Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    merino

    @guiltysheep

    ラクガキ置き場。好き勝手描いてますのでご注意。
    タグの魔法使いさんはよその子。
    Link:https://guiltysheep.wixsite.com/guiltysheep
    SUZURI:https://suzuri.jp/guiltysheep

    ☆quiet follow Yell with Emoji 😊 💕 👏 🐏
    POIPOI 429

    merino

    ☆quiet follow

    夢見る夜に灯をともして(2)「う…」
    灯りの落ちた薄暗い部屋に、ネイトのうめき声が響く。
    彼の表情は強張り、額からはびっしょりと汗が流れていた。

    「やめてくれ…」
    ネイトの目の前に、花柄のワンピースを着た女性が立っていた。
    クスクスと笑ってはいるが、その顔はぼやけていてよく見えない。

    「なんで…」

    掠れた声でつぶやく。
    いつの間にか、女性の横に寄り添うようにして男性が立っていた。


    「兄貴…なんで…」

    膝が震え、前に進めない。
    ネイトは二人に向かって手を伸ばす。
    けれど、その手は空を切り、届くことはなかった。

    「なんで?」

    先ほどまで笑っていた女性の表情が変わる。
    その目が、まるで蔑むようにネイトをにらみつけていた。
    口から放たれた声は、あまりにも冷たく響く。

    「全部、あんたのせいでしょ?」

    女の腕がゆっくりと上がり、ネイトを指差す。
    その指の赤いネイルが、闇の中でひどく浮かび上がって見えた。
    ネイトの顔が歪んでいく。

    「俺が……何を、した?」
    その問いに、二人は答えない。

    「なあ!!!!!」
    大声を上げた瞬間——

    「はっ…」
    ネイトは目を覚ました。
    静まり返った部屋に、月明かりだけが差し込んでいる。
    荒い息を吐きながら、跳ねる心臓の鼓動が胸の内側を叩くように痛む。

    「あ……あれ……僕……」

    上体を起こし、辺りを見回す。
    誰もいない。
    ため息だけが部屋に響いた。

    「なんか……嫌な夢を見た気がする」

    呼吸を落ち着けてから、ベッドを下り、窓の外を見る。
    月明かりが小屋の周りの木々をやさしく照らしている。

    夢の内容は思い出せない。
    ただ、胸の奥の不快なざわつきだけが残っていた。

    外に何かが動いた気がして窓を開けると、そこにはルアナの姿があった。

    (夜中なのに……また出かけるのかな?)

    なぜか落ち着かず、ネイトはルアナのもとへ足を速めた。

    玄関を出ると、ルアナがそう遠くない場所で何かを籠に集めていた。
    どうやら集中していて、ネイトの存在には気づいていない。

    「ルアナ。どこかに出かけるの?」

    ネイトに声をかけられたルアナは、ゆっくりと振り返る。

    「おはよう、ネイト。よく眠れたかしら?」
    「あ……うん。おはよう? でも……変な夢を見たみたいで、目が覚めちゃった。あんまり覚えてないんだけど……」

    ネイトがそう言うと、ルアナは少し不安そうな顔をした。
    出会ってからほとんど表情を変えなかった彼女の変化に、ネイトは内心焦る。

    「あー、でも……ほら。まだ夜だし、朝まで寝直そうかな~とか……思ってて……」

    その言葉を聞いたルアナは、近くの低木から葉を数枚ちぎり、しばらく眺めた。
    それから、ためらうように小さく呟く。

    「朝は、来ないわ」

    少しの間を置いて、言葉を続ける。

    「この世界に、朝は来ないの」

    ネイトには、何を言っているのかよくわからなかった。
    夜のあとに朝が来る。それが“普通”だと思っていたから。

    「あれ……? そうだっけ? 記憶がなくなってるせいで、勘違いしたのかな……」

    そう呟くネイトに、ルアナは静かに答える。
    「そうね。きっと、どこかで見た物語と記憶が混ざっているのよ」

    籠が葉でいっぱいになったのを確認したルアナは、それを抱え、ネイトに近づいた。

    「お茶でも飲んで、一息つくといいわ。さあ、戻りましょう」
    「あ……うん。あ、籠持つよ」
    「……ありがとう」

    歩き出すルアナのあとを追いながら、ネイトは空を見上げる。
    浮かぶ月を見て、彼は心の中でつぶやいた。
    (ルアナが言うなら……きっと、そうなんだろう)

    「あら……灯石がないわ」
    軽く朝食を済ませてしばらく経った頃、ルアナがそう呟くのが聞こえた。

    「灯石?」
    聞き慣れない言葉に気を引かれ、ネイトは様子を見にルアナのもとへ寄った。
    ルアナの手元には大きな瓶があり、中には透きとおるオレンジ色の石が数欠片入っていた。

    「ランプに入れるのよ。明かりになるの」
    ルアナは石を手に取り、横に置かれたランプの中に入れてから、ふっと息を吹きかける。
    不思議なことに、石はやわらかくあたたかな光を放ち始めた。

    「使っていると、少しずつ小さくなって、やがて消えてしまうの。
    そろそろ採りに行かないと……ほかにも、いろいろ補充しておいたほうがいいかもしれないわね」

    ランプをのぞき込んだあと、空の籠に空き瓶を詰めていく。
    それから籠を片手に持ち、ネイトの方を振り向いた。

    「少し留守番を頼んでもいいかしら。それとも……一緒に行ってみる?」
    「えっ……?」

    突然の提案にネイトは一瞬戸惑ったが、少し考えた末、
    残っていても何をしていいかわからないと思い、ルアナの提案を受けることにした。

    どれくらい歩いただろうか。
    森の小道を進んでいくと、まわりの植生が徐々に変わっていくのがわかる。
    木々は大きくなり、さっきまで見えていた夜空は枝葉に覆われて見えなくなった。

    月明かりが遮られ、辺りはさらに暗くなる。
    ルアナは持ってきていたランタンを手にし、道を照らしながら歩いた。

    そして、足を止める。
    「ここ……?」

    ネイトも立ち止まり、周囲を見回す。
    見たことのない植物が辺り一面に生えていた。
    静まり返った暗い森は、どこか不気味に感じられる。

    「ちょっと……こ」
    「しっ……!」

    「ここちょっと怖いな」と言いかけたところで、ルアナに制される。
    「えっ……?」

    「ここから先は“言霊の森”。言葉は常に力を持つもの。
    この森でこぼれた言葉は……形になるの」

    「どういうこと?」
    ネイトは不思議そうな顔でルアナを見る。

    「そのまんまよ。人を傷つける言葉は刃になって、癒す言葉は傷をいやすこともある」
    「だから、この先ではむやみに言葉を使っちゃだめ。
    その言葉が、何に“変わる”かわからないから……」

    ルアナの言葉に、ネイトはグッと口を閉じた。
    それを見て、ルアナはふっと微笑む。

    「別に、話しちゃいけないってわけじゃないんだけどね」
    「とりあえず、進みましょう」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works