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    torimizm

    @torimizm
    審神者と賢者。
    小説はそのうちpixivに突っ込む予定
    妄想は同アカウントのタイツがメイン

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    torimizm

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    ↓の兄弟パロカイオエのオーエンサイドの話。
    「呪い」と書いて「愛」と読む。
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21655318#4

    #カイオエ
    kaioe

    きみに捧げるあいの歌 実の親に恵まれず胡散臭い双子によって育てられたオーエンの人生は奇妙なものだった。引き取った双子は「片方がパパになったらお揃いじゃなくなっちゃう」と意味不明なことをのたまいオーエンのことを知り合いの医者の養子にしたし、医者は半分闇医者で名前を言われるままに貸しただけだったからオーエンとの交流は一切ない。
     育ての親となった双子は彼らなりの愛情を注ぎはするが子育てには向かなかったし、育てのパパが二人と戸籍上のパパが一人で、パパが多すぎて幼いオーエンは混乱した。こんなにたくさんいらないし全員ろくな奴じゃない。そしてやがて自分を取り巻く環境の異常性を受け入れて、諦めた。毎日お菓子が食べられるのでそれでいいことにした。
     こうして家族っぽいけど家族じゃないパパ達に囲まれオーエンは諦めと惰性で真っ直ぐ捻くれて育った。それが今の自分、オーエン・ガルシアである。
     きっとこのままおかしな連中に囲まれておかしな人生を終えるのだろう。そう信じて疑わなかった。昔ほど悪い日々ではないがオーエンを取り巻く環境は退屈でイカれている。けれどそんなつまらない世界はある春の日の深夜に突然色を変えてしまった。単調な白い生クリームの海に金と赤のアラザンをこれでもかとぶち撒けて、その上にピンクやら赤やらありとあらゆる色の甘酸っぱいソースでめちゃくちゃな模様を描いた、たとえばそんな失敗作のケーキみたいな特別な色に。






