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    クルミ

    短いss置き場。好きなものを好きな時に好きなだけ。
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    クルミ

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    吸死からノスクラssです。
    ノスクラですがCP要素は薄め。
    ノスが飼ってるという猫がクラの生まれ変わりだったらなという妄想です。

    廻り廻りいつかきっと廻り逢う日がくる。だから、その時まで待っていてくれ。

    そう言い残して亡くなった友を夢に見たのは弟子であるドラルクの現状を見にシンヨコヘ降り立ち、彼や退治人と一悶着あった後のこと。
    予約したホテルに戻るなり退治人によって着せられたボンテージを切り刻んだ後、疲れて眠りにつき、あの夢を見たのだ。
    次の日、日が沈むのを見てホテルを後にする。
    このまま屋敷へ帰ってもいいが、せっかく来たのだからドラルクが居着いた街の様子でも見てから帰ろうと、ノースディンは街灯の下を歩いて行く。
    街ではいくつもの吸血鬼のニオイや気配が感じられる。下等のものから高等クラスのものまで様々だが、すれ違う人間の顔や様子を見る限りそこまで大きな問題にはなっていないようだ。
    ダンピールも何人か見かけ、街自体が吸血鬼を受け入れているようにも見える。
    ずっと昔、人間と対立していた時代では考えられなかった光景。
    当時、妙なめぐり合わせから敵でありながら友となった人間の彼とそんな光景を願ったことを思い出す。
    退治人と協力するドラルクや他の吸血鬼達。その姿を見たからこそ、あの夢を見たのだろうか。

    「久しく、忘れていたな」

    あの言葉を信じて十年、百年待ち続けた。暇があれば様々な場所を巡り、どこかにいるだろう姿を探し続けたが結局見つかることはなかった。
    やはり人間の魂が廻ることはないのか。廻ったとしても再び出逢うことはないのか。
    あの夜が本当に奇跡のようで、ドラウスや古き血の同胞からも諦めるよう言われ、次第に彼を探すのを止めると彼が残した言葉も忘れていった。
    浅はかな望みは持つものではない。そう思って止め、忘れた言葉だったが思い出せて良かった。
    再び探すわけではない。
    もう二度と会えないのだから彼の一つ一つを覚えておきたいから。
    もしどこかで魂が廻り、新たなを生を生きているのなら幸せでいてくれればいい。

    「ん?雨か」

    ぽたぽたと数滴雨が降ると一気に勢いを増して降り注ぐ。傘を持つ人間は差し、持たない人間は走ってあちこちに散らばっていく。
    ノースディンも近くの屋根の下で雨宿りをしながら空を見上げるが雨が止む気配はない。
    仕方ない、屋敷に帰るのは諦めてもう一泊シンヨコに滞在することにする。とりあえず昨日宿泊したホテルにまだ空きがあるか確認しようとスマホを取り出すと雨音の中に小さな声を聞く。
    雨宿りしていた屋根から出て雨に濡れながら声の主を探すと建物裏で黒猫が一匹で泣いていた。雨を凌ぐ屋根はなく、びしょ濡れのそれは今にも命の灯を消しそうなほど弱りながらもか細い声で鳴いている。
    誰にも手を差し出されることなく雨の中弱る黒い姿をノースディンは見つめ、やがて手を差し伸べる。とはいえ、自分が動物に好かれないのは嫌というほど分かっている。
    逃げたりするな。そう思いながら手は黒猫に近付いてゆき、ついに触れた。

