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    asana_clover

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    五十嵐花澄と同じクラスの、吹原蒼くんに片想いしている彼女の話
    ※勝手に蒼くんの行動を描写してますが二次創作です!!!

    ##卓文

    私だけじゃない きっかけは本当に小さな、なんてことのない親切だった。きっと吹原は覚えていないだろう。
     二年生に上がって最初の定期試験。一夜漬けで作ったノートをぎりぎりまで見返していた私は、試験が始まってから消しゴムがないことに気がついた。筆記用具は一通り机の上に出しておいたはずなのに。カンニングと思われない程度に辺りを見回しても、床に落ちている気配もない。
     今にして思えば、手を挙げて先生に説明すればよかったのだ。事前に確認しなかったことを叱られるかもしれないけれど、消しゴムを探すくらい許してくれただろう。でも、しんと静まり返った教室で目立つのは恥ずかしくて、試験時間が過ぎていくことにも焦った私は、とにかく目の前の問題を解き始めてしまった。
     いくら気をつけていても、書き間違いを全くしないなんてことはできない。慎重に進めるあまり、時間の配分もどんどん狂っていく。今さら言い出す機も逃して、たぶん私は落ち着きのない動きをしていたのだろう。
     試験監督の先生が顔を上げ、こちらを見た。不正を疑われたのかもしれない、とどきどきして俯いていると、その足が一直線に近づいてくる。
     先生はそのまま、すっと真横を通り過ぎて何かを拾い上げ、私の机に置いた。なくなったはずの消しゴムだった。
     いつの間にか、やっぱり落としていたのだ。慌ててノートをしまったときかもしれない。おそらく変な弾み方をして、私から見えない後ろのほうに転がっていた。――でも、どうして先生は気がついたのだろう。明らかに何かに反応した様子だった。
     残りの時間でなんとか問題を解ききって、試験が終わってから友人に面白おかしく報告した。「消しゴム落としちゃってさあ」と笑い話の切り口で。
    「ああ、私見てたよ。吹原が手挙げてた」
     友人がさらりと言うのを聞いて、「吹原?」と私は首を傾げる。
    「うん。いきなり手を挙げたから何かと思ったら、先生に消しゴム拾わせてあんたの席を指差してさ。吹原、斜め後ろの席でしょ。消しゴム落とすの見てたんじゃない?」
    「え、でも……落としたのってたぶん、試験が始まる前だよ。あんな時間が経ってから気づいたなら、なんで私のだって分かったんだろ」
    「よっぽど挙動不審だったんじゃないのー? まあ、そりゃその状況なら焦るよね」
     友人がけらけらと笑う。この言い方だと、彼女は別に私の素振りがおかしいとは感じなかったのだ。吹原と同じように、私が目に入る位置にいたのに。
     試験中なのだから当たり前だ。誰だって問題用紙と睨めっこしていて、周りに気を配っているわけがないし、その必要もない。それでも、視界の隅にそわそわとした仕草が映り、消しゴムを見つけて状況を察したのだとしたら、手を挙げてくれたのは優しさだろう。
     吹原蒼。名前と顔は知っているし、挨拶くらいなら交わしたこともある。おとなしい人だな、という第一印象に、たまたまにしてもありがたいなあと感謝が加わった。
     それは偶然ではなく、彼がよく気がつく人なのだと知るのはもう少し先だ。