    「オーエン!俺だよ!わかるだろ!」
     わからなかった。仕事の打ち合わせで日付が変わる頃に帰ってきて、後はもう甘い物を食べて寝るだけだったのに玄関に不審者が蹲っていた理由などわかるものか。とりあえず先手必勝とばかりに警告も込めて蹴り飛ばしたら不審者はノーガードで転がって、起き上がり、オーエンの名前を呼んだ。
    「お前、もしかしてカイン?」
     星明かりに照らされて浮かび上がった赤い髪は遠い昔に見覚えがあった。それによく顔を見ると自分と同じ色をした瞳が二つ嵌っている。カイン・ナイトレイ、生き別れの弟だ。オーエンはそう確信した。
     カインは当時から頭が悪そうだったのできっと忘れていると思うが、オーエンは物心ついてから一度だけ彼と会っている。ほとんど会話らしい会話もなかったが、馬鹿みたいに明るいところとオーエンのチョコを一人で全部食べたことは今も忘れていない。特にあのチョコは今でも心残りで時々夢に出てくる。自分が病的な甘党なのは絶対あの時チョコを食べ損ねたせいだ。つまり全部こいつのせい。
    「ついにお前も捨てられたの?」
     オーエンの素朴な疑問にカインは笑顔で首を振った。不幸にも大学受験が上手くいってしまい、愚かにもオーエンに会うべく上京してきたそうだ。なんとおめでたい奴だろう。普通、実の父親から引き取り拒否され知らない闇医者の養子になった兄に会いにくるか?馬鹿なのか?オーエンは困惑した。十年以上ぶりに会った弟があまりにも馬鹿すぎて心配だった。もしもこのまま追い出したなら野宿して路頭に迷うかもしれない。いくらなんでもそれは流石に寝覚が悪いし、万一保護された際の身元引受人に指名されそうな予感がするので嫌々だが家に入れてやることにした。双子の名義で、自分の希望を取り入れた新築の我が家は一人で暮らすにはかなり広い。あちこちに倉庫があって収納過剰の便利な家だが、カインは今日から自分もここで暮らすものだと信じて一人ではしゃいでいた。とりあえず今日は適当に相手をして、朝になったら送り返そう。もう眠いので元気な大型犬に付き合ってやるつもりはない。
    「なあ、妹は元気か?今どこにいるんだ?」
    「は?」
     可哀想に。弟は頭を患っているようだった。オーエンの送り付けた怪文書や藁人形は東京ジョークだと思っているし、更には架空の妹まで爆誕した。どこまでも面倒くさい奴である。それともまさか知らないうちに再婚して腹違いの妹が増えたのかと一瞬ほんの少しだけ疑ったが、真実はそれよりも更に悪いものだった。
    「本当に、会ったんだ。俺がまだ幼稚園の時に、父さんが母さんと話があるからって連れて行かれて、俺とその子は別の部屋で遊んでなさいって言われて、一回きりだったけどちゃんといたんだ」
     カインのその証言でオーエンは全てを察した。この馬鹿で愚かで可哀想な弟は、昔一度だけ会った兄のことを妹と誤解して十年以上生きてきたのだ。たしかに当時は栄養が足りず背も低かったし格好もアレだったが、まさか架空の妹にされていたとは思わなかった。そんなことより覚えているなら当時一人で全部食べたチョコの件を謝罪しろと思ったが、あの妹(仮)が自分であることを説明するのが果てしなく面倒くさくなってしまって、手っ取り早く妹を殺してしまった。
    「そいつなら死んだ。お前が会ってすぐ」
     死因は栄養失調だ。チョコ食べたかったな。とりあえず会話も終わったし寝よう。眠い。オーエンがそんなことを考えて部屋に帰ろうとした時、自分と同じ色をした瞳がぽろりと涙を零した。信じられないことに存在しない妹が兄の眠気と怠惰のせいで死んでしまったことをカインは悲しんでいた。
     え、どうしようこれ僕が悪いの?オーエンは悩んだ。言い負かして泣かせることもボコボコに殴って泣いて命乞いされることも今まで星の数ほどあったが、勝手に突然泣かれるのは初めてだった。まったく意味がわからない。
     カインが架空の妹と出会ったのは一度きりで、一時間にも満たないわずかな時間でしかない。それなのにそんな存在のために流す涙があるのか。オーエンはどうしていいのかわからなくてオロオロと柄にもなく狼狽えて、けれど今更あの妹が自分だなどと言える空気でもなくて、仕方がないので部屋を出て地下の仕事部屋にある仮眠用の毛布を持って戻ってきた。とりあえず寝かしつけてしまおう。馬鹿だから寝たら全部忘れるかもしれない。そんな一縷の望みを託してオーエンは毛布をカインに押し付けて自分の部屋へ逃げ帰った。同じ血が流れているはずなのにカインのことが全く理解できない。育った環境が違いすぎたのだ。何故ならこっちはパパだけで三人もいる。手持ちのカードがおかしい。
     その後オーエンはカインに押し切られる形で一緒に暮らすことになった。妹のことはあれから一度尋ねて以来知るのを諦めたらしい。名前を聞かれて答えられなかったオーエンの様子から真実を察したのかもしれない。他にカインについてわかったのは、肉が好きなことと、ある歌手に熱を上げていることだった。
    「オーエンは歌姫のファンなのか?」
     カインの口からその名前が出てきた時には飲み物を落としそうになったし、あるいは投げ捨てて自由になった手で記憶が飛ぶまで殴ろうかとも思った。カインの言う歌姫、もとい『夢ノ森の歌姫』は双子が歌手としてのオーエンにつけた名前だった。そう、オーエンは歌手をしているのである。性格が悪くすぎるおかげで歌う以外の仕事はほとんど免除され、性別不詳どころか事務所が作った電子の存在とまで言われているわけだが、謎が謎を呼び続けたおかげか今や弟にまで知られるほどの有名歌手になったらしい。いい迷惑だ。まさか自分も買ったCDの売上でカツカレーを奢られているとはカインも思うまい。そのまま永遠に気付くなと柄にもなく祈りを捧げたくなった。