    「逃げないのか」

    黒猫は弱々しく鳴きながらノースディンに助けを求めるように顔を擦り付ける。
    逃げないのではなく弱っているから逃げられないのだろう。

    「一緒に来るか?」

    撫でながら言うと黒猫は返事をするように鳴く。ノースディンは小さな体を抱き上げると濡れてしまわないように服の中へ隠し、ホテルへと走った。


    ホテルに空きはあったもののペット同伴は不可であったがそこは魅了を使って難なく連れ込むことができた。
    部屋に入るなりノースディンはバスルームへ向かい濡れて汚れた黒猫を洗ってやる。
    猫は水が苦手だと聞いていたがノースディンの手の中の黒猫は水を嫌がる素振りは見せずとても大人しい。石鹸で泡だらけになった体をシャワーの水で洗い流せばまるで犬のように体を震わせ水を飛ばす。濡れた体をタオルで拭く間でさえ黒猫は大人しかった。
    黒猫をソファで待たせてドライヤーを持ってくる。部屋の中をうろちょろしているかと思えば黒猫はソファの上でじっと待っていた。
    真面目だなと思いながら膝の上に乗せるとドライヤーを送風にして黒い毛を乾かしていく。毛を撫でても黒猫は嫌がるどころか気持ち良さそうな声で鳴いている。
    変わった猫だと思いながら続けること数分、しっかり洗って乾かした黒い毛はくるくると巻毛になっていた。
    元々癖付けの猫なのだろうか。ブラシしてもすぐに戻る黒い毛をノースディンはじっと見つめる。
    黒い毛に癖付け、大人しく真面目。ふと、夢に見た彼が頭に過ぎるが首を振ってかき消す。
    似ているが相手は猫。一瞬でも猫にまで夢を見てしまうとは。彼が知ったら笑われてしまうな。

    「まだ雨は止まないか」

    乾いたふわふわの毛を撫でながらノースディンが言うと黒猫も窓の外を見て鳴く。
    明日、雨が止んだら逃してやろう。そう考えながらホテルに戻る途中で買った猫缶を皿へ盛るが黒猫はなかなか口にしない。

    「どうした。食べていいぞ」

    しかし黒猫はじっとして動かない。一瞬、その目がチラリと空になった猫缶を見ると何となく黒猫が何を思っているかを察した。

    「気にしなくていいから食べなさい」

    ノースディンの言葉を理解したのか、黒猫はゆっくり皿の上の餌を口にする。
    猫缶は見た目でも分かる高級なものでそれを申し訳ないとでも思ったのだろうか。

    『気にしなくていいから食べなさい』

    ふと、過去にも同じことを口にした日を思い出す。教会を追われ行くところのない彼を屋敷に招いた夜だ。ドラルクが張り切って作った料理に戸惑い、なかなか口にできない彼に言ったのだ。
    思えばあの日も雨が降っていた気がする。

    「……まさかな」

    頭を撫でるノースディンの手に黒猫は嬉しそうに鳴いた。


    次の日の夜には雨が止み、美しい月が浮かんでいた。
    猫缶を食べ終えた黒猫を抱え、昨日拾った場所へとやって来るとノースディンは黒猫を地面に置く。

    「昨日は楽しかった。ありがとう」

    頭と首を撫でながら言うと黒猫は気持ち良さそうにゴロゴロと鳴き、ノースディンの足元へ顔を擦り付ける。その姿が可愛らしく、連れて帰りたい気を持つがぐっと堪える。
    姿は見えないが仲間とはぐれた可能性もある。それに自分は吸血鬼。拾われて幸せになるのなら人間のほうがいいだろう。
    使い魔にする手段もあるが、この猫はなぜかそうしたくない。

    「お前は大人しいし真面目なようだから、いい飼い主が見つかるよ」

    幸せにな。
    そう言って立ち上がり、黒猫へ背を向けて歩くノースディン。
    ずいぶん長居をしてしまった。そろそろ屋敷へ帰ろうと思った時、すれ違った少女が立ち止まり、ノースディンの後ろを指差して言った。

    「ママ、あの猫ちゃんかわいい!おじさんのペットかな?」

    少女の言葉に立ち止まり、まさかと背後を振り向くと先程置いてきた黒猫が目に映る。
    ずっとついて来ていたのだろうか。立ち止まって見下ろすノースディンの目を黒猫はじっと見つめている。
    餌をくれる人。優しくしてくれる人。そう思われているかもしれないが、何となくそうでないと分かる。
    きっと、この猫は。

    「私に恩を感じているのか?」

    ノースディンの言葉が分かるように黒猫は鳴いて返す。
    黒猫にとっては命を救ってくれた人。だから逃げずに大人しくノースディンのそばにいた。そしてまだ恩は返せていないとノースディンの後をついて歩くのだ。
    大人しく真面目で、何よりも清純な黒猫の姿に今度はしっかりと彼の姿が重なるとノースディンはその体を抱き上げた。

    「まったく。猫になってもお前は変わらないな」

    月夜に照らされる黒猫を嬉しそうに見つめるとそっと胸に抱く。温かい小さな体がとても懐かしく感じた。

    「やっと廻り逢えたな」

    会いたかったよと涙声で呟くノースディンの頬を猫の舌が舐めた。
    まるで「私も」と言うように。


    その後、ひとりだったノースディンの屋敷に小さな住人が増えた。名前は。

    「おいで、クラージィ」
    「にゃー」

    やって来たクラージィを膝の上にスマホのシャッターを押した。





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