爽やかお兄さんがSM愛好家で好奇心が抑えられない件Twitterから派生した小話。
チャラ男モブお兄さんが喫茶店で電話していた正義くんの通話内容を浮気の謝罪だと勘違いし(真相はリチャとジロサブの話をしていた)好奇心から話しかけたところ勘違いを加速させ、正義くんを浮気性のSM愛好家だと思い込み、SMの極意を聞き出そうと絡む話です。(どんな話だよ)
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「もっと詳しく聞きたいんですけど、ポピュラーな躾ってどんな感じなんスか?やっぱり叩いたり、命令したり?」
恋人を真綿でくるんで愛情をどばどば注ぎそうな印象の爽やかイケメンが実はドSでSM愛好家という事実に好奇心が抑えられなかった俺は、お兄さんの前の席を陣取り質問を続ける。こんな面白い話に飛びつかずにいられるか。
「いえ、俺はそういうのはしないですね。刃向かってきたら口の中に拳を突っ込むとか有名ですけど、あれは良くないらしいですよ。俺はお前のご主人様なんだぞって優位を示すための躾なんですけど」
「うわ、拳……いきなりハードだわ……」
「俺は無闇にストレスを与えたくないので、目を見て根気強く対話するように心がけてます。本当にダメなことをした時はビシッと叱りますけどね」
「はあーなるほど。力任せじゃない分逆にそっちの方が濃いっすね。すげえ本気の感じ伝わってきました」
SMってガチな世界なんだなやっぱり。
「そちらはどんな躾をされてますか?」
「ろくに出来てなくて放し飼い状態っス。俺がこんなだから言えたもんじゃないけど、今日もどこかほっつき歩いてんじゃないかな」
「それは……心配ですね。首輪はされてないんですか?」
「く、首輪させてるんです!?」
「はい、そりゃあ。日本ではそれこそ定番かと思ったんですが……」
「あー……まあそうか、そういう世界だもんな、うん。ちなみにどんな首輪なんスか?」
「悩みに悩んで、とっておきの特注品にしました!本革で毛の色に馴染む色にしたんですが、よく似合ってて可愛いんですよ」
「惚気ゴチっす。可愛がってるんですねえ」
「はい、とても。しっぽ振って喜ぶのとか見ててたまらないんですよね」
「サラッと出るお兄さんのドS発言、めっちゃいいっすね」
「はい??」
俺がドSというたびに解せんという顔をするお兄さん。本人に自覚がないところが余計にリアルなんだよな。
「そういえばお兄さんいい体してるし、アクロバティックなプレイも捗りそうっスよね」
「あはは、ありがとうございます。体力には自信ありますよ。向こうが遊び疲れて寝るまで付き合うのもしょっちゅうです」
なるほど、これが浮気しても許される要因か。相手を満足させて離れられなくしてるんだな。胃を掴むならぬ、体を掴むか。勉強になる。
「お兄さん飼い主の鑑だわ……ちなみに今までで一番興奮させたプレイとか聞いてもイイっスか?」
「興奮かあ、なんだろう。遊ぶと常に興奮状態でよだれダラダラなのでどれかと言われると迷いますね……。ああ、プレイじゃないし全然よくある話なんですけど、うちのは興奮すると粗相しちゃうんですよ。それも躾けて直さないとなんですけど、喜んでるのがヒシヒシと伝わってきて可愛いなあって思っちゃうんですよね」
「待って待って待って。サラッと言ってますけどヤバいっスよ。興奮して?粗相?それ生活に支障出ますって」
「ははは。もう慣れましたし、庭とか外でする分なら掃除しなくていいのでそんなに大変じゃないですよ」
「大変ですよ野外とかなにやってんですか」
この人やばい人だ。もっとはみ出してる自覚を持って欲しい。とんでもない爆弾発言に目を白黒させていると、入り口あたりからざわめきが聞こえて来る。ほらおまわりさんのお迎えじゃないの?野外プレイは逮捕されても仕方ないと思います。
「正義」
「リチャード!もう約束の時間だっけ?」
「いえ。通り道のカフェに居るとおっしゃっていたのでお迎えにあがりました」
「そっか。わざわざありがとな。あの、こいつが電話の相手です」
「え、あ、へ、あの、」
まさかのパートナーの登場。
待ってくればかり言っているが、ちょっと待ってくれ。
驚きその一、パートナーが男。
その二、その男が超超超絶美人。涼しげな美人だけど、たしかプレイ中は常に興奮してよだれダラダラになるんだよな。それにハイネックに覆われている首元に特注の首輪が装着されていると思うと……なんだか変な気分になってきた。
その三、こんな高嶺すぎる花を手に入れておいて、お兄さんが浮気しまくっているという事実。
俺は同性には興味ないが、この超絶美人に付き合ってくれと言われたら喜んで受け入れるどころか、浮気はおろか逆に犬にならせてくださいと懇願するレベルなのだが?
「そういえば顔が少し赤いけどどうしたんだ?」
「天気雨がパラついたため走ったせいかと。もう雨は上がっておりますし、外気温が低いのでじきに治りますよ」
「具合が悪い訳じゃないんだな?」
「むしろ好調です。ご安心を」
待て、そういえばさっきお兄さんはなんて言ってた?
───興奮すると粗相しちゃうんですよ
このクールな超絶美人が?興奮すると?粗相をする?
走って息が上がったり、ご主人様に会えただけで興奮……は流石にないよな?いや、ドSを極めたお兄さんのパートナーのドMならあり得なくもない。仮にいま粗相をしたらグレーのスラックスが濃い色に染まってさぞかしエロ……待て待てやばいって何考えてんの俺。
「こちらは?」
「俺たちと同じ悩みを共有しているお兄さん。その話で盛り上がってたんだ」
「そうなのですか。お互い大変ですね」
「そうっスね?はは、ははは……」
大変なのはこの状況じゃねえの?浮気の謝罪の後にこんな穏やかに顔を合わせられるモン?もはやそれすらプレイの一環なのか?俺は訳がわからなくなって、手元のアイスコーヒーをずぞぞっと啜る。夢ならばどれほどよかったでしょう。ほろ苦さがこれは現実だと訴えている。
「悩みは尽きませんが、愛情をもって真摯に向き合っていれば自分たちなりの答えが見つかるはずです。お互い頑張りましょう」
ま、待って〜!この粗相美人めちゃくちゃ人格者だよ。真面目な優等生ゆえに抑圧された部分がドMへと導いたとかそういうやつ?
ていうか前向きすぎてやばいよ。俺は貴方の下半身が心配だよ。
「そういえば、先ほどの件の一時的な解決策が見つかりました。専用のオムツはいかがでしょう」
「ああ〜そっか!そういうのもあるのか」
「私も良し悪しはわからないので取り入れて良いものかプロに相談いたしましょう」
「そうだな。早速見にいくか」
「はい。それでは私どもは失礼いたします」
「ふぁ、ふぁい……」
秋の空、オムツ履く気の、ド美人や。
ほぼ意識を失いかけている俺に二人は眩しい笑顔を向け去っていった。
すごい世界を見ちゃったな……。
なんか、俺の浮気のスケールってちっちえなあ。
スリルだとか男の本能だとか言ってるだけで、俺はお兄さんみたいに自分の欲望を満たしつつパートナーや浮気相手を満足させるなんてとてもできそうにない。
そう考えていると、生半可な気持ちでズルズル浮気をしてた自分がダサくて恥ずかしくなってきた。
あーあー、まあなんだ、その。
今日はアイツにケーキでも買って帰るとするか。