     こうしてカインとの生活が始まった。朝起きると毎日誰かいるというのも不思議だし、自分以外の食べ物を用意しておかないといけないのも変な気分だ。とりあえず肉を与えておけばいいだろうと、毎日いろいろな肉を買って置いておいたら一人でもぐもぐ食べているので面白かった。カインが何か食べているのを見るのは好きだ。甘い物はやらないけどそれ以外ならいくらでも食べたらいい。
     カインはいつもうるさくて、笑っていて、鬱陶しい。用がなくても話しかけてくるしオーエンのことも歌姫のファンだと思っているし、何故か近頃ミスラとも勝手に友達になっていた。危ないからミスラに関わるのだけはやめてほしいのだがカインはさっぱり危機感がない。
     たくさん食べるし迷子になるしカインはとにかく手が掛かる。退屈だったオーエンの生活が少しずつカインに侵食されていく。
    「肉だけ食べさせてるのは駄目なの?葉っぱも大事?」
    「昨日は馬鹿が帰りの電車で迷子になって迎えに行ったから、作詞なんにも進んでない」
    「おいミスラ、うちに勝手に遊びに来るなよ!」
     オーエンは決して外でカインの名前を呼ぶことはなかったけれど、オーエンの周りの人々は彼に大切な誰かができたらしいと一目で理解した。それほどまでにカインと出会ってからのオーエンは生き生きとしていたのだ。
    「なんとなく惰性で生きているだけみたいだった子がのう」
    「うむ。やはり我らではあの子の家族にはなれんかったようじゃ」
     オーエンの様子を誰より喜んだのは育ての親の双子だった。もちろんそれで仕事の手を緩めることはなかったが、オーエンが楽しそうにしているのを二人で仲良く微笑ましく見守っていた。
    「扶養家族が増えて食育が進むのは助かる。まずは三食摂ることから覚えてくれるといいんだが」
     オーエンに頼まれて食事を作りに行くようになったネロも、呆れたような顔をしながらどこか嬉しそうだった。
    「俺の友人も増えました。今度一緒に買い物でも行こうかと思って」
     オーエンの家に勝手に押しかけたミスラも彼の弟を気に入っているようだった。それはそれでオーエンが威嚇するのだが喧嘩はいつものことなので誰も気にしない。
     とにかくオーエンの変化をみんなが喜んでいた。オーエン自身は自分が変わっていることなど微塵も気付きはしなかったし、カインに愛着を持っている自覚もなかった。オーエンがカインとの暮らしを心から楽しんでいることをオーエンの周りの人々だけが気付いていた。
     しかしそんな微笑ましく見守る日々はある日突然終わりを告げた。今にも誰かを殺しそうな雰囲気のオーエンが事務所に現れ、マネージャーの晶が思わず息を呑む。
     カインに何かあったのだと誰もが予感した。そしてオーエンが暴れてもいいようにある者は退避し、またある者は一体何が起こるのかと離れて様子を伺った。
    「頼みがあるんだけど」
     革張りのソファに二人で腰掛ける双子に向けてオーエンは冷たい声で言い放った。
    「来月の三日に、渋谷でゲリラライブやる」
     今は四月で、来月の三日といえば大型連休の祝日だ。だからその宣言が明確な殺意を持ったテロ予告だと誰もが瞬時に理解した。新曲が出る度にオリコン首位に数週間は居座るような正体不明の人気歌手が突然東京のど真ん中に現れたら間違いなくパニックになる。オーエンがそんな簡単なことに気付かないはずもなく、つまり彼の目的は起こる混乱そのものなのだ。
    「ちなみに理由を聞いても?」
    「カインがデートするから、ぶち壊す」
     犯行の動機はあまりにもちっぽけな私情に溢れていた。あの双子達ですら、そっかあ、と困惑混じりの相槌しか咄嗟に返せない。けれどオーエンは真剣で深刻だった。弟のデートを邪魔するためだけに今まで頑なに伏せてきた素顔を晒す覚悟さえ決めたくらいに。
    「弟がデートするの、そんなに駄目なの?」
    「十代でしょ?遊びたい盛りじゃない?」
    「駄目に決まってるだろ」
     オーエンの覚悟は堅かった。具体的にはどこがどう駄目で気に入らないのか、苛立ちに声を荒げながら細かく説明してくれた。
    「GWは遊びに連れて行ってやるつもりだったのに、理由つけて僕と遊ばないんだ。それに最近そっけなくて、キスすると困った顔するし」
