炎まずは木炭を探さねばなるまい、とエリザは思った。
せっかくならばそれが赤く眩しく溶けるように燃える姿を見たいと考えたからだ。
幸いエリザは14cmという身長であったので、彼女にとって手頃な大きさの木炭を探すことにさほど手間取らずに済んだ。
丁寧に掘り進める。まっすぐな鼻。柔らかな瞼。頬の美しい円形。滑らかな肌触り。
それは私の知る彼らの姿とは違う。
彼らはもっと歪つだった。
捉えがたい凸凹が彼らの身体を形づくり、掴めないうねりを言葉に纏わせ、気づけないくらい微かな匂いを残しながら動いていた。
私はその淀みにたゆたう感覚と時間だけを愛していた。
それはそれは美しく彫り込んでやった。やつらが言う通りにだ。
これを燃やさねばならない。最も強い炎で。この世の一番熱い場所で。他の何も目に入らないくらい眩しい光を放たせながら。最後に何も思い遺すものなどないように。取りに戻る気にならないくらい一瞬で終わらせなければならないのだ。
エリザは決行する。像を手放し彼女の火に焚べる。
炎はさして燃え上がらない。ぱちぱちと穏やかに火がすべり、しばらく待ったあと彫像を灯す。端から、内側からチラチラと赤い星が覗いて黒い塊を温めていく。一気に無くなったりはしない。時折吹く風を受けて呼吸をするように像が赤く明滅する。まだ生きているのだ。
像は自然と歪み、崩れ、ひび割れ、彼女のよく知る姿へと変わっていく。
あとは時間だけがそこに残った。エリザの思惑は外れ、彼女はただその場所にいる。
彼らの姿はいまや白く脆い欠片となって、一層辺り一帯を照らす温度でエリザの身体を暖める。
つまるところ、彼女は暖をとっているだけだ。
こうして何度も同じ事を繰り返して生きてきた。エリザは初めて自分で焚べた。これからもそうするだろう。
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2020年11月4日
2025年3月7日加筆