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    affett0_MF

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    ぐだマン版ワンドロワンライ
    2/6、2/7お題「節分」

    ##ss

    振りかぶって……投げました! そんな言葉が相応しい挙動で子どもサーヴァント達が我先にと目の前の鬼――もとい、紙製の鬼の面をつけた我がマスター――へと煎り大豆を投げつけている。
     どうやら今日はマスターの祖国では節分と呼ばれる日に当たるらしい。なんでも皆が健康で幸福に過ごせますようにという意味が込められた行事ごとらしく、悪いものを鬼、良いものを福の神と称し家から鬼を追い出し福の神を呼び入れるために行われるのだそうだ。豆をまく理由についてはマスターもよく知らないらしく、「後で調べておくね」と言っていた。
     そんなマスターと言えば、今はその節分とやらを子どもの姿をしているサーヴァント達に事前に説明した上で自らが鬼役となって豆をぶつけられまくっている。食事の用意のために抜け出すまではエミヤやブーディカさんも居たし、今はアタランテも鬼役に加わり場内は大盛り上がりというヤツだ。真っ白な食堂中にきゃあきゃあと悲鳴のようで笑い声のような声が響き渡っている。そしてそれを食堂の隅っこで遠巻きに眺めながらよくやるなぁと感心しているのが陰キャの俺だ。これが世の常、世界の縮図である。
     正直なところ妙な予感がしたところで早々に食堂を後にしたかったのだけれど、豆まきとやらが食堂の入り口で行われていたので出ていくタイミングを逃してしまったのだ。なので豆も撒かず、鬼となって子ども達を喜ばせるでもない俺は隅っこで頬杖を突きながらそれをただ眺めるだけの空気と化している。
     ……まぁ、これはこれで悪くない。誰もいない部屋で一人静かに過ごせればもっと良いとは思うけれど、無理に陽キャラの皆さんに引きずり込まれることもなく、ただただ傍観に徹することが出来ているだけでもここカルデアではありがたいことなのだと最近理解した。現状をありがたく受け入れ流れに身を任せ生きていくというのは人間もとい英霊人生においてある種必要なスキルなのだ。少なくとも俺にとっては。

