しょた悠仁と脹相お兄ちゃん「悠仁! ただいま!」
「あっ、にいちゃん」
玄関を開けると悠仁がてててっ、と駆け寄ってくる。
「悠仁、急ぐな、転んだりしてお前の綺麗な肌に傷がついたら大変だ」
「んぇ?」
悠仁はきょとんとした顔で脹相を見上げる。
まるまるとした瞳はきらきらと輝いていて、脹相はこの瞳に映る自分を見るたびに、胸がきゅう、と甘く締め付けられるのを感じた。
「悠仁の目はお星さまみたいだな」
「おほしさま!」
両親が他界して一人残された幼い悠仁は、親戚中をたらい回しにされていた。
一人暮らしである脹相に、押しつけられる形で六歳の悠仁がやってきたときは「面倒くさい」と思ったものだ。
だがそれも数日で終わった。
可愛い。
とにかく可愛い。
目に入れても痛くない、むしろ入れたい。
脹相(十九歳、大学生)は悠仁(六歳)に夢中だった。
「にいちゃん、今日はおえかきしたよ!」
「何を描いたんだ?」
悠仁は、悠仁専用である子供用の小さなテーブルのもとへ、てててっと走っていく。
(急ぐなと言ったばかりなのに。 だが走る姿も可愛い)
可愛さのあまり、脹相は手のひらで目元を覆う。
戻ってきた悠仁の手には、小さな悠仁には大きすぎる画用紙が握られていた。
「にいちゃん!」
「!」
画用紙には、真っ黒なクレヨンでウニのような物体が描かれていた。
悠仁が褒めて褒めて、ときらきらして目で見上げてくる。
「かっ………」
思わず悠仁をぎゅう、と抱きしめる。
「んぐ」
くるしい、と耳元から聴こえるが離さない。
結局、脹相が悠仁の体を離したのは、一分ほど経ったころだった。
「すごい上手だ。 悠仁は天才だな、将来は絵描きにでもなるといい」
「えへへ」
照れ笑いする悠仁。
鼻血が出そうで、脹相は鼻を押さえた。
「明日、大学に持っていって兄ちゃんの友達に自慢してもいいか?」
「いいよ! のばらちゃん! めぐみくん!」
釘崎野薔薇、伏黒恵は脹相と同じ大学生で、友人である。
以前、悠仁に会わせたことがあり、懐っこい悠仁は二人を慕っていた。
悠仁から似顔絵を受け取り、大事に包み、硬質ケースに入れて折れないようにする。
(額縁を買わなければ……)
脹相は決意して、ひとり頷いた。
翌日、さっそく悠仁が描いた絵を二人に見せびらかしたところ、釘崎には「なにこれ? 妖怪?」と言われ、「これは俺だ」と返したら、伏黒に「オマエ、頭大丈夫か?」と頭の心配をされた。
【完】