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    cola_57380401

    @cola_57380401

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    cola_57380401

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    あまのじゃく


    初稿……?みたいな……
    学パロ軽音部の千ゲがふたりでなんやかんやして楽器触ってお話してるだけ。

    特別教室棟三階、端っこの視聴覚室。
    職員室で借りた鍵をドアノブに突き立て、左に半回転。それを真横に戻してから引き抜いて、ドアを押し開けた。
    むわ、と漏れ出す熱気に、もう九月終わんぞ、と顔をしかめて。壁のスイッチでぱっと点った蛍光灯が、白々しく室内を照らして目が痛い。

    背負ったリュックを机に置いて、窓に黒いカーテンを引いていく。それからエアコンの電源を入れると、ようやく一息つけた。ワイシャツの背中はじっとりと濡れていて、不快感に眉根が寄る。
    適当に机を押し退けて、後ろの方に大きくスペースを取る。五脚の椅子を適当に引っ張り出してから、視聴覚準備室を解錠した。同じようにあふれる熱気が、暑苦しくてやっぱり煩わしい。

    隅に固めて置かれたみっつの楽器ケース。その中でも一際大きな、ロケットの缶バッジがついたものを取り出して抱えた。後ろから、穏やかな声が届く。

    「──ジーマーで、千空ちゃんは自分の楽器大好きね〜」
    「どーも、センパイ。……そりゃ相棒は大事に決まってんだろ」
    「そうだねぇ。……あ、シールド多分しまわれてるよ」
    「おー分かった」
    「探させてメンゴね、シクヨロ〜」

    楽器を抱える俺に話しかけてきた白黒頭の男───三年生、軽音部元副部長の浅霧幻───は、いつもの軽薄な笑みを浮かべながら倒語を操り声を織る。そしてそのまま、奥に置かれたベースアンプに歩み寄って、一瞬息を詰めた後に持ち上げた。白くほそい指に、取っ手が食いこむ。それを横目に見ながら、テスト期間の間に戸棚にしまわれたシールドを探り当てる。

    「ほんと、ベースアンプってゴイスー重い……」
    「ー、低音ガンガンに出すにはエネルギーがいるんでな」
    「そうなんだ?ベースとかさ、低音ってかっこいいよね。弾くの大変そうだけど」
    「そうでもねぇが……弾いてみるか?」
    「んーん、どうせ聞くなら千空ちゃんのがいい」
    「……そりゃどーも」

    ゲンの手で定位置に運ばれたアンプをコンセントに繋いで、シールドを差しこむ。ケースに眠る相棒をそっと引き出して、ストラップで肩から揺らした。重心が、少しだけ前に傾く感覚。シールドのもう片方をベースに接続して、アンプのスイッチを入れる。椅子に腰を下ろして脚を組んで、膝の上で楽器を抱えた。

    適当に弦を引っ掛けてみると、体の芯を震わす低音が流れ出て。心地よさに、ふっと笑みが漏れる。

    「千空ちゃん、チューニングする?」
    「ー、一週間弾いてねぇからな……やっとくか」
    「了解、ちょっと待って〜」

    てきぱきとキーボードを運搬するゲン。
    スタンドの上に楽器が乗せられ、スピーカーやらペダルやらが接続されていく。細く骨ばった指が鍵盤を押しこむと、キーボード特有のうすくて平らな音がした。

    「お待たせ。五弦からね〜」

    ゲンの指先に合わせて、スピーカーから波がうまれる。その波の中、抗うように五弦を揺らした。ぶつかりあった二つの波が、うねりを呼び起こす。特有の不快感が耳を焼いた。
    ペグを巻いて、音高を合わせていく。
    音が波打つようなうねりは、数回弦を弾きつつペグを巻き上げることで徐々に小さくなって消える。最後にもう一度鳴らして、声をかける。