    「キスするの!?」
    「するよ。兄弟なんだから普通だろ」
     それはたぶん普通じゃないと、オーエン以外の誰もが気付いていたけれど誰も何も言わなかった。離れたところで様子を見ていたネロと晶が双子を無言で見つめる。たしかに昔から二人で一人と公言するような双子を見て育っていたのならそれくらいの誤解はするかもしれないと思ってしまった。双子がキスをするかはさておき、彼らはいつもお揃いをこよなく愛し、お揃いにならないからとオーエンの親権をよそに渡したくらいには頭がおかしい。これが普通の家族だと思っていたら弟のデートごときでテロ予告もするかもしれない。
    「オーエンが可哀想になってきたな……」
    「兄弟像濁りますよね。あれ見て育ったら」
    「ちょっとそこ、聞こえてるんですけどお?」
     今更オーエンに兄弟としての正しい距離感と価値観を説いたところで無駄だろう。その証拠にオーエンの計画していたGWの旅行も様子がおかしかった。
    「一緒にお風呂入ろうって誘った時に家の風呂は狭いからって断られたから、東京観光ついでに大きいお風呂のあるホテルへ行くつもりだったのに」
    「ちなみにどの辺にあるホテル?」
     家族風呂のある旅館とかならいいなというささやかな願いを込めたネロの問いに帰ってきたのはラブホ街だったので完全にアウトだった。そこは家族が風呂を楽しむホテルではない。
     キスもするし一緒に風呂にも入りたい。それは世間一般では兄弟への親愛ではなく恋と呼ぶ。けれどまともな愛情を知らずに育ったオーエンはそのどちらも知らないので、初めて芽生えた感情につける名前がわからないのだ。そのせいで盛大に解釈と行動がバグっていた。なんという悲劇だろう。これはもしかしたら弟はオーエンから逃げようとしているのではと薄々予感はするが流石に口には出せない。
    「……GWはスケジュール開けられますけど、場所押さえるのは厳しいですよ」
     話題を変えたかったのか、マネージャーの晶が手帳を開いて見せた。たしかに大型連休の予定を今から抑えるのは難しい。そもそもゲリラライブとなると一般的な箱では駄目だし、路上でやるには様々な許可が必要だ。
    「それで、具体的に何がしたい?」
    「やれるだけのことはしてやろう。フィガロならまだあの辺に顔がきく」
     このまでの発言でオーエンの暴走と迷走は理解していただろうに、双子は彼を止めるつもりはなさそうだ。それはそれとして「あの辺」とは具体的にどの辺なのかは聞かない方がいいのだろうと、ネロと晶は聞こえなかったふりをして窓の外へ目をやった。今日もいい天気である。
    「新曲を歌う。作詞と、作曲も僕がやる」
    「ほう。自分で曲を作るのは久しぶりじゃな」
    「けれど今からだと猶予は一週間もないぞ?」
    「いい。作る」
     オーエンの答えに迷いはなかった。それならば力を貸そう、いや、責任を取ろうと双子は高らかに宣言をした。マネージャーの晶はスケジュールを想像して顔を青くし、ネロは親としての責任の取り方はそれでいいのかと心の中で突っ込んだ。
    「他にほしいものは?」
    「ピアノの生演奏。ラスティカがいい。カインが演奏気に入ってた」
    「ふむ。事務所は違うが伝はある。掛け合ってみよう。他には?」
    「ネロ、曲作るの手伝って。あとカインのご飯係」
    「えっ俺!?」
     突然巻き込まれたことにネロが驚いて声を上げた。けれど編曲の時にもよく呼ばれているし、食事を考える時間すら惜しいのもわかる。どうせ断っても社長命令が飛ぶだけなので、いろいろ突っ込みたい言葉を飲み込んで片手をあげて了承の意を示した。
    「とはいえ今回はいろいろと無理を通すからのう。対価はもらわねばならん」
    「わかってる」
     これは交渉であり商談なのだ。育て方を間違えた親とはいえオーエンの言い分ばかりを聞いてくれる双子ではない。そのことはおそらくわかっていたのだろう。オーエンはポケットの財布から銀行のキャッシュカードを双子に向かって放り投げた。
    「番号はわかるだろ。費用はそこから自由に使って」
     その口座には今まで稼いだお金が全て入っている。足りなければ家でも車でもくれてやる。迷いなくそう告げるオーエンに双子は楽しげに笑みを深める。
    「他には?」
