季語シリーズ⑦ 朝顔市 朝顔市に来るのは二度目だった。
お仕事で訪れた時のことを話したら、九郎先生は興味を示した。いつか朝顔を育ててみたいと考えていたそうだ。お祭りですくった金魚もきちんと世話しているらしいし、マメな性格だなーと僕は感心した。
歩道沿いにずらりと朝顔が並んでいる様は二度目でも壮観だった。祭りの出店と同じ要領で出店があって、たまに朝顔以外の店もあるけれど、ほとんどが緑の茂った鉢のみを取り扱っている。
「誕生日祝い、本当にこんなので良かったのー?」
「ええ。以前、お話を伺ってから一度行ってみたいと思っていたのです」
まだ八時だというのに、早くも出店には人が集まり始めていた。夏の早朝特有の、少し湿ってひんやりとした空気が気持ちいい。
僕たちは順番に出店を回って行った。赤や青や紫と、色とりどりに咲いている花々は、眺めているだけで心が躍る。
歩いていくうち、九郎先生がお気に入りの一株を見つけた。僕はそれを購入し、誕生日プレゼントとして手渡した。
「はい。お誕生日おめでとうございますー」
「ありがとうございます。ふふっ、綺麗な色ですね」
九郎先生が選んだのは青色の朝顔だった。支柱に絡んだツタに、くるくる丸まったつぼみが数個ついている。
「このつぼみたちが咲く頃になったら、是非うちへ見にいらしてください」
「そしたらまた早起きしなきゃだねー」
「あっ、すみません。失念していました」
九郎先生は慌てて言った。
「ふふ。頑張ってみるねー」
彼が抱えている朝顔は、葉っぱにも花にも露がついていた。朝露は朝の陽を反射するどころか、むしろそれを取り込んで生き生きとしているように見えた。
朝露が映した笑顔夜はなし。早起きも悪くないねーと僕は思う。