    「次頼む」
    「はーい」

    かけていたキーロックを解除したのか、均一にひびき続けていた電子音が途切れる。同じように別の音を鳴らして、また細い指が動いた。巻かれるたびに弱まっていく、特有のうねりの波。

    そのまま、三弦、二弦、一弦と音高を合わせて。本来の音を取り戻した弦をもう一度、ひとつひとつ鳴らした。

    「大丈夫そ?」
    「、助かった」
    「はーい。……千空ちゃんもう文化祭の曲できるようになった?」
    「一応、ひと通りは」
    「さすがだね〜、全部テンポ速いのに」
    「原曲通りの速さかは知らねーぞ、ただ近いもんにはなってると思う」
    「いやいや、十分でしょ」

    白鍵を指が滑る。薄っぺらな電子音が、ゆっくりと冒頭ワンフレーズを奏でた。

    「俺もさー、一曲ならできるんだけど。どうせなら合わせてみる?」
    「ドラムもギターもなしでか?」
    「テンポなら内蔵のメトロノームでいいし、ボーカルはいるし大丈夫じゃない?」
    「……まぁ、それもそうだな」

    俺が頷くと、嬉しそうにゲンは笑って。冒頭のワンフレーズをもう一度、今度は原曲のテンポで織る。

    「千空ちゃん大丈夫?」
    「、っつってもベースは冒頭ないからな」
    「そういえばそっか。……じゃ、いくね」

    ボタンを押すと、たったったったっ、とメトロノームが鳴った。
    薄いくちびるが、大きく深く息を吸う。吸われた時にはただの空気だったそれは、吐き出される時には美しい音になった。

    『僕がずっと前から、
     思ってることを話そうか
     友達に戻れたら、
     これ以上はもう望まないさ
     君がそれでいいなら、
     僕だってそれで構わないさ
     嘘つきの僕が吐いた、
     はんたいことばの愛のうた』

    ドラムとギターが主役になる間奏は、どちらもいないせいでベースが目立って収まりが悪い。なんでどっちも休みなんだよ、と、思わず舌を打った。

    『今日はこっちの地方は、
     土砂降りの晴天でした
     昨日もずっと暇で、
     一日満喫してました
     別に君のことなんて、
     考えてなんかいないさ
     いやでもちょっと本当は、
     考えてたかも、なんて
     メリーゴーランドみたいに
     回る、僕の頭の中は
     もうぐるぐるさ』

    強がるような歌詞では、むりやり前を向いたように。悩むような歌詞では、声をどうにか絞り出すように。
    声を自在に操って、巧みにいくつもの表現を使いこなすゲン。
    歌が上手い、という次元じゃなく、エンターテイナーとしてひとを惹きつける「なにか」を持った、ふたつ年上の男。

    『この両手から、
     こぼれそうなほど
     君にもらった愛は、
     どこに捨てよう?
     限りのある消耗品なんて、
     僕はいらないよ』

    キーボードの鮮やかな電子音と、ベースの重く残る低音の中。
    ゲンの声が、妙な生々しさを持って俺に刺さる。

    胸が少しだけ、ちりっと焦げたのには気づかないふりをした。



    最後まで歌いきってこちらを見上げたゲンが、ふわりと笑む。

    「千空ちゃん、テンポまで大丈夫そうじゃない」
    「そりゃどーも。……テメーも、随分と完成度高いとこまで持ってってんじゃねーか」
    「もともと好きでよく歌ってたからね〜。それになんかさ、俺っぽいでしょ?この曲」

    嘘つきの僕とかなんかさ、そのへん?

