殺された方が余程効くだろうが、それだけの為に自らの死を選ぶ程恨みを彼女に積んだ覚えはない。
     百世もまた、既に荒唐の下で息づくことしか許されない存在と成り下がってしまったのだ。
    「……気持ち悪」
     唾棄している、と形容するに相応しい表情だった。飛雨からは感情のない渇いた笑いだけが投げ返された。
    「でも百世も今後は少なくとも従うフリくらいしなきゃ」
    「それが出来ない程バカじゃない」
     虚勢を剥がされ、拗ねた年頃の少女の顔をした百世に今度こそ飛雨は可笑しそうに笑う。
     この世は彼らに優しくない。彼らの扱いは、外面的な国家の幸福の為に虐げられる奴隷層のようなものでしかない。しかし飛雨はうら若い少女を殺さずに済んだことにこの場では安堵し、また後継者候補を得た喜びを密かに感じていた。
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