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    なふたはし

    モバエム時空です。「/(スラッシュ)」は左右なしという意味です。

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    なふたはし

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    「あれ、九郎先生。お腹いっぱいー?」
     夕食中、彼の箸の進みが気になった。僕と九郎先生の食事のペースは大体同じくらいだが、今日は彼の方が数段遅い。
     僕は実家を出てから自炊している。アスラン先生や輝先生には敵わないけど、料理なら人並みには出来る。今日のように九郎先生を家に招いて、晩ごはんを共にしたことも何度かある。彼はいつも、僕の作ったものを残さず食べてくれる。ただし椎茸以外。
    「ああ、いえ、そういうわけではないのですが……少々胃痛がしておりまして」
     九郎先生は、かちゃりと音を立ててお箸を置いた。真一文字にキッと結んだ唇から、痛みは「少々」ではないのが窺える。
    「大丈夫? 薬あったかなー」
    「申し訳ありません、せっかく作っていただいたのに」
    「別にいいよー」
     僕は受け流したが、九郎先生は申し訳なさそうにしていた。

     料理を片付けて、ソファに座る九郎先生の右隣に腰掛けた。彼は胃薬を飲み、カイロを貼ったものの、どちらも即効性ではないのでまだ顔をしかめている。
    「先に胃が痛いって言ってくれたら、うどんとか用意したのにー」
    「すみません」
    「じっと堪え、その身を削る痩せ我慢。あんまり我慢してても、いいことなんて無いよねー」
    「そう、ですね」
     今日の九郎先生には覇気がなく、弱々しい。少し言い過ぎてしまった気がしてくる。
    「お家で何かあったのー?」
     僕が尋ねると九郎先生は目を伏せた。
    「はい。昨日、祖父と久しぶりに言い合いになってしまいました」
    「そっかー」
     僕も、九郎先生の視線の行く先を目で追う。
     彼の実家のことは、たまに彼の口から聞いていた。九郎先生は、僕の知らない世界で僕の知らない育ち方をしていた。彼は彼の祖父と考えを違えている。しかし九郎先生も祖父もお互いのことを嫌いではないから、憎むに憎みきれないところがあるのだろう。窮屈そうだな、と話を聞くたびに思う。
    「……九郎先生は、もっと僕に甘えてもいいよー」
    「十分、甘えさせていただいていると思うのですが」
    「それじゃ、もっと甘えていいよ」
    「もっと、ですか」
     九郎先生は疑問符を浮かべた。
    「ええと、具体的には?」
     具体的には……。
    「そうだねー。ひざまくらとかー?」
     僕は九郎先生を引き寄せ、腿を枕にして寝転がらせた。胃痛には、右側を下にして横になるといいと聞いたことがある。
    「ふふ、どうかなー?」
     左手で九郎先生のお腹をさする。先ほど貼ったカイロがほんのりと熱を帯び始めていた。
    「き、気恥ずかしいですね」
     照れたように溢し、僕のズボンをぎゅっと握った。耳のかたちを指でなぞると、九郎先生はくすぐったそうにした。
    「僕はさ」
     僕が切り出すと、彼は首を回してこちらを見上げた。
    「九郎先生のお家のことはよく分からないし、何も口出しは出来ないけど、こういうことなら出来るから」
     九郎先生は、ストレスを受け流す器用なタイプじゃなくて、耐え忍んだ上に立ち向かって行こうとする人だから、心配になる。それが彼の短所であり、長所でもあるのだが。
    「たまには、今みたいにのんびりしてみようよ」
     僕の言葉を聞き、九郎先生は目を細めて笑った。
    「ありがとうございます。北村さん」
     その表情が何だか愛おしく、僕は彼の頬をそっと撫でた。
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