    つぶやきと一緒にこぼれた微笑みがちょっとだけ悲しそうだったから。吹き飛ばしてやりたくて、鼻で笑う。

    「……テメーは、嘘より屁理屈の人間だろ」
    「それ千空ちゃんには言われたくないかなぁ」

    呆れ顔、下がった目尻、細まった目。
    へにゃりと緩んだその顔は、いつ見ても男のものとは思えないくらい可愛らしい。
    現実逃避にテンポを意識しながら曲を追っていると、キーボードから離れたゲンが隣に座った。

    「休憩か?」
    「うん、ちょっとだけ〜。…………左手、そうやって握るの?」
    「、五弦特有のミュートの仕方だ。四弦ベースなんかじゃ推奨されねぇ。こっちを握ることで、薬指と小指の可動域が狭まるからな」
    「へー。……俺より背は低いのに、千空ちゃんって手おっきいよね」

    手首をくっつけて、手の大きさを比べるゲン。女のように華奢なくせに、その指には男らしさが滲む。指同士を絡ませてみたら、こいつは一体どんな顔をするんだろう。
    ひとりよがりのそんな想いを断ち切って、隣に声をかけた。

    「……そろそろ、四時になんぞ。用事あんだろ」
    「あ、ほんとだ。……千空ちゃん、まだ残る?」
    「いや、俺も帰る」

    ただなんとなく、そうしない理由もないから連れ立って帰って。
    擦れ合う手の甲を、時折触れる肩を、わざわざ避ける理由がないから避けないで。
    名前のない曖昧な距離のまま、ふわふわと気持ちだけ、そこに浮いている。

    「……いよいよ、文化祭が本格的に動き出すね〜」
    「あと一ヶ月ちょっとだもんな」
    「もう最後の文化祭かぁ……」
    「楽しかったかよ、高校生活は」
    「楽しかったよ。部活も、そうじゃない日も、いつだって楽しかった。……基本さ、三年生は夏休みからこのテストが終わるまで部活なんか出ないんだけど。うちなんか代替わりしても、ちゃっかり残っちゃってね」
    「っつっても毎回来んのはテメーと羽京だけだろ」
    「まぁそうだけど。……さすがに文化祭終わったら、顔出すのなんかほとんどリームーだね」

    寂しくなっちゃう、と笑うゲン。笑顔に見せかけた、その大人ぶった泣き顔が切なくて、何を言うか決まらないままに彼を呼んでいた。

    「おいゲン、」
    「なぁに?」
    「…………いや、なんでもねぇ」

    縮まらない二歳の差。どうやっても抗えない摂理。
    その間を、なにで埋めればいいんだろう。この男を、どうやって繋ぎ止めたらいいんだろう。

    あの曲が似合うのは。天性の弱虫なのは、きっと俺だ。だってこんなに、ゲンは言葉を連ねてくれたのに。

    「千空ちゃん。……俺は、まだ待つよ」

    全部お見通しなこの先輩に、一体いつになったら俺は、この気持ちを告げられるだろう。
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    特別教室棟三階、端っこの視聴覚室。
    職員室で借りた鍵をドアノブに突き立て、左に半回転。それを真横に戻してから引き抜いて、ドアを押し開けた。
    むわ、と漏れ出す熱気に、もう九月終わんぞ、と顔をしかめて。壁のスイッチでぱっと点った蛍光灯が、白々しく室内を照らして目が痛い。

    背負ったリュックを机に置いて、窓に黒いカーテンを引いていく。それからエアコンの電源を入れると、ようやく一息つけた。ワイシャツの背中はじっとりと濡れていて、不快感に眉根が寄る。
    適当に机を押し退けて、後ろの方に大きくスペースを取る。五脚の椅子を適当に引っ張り出してから、視聴覚準備室を解錠した。同じようにあふれる熱気が、暑苦しくてやっぱり煩わしい。

    隅に固めて置かれたみっつの楽器ケース。その中でも一際大きな、ロケットの缶バッジがついたものを取り出して抱えた。後ろから、穏やかな声が届く。

    「──ジーマーで、千空ちゃんは自分の楽器大好きね〜」
    「どーも、センパイ。……そりゃ相棒は大事に決まってんだろ」
    「そうだねぇ。……あ、シールド多分しまわれてるよ」
    「おー分かった」
    「探させてメンゴね、シクヨロ〜」

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