パチリ、そんな音がしそうなくらいぱっちりと目を開けて体を起こした。外はまだ暗い。けれどあと少しで空が徐々に明るくなってくるだろう。布団を畳み、鉢巻を頭に巻いた。
息を吐きながらじんわりと熱い自分の腕を触った。もう夏が始まっている。そこまで寝苦しくないとはいえ、最近はかなり暑い日もあって川で泳ぐ事が多くなって来た。その疲労感から夕飯を食べて片付けてからすぐ寝るようになったが、相変わらず隣にいる金髪の少年はギリギリまで眠り続けていた。
「ケン、起きろ」
顔を覗き込みながら未だ眠りこけている男に声をかけた。眉をピクリとも動かさない。まだ深い眠りについているようだった。リュウが布団を引き剥がしても大の字のまま寝息を立てている。疲れて泥の様に眠る事は悪く無いが、ここに来てから早起きしたのは初日だけだった。
毎日起こすのはリュウの方だが、未だケンに起こされた事はない。別に起こされなくとも自分で起きてしまうのだが、たまには早く起きてくれないだろうかと暗闇の中何度も思った事がある。
「そろそろ起きないと、…また師匠に怒られるぞ。」
リュウが困った様に眉を下げながら腕を掴んで揺さぶるが、全く起きる気配が無い。いつもなら一人で出て行くけれど、今日は放っておけない理由がある。隣に引き剥がされた布団を畳みつつ、声を掛け続けた。
「…ケン…今日は朝食を一緒に作るって言ったじゃないか。」
「ん……」
起きたかと思ったら添えた手を掴んで離さないだけで、瞼が開くことはなかった。
「もう、先に行くからな。」
きっとまだ眠たくて仕方ないのだろう。それなら仕方無いと思い、立ち上がろうとした。
が、ケンがしがみついてきてそのまま這いずり上がってきて驚いているとすっかり、押し倒されてしまった。名前を呼びながら体をよじるが小さく唸るだけで顔を上げることはなかった。
お腹辺りに顔を埋めて抱きつく頭をそっと撫でながら名を呼ぶとなに、と返事らしい返事が返ってくる。
「危ないぞ。」
「なー…まだはえーじゃん…。」
「いや、もう4時前だ。」
「……まだ寝れるじゃんか…。」
不満そうな声を出しながらのそりと体を起こし、大きなあくびをした。
すると急にじッ…と見つめて来てなんだ…?と様子を伺っていると、ケンが自分の頭をわしゃりと乱し頭を振って両頬を挟む様に手で叩き、勢い良く立ち上がる。
「はーっ!起きる!起きるよ!そんな顔しなくても!」
「…そんな顔?」
自分の顔など分かりもしないリュウが顔を傾けると何とも言えない顔をして口をむにりと指で掴まれた。ケンが顔を近付けて眉をひそめて額をリュウに押し付けてグリグリと動かした。
「な、なんだ」
「寂しそーな顔!大袈裟じゃないぜ、お前結構分かりやすいんだからな。無愛想な癖に!」
「寂し…そんな事は無」
「言っとけ!」
道着に着替えながらぶつくさと言いながら準備をする背中見つめ、呆然としているとズカズカと近寄ってきてほら行くぞ!と腕を引っ張られる。
待っていたのはこっちなんだぞ、と言わんばかりの顔をしたがケンには見られていない。
最初は顔を合わせてもあまり言葉をかわすことがなかったのに、と自分の中で徐々に増える感情を不思議に思いながらケンの後ろを付いていく。
「それで、何作るんだよ?あれか、おにぎり?」
「そうだな、薪を外から持ってこないともう無いんだが…」
「じゃあ俺が持って来て火起こしするからお前は作る準備でもしてろよ」
「でも火起こし苦手じゃなかったか?お前…」
「お前にできるんだから俺だってやれるっての」
「そうか…?火には気をつけ…」
「分かってるよ!」
ガキじゃねぇんだぞ!と怒りながら歩く背中を見つめながら、無意識に口角が上がる。
やっぱりケンには負けず嫌い、という言葉がよく似合う。師匠がそう言っていた意味がよく分かった気がした。