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    iceuaw

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    iceuaw

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    矢は溝さんに色々と教わった可能性があるなら雰囲気とかも似てる部分があるんじゃないかなあという妄想の塊です。書きたいところだけなので唐突にはじまります。
    関が溝さんにぼこぼこにされて、その後に矢さんと話してるだけ。関がかわいそう。
    特にCPはないです。

    拘泥「なあ関口、お前そんなんだからダメなんじゃねえの」
     地面に横たわったままの俺を見下ろしながらドブさんは煙草に火を点ける。紫煙が周囲に散らばりまるでここにはお前が立つ隙などないと言われているようだった。
    またこの人に負けたのかと悔しさが滲んだ。元々図体がデカいだけで腕っぷしはからっきしだったが、ヤノさんの隣に立ち並ぶ為にと力をつけたつもりだった。それでも結局この人に勝てなかった。
     ドブさんの指が煙草を叩き、灰が俺の胸元に落ちてくる。熱さも痛みも感じないがただ不快だった。辿る様にドブさんを見上げれば、その顔には無数の傷があるのに痛みなど感じていないという様子で燻った苛立ちがまたざわついた。
    「ヤノのこと助けるってさあ、守るってさあ、俺に負けてる時点で何も変わってねえじゃん。口ばっかなんだよ」
     冷や水を浴びせられた様にざわついていた心が静まった。口ばかり。そうだ、結局そうなのだ。何も出来ていない、何も為せていない。掲げた理想もこの人の前ではちっぽけで惨めなものに成り果てる。わなわなと震える唇から無様に声が漏れ出さないように唇を引き結び、かき混ぜられた感情を抑え込んだ。
     その様を見たからか、口元だけに笑み浮かべたドブさんが足を上げる。蹴られるのかと身体に力を入れて衝撃に身を備えるが、衝撃も痛みもやってこない。反射的に閉じた瞼を押し上げるとドブさんは足を上げたままで、視線が合ったのを合図にその足先が俺の左肩に下りてくる。
    痛みがないのは踵が触れた瞬間だけで、ゆっくりと、徐々に、力が籠められるのに併せて肩に痛みが広がってゆく。
    「知ってるだろ、関口。この世に絶対はないって。お前が守るって言ったその口が原因でヤノは死ぬかもしれないし、お前の手の届かない所でアイツは一人死ぬかもしれない。例えお前が死に物狂いで藻掻いても何も出来ないかもしれない」
     無力な人間なりに何ができるか考えろよと言いながらドブさんは肩の付け根を狙ったように踵で押し上げる。骨は軋み、痛みを逃がそうと身体を捩るがそれが許される筈もない。ドブさんを見遣れば心底楽しそうに嗤っている。そう言えばこの人は痛みだけを与える方法をよく知っているんだったと、滲む痛みと何も出来ない自分の不甲斐なさに涙が出そうになった所で足が外れ、ドブさんが腰を曲げて顔を覗き込んできた。
    「お前の身体は何の為に在って、お前の賢い頭は何の為に在るんだ?」
     ドロドロとした感情が噴き出してしまいそうだった。
    俺は一体何の為に在るんだ。ヤノさんの力になりたかった、それは自分で選んだことで、切っ掛けは散々だったけれど俺自身が望んで決めたことだった。だから俺が持っているものは全てヤノさんの為に使いたかった。
    「お前が選んだんだよな?ヤノの力になりたいって。それとも選んだんじゃなくて選ばされたんだっけ?可哀想だなあ関口。勘違いしてるんだよ、お前。自分で選んだつもりになってるだけで選ばされただけなんだよ」
     ドブさんの声が耳を滑り抜け、脳を侵していく。
    言葉が鉛の様に身体を圧し潰して、俺が無くなった気がした。
    「覚悟決めろよ、関口くん♡」
     ドブさんのにかやかな笑顔と、頬に感じた衝撃と痛みを最後に意識を手放した。


    「……」
     ぼんやりと白けた視界が今迄眠っていたことを認識させた。痛む身体と頬がドブさんに負けたことをまざまざと見せ付けてくるようで嫌になってしまった。ここはどこだろうかと、二、三度瞬きを繰り返し左右を見渡す。そうすれば直ぐ近くにヤノさんが座っていた。
    「ヤ、ノさん……」
     心底驚いた。なぜヤノさんが。もしかして俺の不始末の責任を取らされたのだろうか。もしそうなら俺はどうしたらいいんだ。
    「起きたか関口」
     名を呼ばれたヤノさんが顔を上げ俺の名前を呼ぶ。声色はいつも通り、その表情もいつも通り。何も変わらないようでホッと息を吐きそうになったことに自己嫌悪した。
    ヤノさんに詫びなければと、ゆっくり身体をと起こしヤノさんに向かって頭を下げる。
    「すみません、俺」
     また負けましたという言葉は続けられなかった。本当は続けなくてはいけないのにそうなってしまったことが不甲斐なくて悔しくて、そんなちっぽけな俺の矜持の為に言葉を発することが出来なかった。
    「関口、顔上げろ」
     ヤノさんの言葉に従い下げた頭を上げる。俺の顔や肩、腕にポンポンと軽く触れた後にヤノさんはニッと笑ってから俺の頭を撫でた。
    「生きてて良かったな、関口」
    「……はい」
    「ドブさんが相手だったらもっと酷くてもおかしくなかったのにそれだけで済んでラッキーだって思っとけ。手加減されたんだよ、多分、な」
     手加減という言葉が突き刺さる。つまり、本気になる迄もなかったということか。
    「あと何年もしたら俺達なら簡単にドブさんに勝てる。でもそれはあの人が年とったってだけだ。そんなものに興味は無いしそんなものに意味はない、そうだろ?そんな勝ちじゃ俺には意味がない」
     ヤノさんが俺の足元、空いたスペースに腰を下ろす。この人は小柄で、力も弱い。それでもその身の内にあるものはとても強固で頑丈だと思う。
    「関口、俺はお前を信頼してるよ。弟分だからってだけじゃない、もっと他にも理由がある。お前が俺のこと少しでも信頼してくれるなら俺の隣に立ち並ぶ位の気概と根性もう一回持って立ってみろ」
     ぶるりと身体が痺れた。ヤノさんはやはり凄い人だ。この人の魅力を知らない奴らは馬鹿みたいな評価をこの人に下すが、そんなんじゃない。
    「お前がやられそうなら俺が守ってやる、まあ腕っぷしには自信がないけど方法なんていくらでもある」
     先程までの張り詰めた雰囲気ではなくて少し和らいだ雰囲気と表情でヤノさんが笑った。その笑い方はこの人の本質を表している様で勝手に胸が締め付けられた。この人のこういう所に俺は惹かれたのだろうか。
    もう一度、チャンスを与えてくれるのなら今度こそこの人の隣に立てる人間になる。この人の助けになることを、この人の下につくことを誰かに選ばされた訳じゃないと今度こそ大声で言えるようになりたい。ドブさんにも負けない。笑みを浮かべたままのヤノさんの瞳を見つめ唇を開く。
    「……はい、ヤノさん。次は、負けません」
     ぐ、と拳を握りしめた俺をヤノさんが見つめ「上々!」ともう一度笑った。
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