     *

    「――ありがとう、吹原」
     二年生も半ばを過ぎて、吹原とも前より会話をするようになった。といっても、グループ学習で一緒になったとか、係の用があるとか、そういうときだけ。
     「あのときどうして手を挙げてくれたの?」とは尋ねそびれ、お礼も言えないまま、別のことで機会があるたびにその分までのつもりで「ありがとう」を伝えた。この頃には、もう分かっていた。どうして、も何も理由なんてない。困っている誰かがいたら、当然のように吹原は助ける。いつも周りをよく見ているから、人よりも気がつくことが多いだけだ。
     真面目だから無視できないのだろうし、私も少しくらい何かできるかなあと目で追うことが増えた。本人は特段、大したことではなさそうにしているけれど。
    「……ねえ、もしかしてさあ」
     日直の仕事を片づけて席に戻ると、待っていた友人たちが意味ありげな視線を寄越した。
    「好きなの? 吹原のこと」
    「は!?」
     自分の声が大きすぎて思わず口を押さえ、急いで背後を振り返る。よかった、吹原はもう教室にいない。放課後はまっすぐ部活に向かうのだ。
    「やめてよ、急に何言い出すの」
    「だってその反応は……ねえ?」
     ねえ、ともうひとりの友人が受ける。私が吹原と話しているとき、やけにひそひそしていたけれど、この話題で盛り上がっていたのだろう。
    「い、いきなり変なこと言うからじゃん」
    「今だって嬉しそうにお喋りしてたしさ」
    「それは日誌を書くために、男子が体育で何やったか訊いただけで」
    「最近、よく吹原に話しかけてるよね」
    「だって席が近いから……」
     だんだん声が小さくなる。何をこんなに、必死になって言い訳しているのだろう。やましいところなどない、取るに足らない気持ちひとつがあるだけなのに。
    「隠さないでいいよお。私たち、めっちゃ応援するよ?」
     友人たちが笑みを見せ、これが言いたかった、とばかりに頷き合った。ふたりでその相談をしていたのかもしれない。心遣いは嬉しいけれど、困惑のほうが勝った。
    「だから、本当にそういうのじゃないって」
     帰ろ、と告げて鞄を肩にかけると、さすがに伝わるものがあったらしい。「えー、そっかあ」「でも、本当に好きになったら教えてね」と軽く流してくれて、心のどこかでほっとした。
     ――だって、別に、私だけじゃない。
     吹原は誰にでも誠実で、誰にでも同じことをする。どこか人を踏み込ませないところがあるけれど、そういうときは自分からすっと動く。彼にとってはそれが普通のことなのだ。
     ――私だけじゃない。
     黙っていると不機嫌そうに見えるけれど、怒っているわけではないこと。半年も同じ教室にいるのだから、きっとみんな知っている。弓道に打ち込んで、真摯に部活を頑張っている、とか。友達を相手にしているときの、意外にざっくばらんな話し方とか。
     ――私じゃない。私はたぶん、吹原の友達にすらなれていない。
     ひとりが好きそうだから、あまり話しかけられたくないのかな、と思うこともある。弓道部に、弓以外の何かがあることに、ぼんやりと勘づいてしまった。その人と話すとき、吹原の声がすごく優しくなることにも。
     この気持ちは、恋ではない。だってひとつも特別がない。名前のない私の、どこにでもある、ささやかな日常だ。
     ただ、淡く、淡く、仲良くなりたいなあと思うことの、それだけの関係だ。
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    Laurelomote

    SPOILERこの文書は『ブラックチャンネル』の、主にエピソード0について語ります。漫画版・アニメ版両方について触れます。
    コミックス最新刊の話までガッツリあるのでまだ読んでないよこれから読むよって方はご注意ください。
    あくまで個人の考察です、自己満足のため読了後の苦情は一切受け付けておりません。
    タイトルの通り宗教的な話題に触れます。苦手な方はブラウザバックで閉じる事を推奨致します。
    ブラチャン エピソード0について実際の神話学と比較した考察備忘録目次:
    【はじめに】
    【天使Bとは何者なのか】
    【堕天】
    【そもそも"アレ"は本当に神なのか】
    【ホワイト(天使A)とは何者なのか】
    【おまけ エピソード0以外の描写について】


    【はじめに】
    最近、ブラックチャンネルという月刊コロコロコミック連載の漫画にどハマりして単行本最新5巻までまとめて電子購入しました。
    もともと月刊コロコロ/コロコロアニキの漫画はよく読んでいたのですが(特にデデププ、コロッケ!etc)、アニキの系譜であるwebサイト『週刊コロコロコミック』において次々と新しい漫画の連載が始まり色々読みあさっていたところに、ブラックチャンネルもweb掲載がスタートし、試しに読んでみたらこのザマです。
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