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    #ぐだマンワンドロワンライ
    お題「ウィンターキャラバン」(-30min)

    ほう、と息を吐くと、白く煙り天へと昇って行った。吐息がまた透明な夜空へと溶けていく様を眺めていると不意に背中に重みを感じ、目をそちらへと向ける。
    「マスター、夜更かしっすね」
     マンドリカルドだった。声を聞かずとも気配で何となくそんな気がしていたけれど。普段の鎧姿ではなく街中にでも居そうな軽装に身を包んだマンドリカルドは、ごとりと音を立てて床に何か置いたかと思うと、「どうぞ」と言いながらそれを俺の手元へと押し出した。
    「わ、ココアだ。ありがとう」
     青いマグカップに並々注がれたそれはとろりとした肌に空の濃紺を映している。手に取ると焼けるように熱い。きっとココアが冷めないようにマグカップを温めてくれたんだと思うと、その小さな気遣いに心がじんと温かくなった。こういうところがあるヤツなのだ。マンドリカルドってヤツは。
    「今日は楽しかったすね」
     まるで風にでも囁きかけるように、穏やかな声がする。焦って早口になるでもなく、気まずそうに口ごもるでもなく、吐息のように穏やかでなめらかな声。マンドリカルドがこんな声で話すのだと知ったのはつい最近だ。また知らない一面を知ることが出来たと嬉しくなったのを覚えている。
    「そうだね、アビーなんてとてもはしゃいじゃって」
     俺もまた吐息に乗せるように、自然に口を開く。俺の声もマンドリカルドと同じように聞こえているのかな。そうだったらいいな。そんなことを考えながら。
    「アビゲイル、疲れちまったみたいで。もうぐっすりっすよ」
     くく、と鼻にかかるようなくぐもった笑い声が聞こえる。「子どもみたいで可愛いね」と返すと、「そうすね」と声がする。そこで一度手の中のココアに口をつける。ほんのりとした苦みと、舌を舐る甘味。そして鼻を抜けていくこの香りは――
    「んっ、これ、お酒入ってる?」
     洋酒の入っているチョコレートを食べた時のような独特の香りがした。気がした。思わず口元を押さえ後ろを振り返ると、同じように上体をねじりこちらへ顔を向けるマンドリカルドと目が合った。錫色の瞳に月が映り込んでいる。その月の光に目を奪われていると、薄い唇がこれまた月のようにゆるやかに弧を描いた。
    「ウィスキーっす。エミヤには秘密っすよ」
     悪戯っぽく人差し指をあてがわれた唇が笑う。なんて悪戯を、と思わず空気を食むも、目の前の笑みは崩れることなく上機嫌そうだ。もしかしたら酔っているのかも。そう思いながらももう一度マグカップへと口を付ける。舌がとろけそうな甘味の中に、わずかな苦みと洋酒の香り。ぴりりと舌がしびれるような大人の味。喉へ流し込めば温度とは別のものが喉を温める。頭がじんと痺れたような気がして、重たくなる。重さを増した頭をマンドリカルドの肩へともたれかけさせると、驚く様子もなく細い指先が髪へ差し入れられた。くしゃくしゃと髪を乱されるけれど、それに対して声を上げる気にもならないのでそのままにさせておく。星空の下で保護者に内緒でお酒を飲んで、髪を掻き混ぜられている。そう思うと何だかおかしくて、思わず笑みがこぼれた。
    「なーに笑ってんすか?」
     つむじに向けて声が掛けられる。その問いかけ方のわざとらしさがおかしくて、こちらからも何かしかけてみたくなって、顔を上げて小さな顎を掴んでこちらへと引き寄せた。
    「……んっ」
     小さな声と共に唇が触れ合う。俺のココアより何倍も濃い酒気を帯びた唇を食んで、ほんのちょっとだけ舐めまわして、すぐに開放した。
     目の前の錫色が少しだけ驚いたような顔をするので、ついさっき見たばかりの唇に人差し指をあてがったポーズを真似して笑って見せる。
    「エミヤには秘密だよ」
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    DONE #ぐだマンワンドロワンライ
    お題「ウィンターキャラバン」(-30min)
    ほう、と息を吐くと、白く煙り天へと昇って行った。吐息がまた透明な夜空へと溶けていく様を眺めていると不意に背中に重みを感じ、目をそちらへと向ける。
    「マスター、夜更かしっすね」
     マンドリカルドだった。声を聞かずとも気配で何となくそんな気がしていたけれど。普段の鎧姿ではなく街中にでも居そうな軽装に身を包んだマンドリカルドは、ごとりと音を立てて床に何か置いたかと思うと、「どうぞ」と言いながらそれを俺の手元へと押し出した。
    「わ、ココアだ。ありがとう」
     青いマグカップに並々注がれたそれはとろりとした肌に空の濃紺を映している。手に取ると焼けるように熱い。きっとココアが冷めないようにマグカップを温めてくれたんだと思うと、その小さな気遣いに心がじんと温かくなった。こういうところがあるヤツなのだ。マンドリカルドってヤツは。
    「今日は楽しかったすね」
     まるで風にでも囁きかけるように、穏やかな声がする。焦って早口になるでもなく、気まずそうに口ごもるでもなく、吐息のように穏やかでなめらかな声。マンドリカルドがこんな声で話すのだと知ったのはつい最近だ。また知らない一面を知ることが出来たと嬉しくなったのを 1515

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