    「あ~疲れた。さすがサーヴァント、みんな体力無限大って感じだね」
     あれから四半刻が過ぎた頃、マスターの体力の限界を見かねたエミヤが食事の準備から豆まきという戦場へと舞い戻り、食事の時間やあれやこれやを理由に子どもたちを言いくるめ豆まきがお開きとなったようだ。そのエミヤに見つかったら行儀の悪さで叱られてしまいそうだが、服の裾で額に滲む汗を拭いながらマスターがこちらへ近付いてきた。日に焼けた首に比べて薄ら白い胴が眩しい。
     流れるような自然な動作で隣に腰を落ち着けたマスターは、木製の四角い食器――升と言うらしい――に詰められた煎り大豆をこちらに掲げて見せた。
    「豆まきの後には歳の数だけ豆を食べるんだよ」
     ほう。なるほど。
    「マンドリカルドも一緒に食べない?」
     小首を傾げられてはもう断るわけにもいかない。元より断る気もなかったけれど、マスターの誘いとあらばと簡単に尻尾を振ってしまう俺がいるのも事実なので、我ながらどうしようもない。本当に。
    「じゃあ……お言葉に甘えて」
     そんなことを考えながら升の中に指先を差し入れると、さらりと滑らかな地の恵みの肌が指先をくすぐる。歳の数ってーとこれくらいかな、と適当に掴みとって一粒一粒数えながら口に運ぶ。二十、二十一、二十二……三十。肉体こそマスターとそう変わらない年頃のもので現界したものの、人生自体はマスターの倍くらいは過ごしている。果たしてそれが年数に伴った密度だったのかはさておき。
    「……あ」
     隣で静かに豆を食べていたマスターが急に素っ頓狂な声を上げた。一体どうしたのかと思い隣へと視線をやると、升の中を覗き込んで眉根を下げて見せた。
    「一個足りないや」
     一個足りないや。つまり年齢分食べなくてはいけない豆が一つ足りないという意味だろう。俺の手の中の豆を分けてやろうと手のひらを解くと、そこには幸運にも一粒の豆。豆は時折幸運のシンボルと呼ばれることがあるそうだけど、今回はまさしく幸運の一粒だ。
    「俺の方にまだ一粒あるんであげるっす」
     マスターの手の中の升へ手を伸ばし指を緩めると、こつりと音がして最後の一粒が升の中へと旅立っていった。正直食べた豆の数が年齢に足りていたかと聞かれれば足りていなかったのだけれど、正直俺というサーヴァントにとっては誤差の範囲だろう。惜しくも一粒足りなかったマスターに比べれば惜しくも何ともない。
    「わ、ありがと」
     屈託なく笑うマスターの顔を見ているとその考えはより強いものとなった。豆一つで笑顔を向けられるのであればそれはとても喜ばしいものだ。心からそう思う。
    「そういえばさ」
     升の中に手を差し入れながらマスターが口を開く。
    「マンドリカルドって実際のとこいくつなの? 豆いくつ食べた?」
     今それを聞くか。豆を渡してしまった以上足りなかったとは言いづらい。しかし嘘は言いたくないし、どうしたら……。考えあぐねて舌で口の中をなぞっているうちに、事態を察したのかマスターの顔色が曇っていく。
    「もしかしてホントは豆足りなかった?」
     やべぇ。完全にバレている。
    「や、足りたか足りなかったかで言ったら足りなかったんすけど! でも俺もマスターも足りないよか俺だけ足りないほうがいいかなって」
     こうなったら変に隠すより正直に打ち明けた方が吉と自分でもやや早口にそうまくし立てると、マスターはううんと眉を寄せてまるで漫画の登場人物がそうするように腕を組み片手を口元にあてがった。
    「確かにそれは一理あるけど……」
     俺の提案を良しとするかどうか悩んでいるらしい。腕を組んだままうーんと声を上げながら首を左右に揺らしていたマスターだけれど、またまた漫画の登場人物のように拳を平手に打ち付けるような仕草をしたかと思うと不意にこちらに顔を近づけて口を開いた。
    「ね、マンドリカルド。誰かこっち見てる人いる?」
     ? 一体どういう意味だろう。言われた意味を考えながらマスターが背にしている食堂へと目をこらすと、キッチンの方でエミヤやブーディカさんが作業しているような物音は聞こえど、食堂自体には誰もいなかった。大所帯のカルデアにしては珍しいこともあるもんだ。
    「や……誰もいねっすけど」
     そっか、と囁き声が聞こえるか早いか否か。手に掴んでいた升の中から最後の一粒をつまみ上げたマスターがそれを素早く口に運んだかと思うと、俺の顎を掴んで唇を重ねてきた。
    「……ん」
     驚きの余り色気も何もない素っ頓狂な声を上げるのと同時に唇の隙間から何か硬いものが差し入れられた。かと思うとすぐに湿った温度は離れていき、そこにはしたり顔のマスター。
    「これでさ、オレもマンドリカルドも一粒ずつってことになんないかな」
     その言葉にまさかと口の中に差し入れられたものを舌先で転がしてみると、間違いない、さっきまでいくつも噛み潰し嚥下していた煎り大豆だった。
     そのことを理解した瞬間、ぶわりと顔と耳が熱くなるのを感じた。そんなことのために誰か来るかもしれない食堂でキスをしてきたんですか
    「マンドリカルドの足りない分はまたエミヤに貰いに行くってことで――」
     とかなんとかマスターが言っていたけれど、正直突然唇を奪われたどころか口移しで豆まで食わされた俺はそれどころではないわけで。一刻も早くこの肌の熱を冷まそうと手で顔を仰ぐ他ないのであった。
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