「なー、今日のご飯何?」
「今日はおでんだ、この前大根を貰ったから悪くなる前に使おうと思って。」
「そういえばめちゃくちゃ貰ってたっけか。寒いもんな〜」
鍋の中を覗きながらリュウを背中から抱き締める。今日は師匠が朝から出かけていて、明日の早朝まで戻って来ないらしく、久しぶりに二人きりの夜だった。
もう小さな子供ではないし、山奥とは言えそうそう誰かが来ることもない。余程大きな熊じゃない限り、二人で留守番するのはもう怖い事じゃなかった。
リュウが鍋を持ちながら囲炉裏の方に向かって行くのを見て、慌ててケンが鍋敷きを置いて出来上がった鍋を見つめる。相変わらず、料理は上手なもんだなぁと感心していると箸と器を手渡されていそいそと座った。
「へへ、美味そ〜!」
「美味いかどうかは分からないぞ。」
「そう言ってお前、不味かったことねぇじゃん。…んーいい匂い…。」
寒さに震えた午前の事を思い出すと、今にも風邪が引きそうだ。こんなに温かいご飯にありつけるなんて…と温かさがじんわりと身に沁みている。
おでんを皿に盛り、箸で簡単に割れる大根を口の中に入れると丁度良い出汁の味が舌に広がりながらも熱くて口に空気を含ませながら何度か咀嚼する。
「そんなに急いで食べなくてもなくならないぞ、沢山あるんだからもっとゆっくり…」
「うるへーっ!腹減ってんだよ」
何とか飲み込んでご飯も頬張る。そんな様子を見てパクリとリュウも頬張り、満足そうに頷く。ケンがリュウの方を見ながらそういえば、と口を開いて漬物を箸で摘んだ。
「風呂、どーする?」
「ン…そうだな、汗はかいてないが…カラダは冷えているし温まった方が良いぞ。湯たんぽを出すつもりではあるが…」
「湯たんぽ?あぁ…この前の」
そういえば師匠が湯をなにかの入れ物に入れていたなと思い出す。確かに温かかったし、寝るまで抱き締めていたが朝になって冷えていて少し残念に思いながらも、家では出てこない様な物に嬉しくなったりした。
ただ、それでもリュウの方がくっついてて温かかったよなとも思う。どうしても、触りたい気持ちが止められない時は布団の中に入り込んで抱き着いているがそれを否定された事はない。何なら今日は久しぶりにリュウの布団にでも潜り込んでやろうかな、と思っているくらいだった。
「…たまには一緒に寝る?」
「えっ」
「襖締め切っても隙間風は入ってくるし、でも二人で風呂入ってくっついて寝たらずっと温かいだろ?」
「まぁ…一理、あるか…?」
しっくり来ない顔をしながらも頷いたリュウを見てニヤリと笑う。多分、本人は無意識だろうが初めて一緒に寝た夜寝ながらケンの方に自分から近寄り、潜り込んで来てすうすうと眠っていたのだ。くっつかないと身体がはみ出してしまう位に成長したというのに、そういうところで子供っぽい所が出るのがケンは好きだったのだ。愛おしくて堪らない。ただそれだけなら、良かったけれど結局リュウの長い睫毛、柔らかい唇。触れる肌。全てに意識が持って行かれてしまって次の日は寝不足のまま朝から修行をしたのを今でも良く覚えている。
リュウにはすまない、寝相が悪かっただろうかと謝られたが意識して勝手に眠れなかったのは俺の方だと言えずにちょっとだけな!とリュウのせいにしてしまったのは申し訳なかったが。
「……その、」
「ん」
「お前と寝ると、…寝相が…」
「あー…」
やっぱり気にしてたのか、と焦りのあまり目を逸らしてしまった。寝相は寧ろ良くて悪かったのは自分の方なのに。そう思えば思う程本当に悪いと思っているリュウに申し訳ない。
箸を置いて正座になりながら軽く頭を下げて「悪い!」と言ってちらりとリュウの顔を見てみると?というマークか今にも浮かびそうな表情を浮かべていた。
「どういう…」
「あ…いや、その…。別にお前の寝相は悪くなくて…むしろ良い方だし、悪いのは俺って言うか…」
「そうなのか?」
「う…うん。」
そうか、と頷いてからまた箸を鍋に伸ばして更に入れながらケンの方を見つめて、顔を俯かせて小さくもぐりと口に箸を持って行った。
「…良かった、ずっと寝相が悪くて…嫌になってしまったかと、思っていたから…。」
「えっ」
そういうとリュウが小さく笑って、照れ隠しでもするようにご飯をかき込むように食べ始めた。
一方ケンはというと、ほぼ寂しかったと言われているような気分になり嬉しさのあまり顔を手で多いウゥ…と呻きながら、後ろに倒れてそんな訳ねえだろ〜〜!と叫び、リュウをビックリさせた。
「そんな事言うんだったら毎日一緒に寝ても良いんだぜ…俺はよ…………。」
「なっ、そ…それは、流石に…恥ずかしい、師匠に見つかる…。」
顔を見なくても分かる声音からは照れているのだろうと想像してケンは思わず勢い良く身体を起こし、絶対に抱き締めて寝てやるからなと決意しながらまた熱いおでんを食べ始めたのだった。