    「断ってた例の仕事やってあげる」
    「えっ、歌姫の写真集のやつですか!?」
     オーエンの言葉に驚いたのは晶だ。前からオファーが来ており、オーエンが元モデルということもあり双子も乗り気だったのだがオーエンがずっと過激に拒否していたので実現しなかったのだ。そんなことするくらいならとブチ切れたオーエンが事務所の調度品を次々に窓の外へ投げ捨てた事件は比較的最近のことだ。
    「ただし、賭けに負けたらね。僕が勝ったら歌姫はやめる。もう二度と歌わない」
     オーエンは晶を振り返り、綺麗な顔に笑みを浮かべた。その瞳には一片の迷いもない。ゲリラライブの話がなぜそんな賭けの話になるのかわけがわからない。そう思ったのは晶とネロだけだったようで、双子は楽しそうに微笑んでオーエンの言葉の続きを待っている。
    「カインが僕に気付かなかったら騙し通した僕の勝ち。もしも気付いてデートを放り出してきたら僕の負け。簡単でしょ?」
     ああ、なんという天邪鬼。ちっとも簡単ではない理屈は実にオーエンらしかった。デートを壊したいのに、壊れなかったら勝ちだなんて絶対おかしい。これはきっとオーエンなりの予防線なのだ。カインに気付いてもらえなくても悲しい以外のご褒美があるように、勝ちと負けをわざと反対にした。
    「うむ。それでよい。歌えなくなったらその時は我らがまた新しい仕事を探してやろう」
    「間違えるなよ。歌えなくなるんじゃない。歌わなくなるんだ」
    「はいはい、そうじゃな」
     ぽん、と双子が手を叩く。いつもの仕事開始の合図だ。晶は早速手帳を見てどこかへ電話をかけ始め、ネロもパソコンで渋谷の過去のライブの記録を調べる。たとえどんなイカれた仕事だろうと社長が決めたことならば絶対なのだ。
     頑なに正体を伏せていた歌姫がある日突然現れて喋ったら、街はきっと虫籠をひっくり返したような騒がしさになるだろう。大ファンの歌姫が目の前に現れて、しかも自分の兄だと知ったら、カインはどんな顔をしてくれるのだろう。気付くのか、気付かないのか、本当の自分を受け入れてくれるのか。オーエンはたとえ何を犠牲にしてでもその答えが知りたかった。
     でももしも本当に、カインが自分の歌に興味を示さなかったら。この声が届かなかったら。彼の目が自分ではない誰かを映し続けたのなら。その時は歌姫は存在する意味を失う。たった一人にさえ届かない歌ならいらない。歌姫なんか、心なんか、死んでしまえばいい。
    「待ってくださいオーエン。一つだけ、先に教えてください!」
     一刻も早く歌を作るため自宅に帰ろうとしていたオーエンを晶が呼び止めた。新曲の名前は、という問いに目を閉じて言葉を探す。これは渋谷を混乱と狂乱の渦に落とす歌、歌姫を殺す歌、たった一人を振り向かせるための歌。
    「《クアーレ・モリト》」
     それは呪いで、愛で、祈りで、そして無自覚の悋気を込めた最高の歌になり、GWの渋谷を歩く人々を魅了した。混乱した熱狂する人々をビルの窓から見下ろしオーエンは待ち続ける。息を切らせてドアを開け、自分の名前を呼んでくれると信じて。
     お願いだから、どうか。僕をみつけて。歌に込めたその呪いは彼に届いてくれるだろうか。
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    Replies from the creator

    torimizm

    DOODLE1.5章の後のカイオエ。
    毎晩怪我を見に来るオエと、むらむらしてる騎士様。
    毎晩夜這いされているので我慢できなくなったケルベロスに腹を喰われて死に掛けてからオーエンが毎晩寝込みを襲撃してくる。
    「見せて」
    寝ようとしていたところに突然現れて布団を剥いで、乱暴にシャツを捲って腹を確認するのだ。本当に毎晩、一度も欠かすことなく。
    酷かった傷も治療の甲斐があり、今はもう包帯も外れている。任務はまだ免除されているものの授業には無理のない範囲で参加しているし日常生活にはもうほとんど支障はない。それを何度伝えても、塞がりつつある傷口を二色の眼で確認しても、オーエンは来るのをやめない。馬乗りになって問答無用で脱がして傷を確認していく。
    はじめの頃は見るだけだったその行為も包帯が取れて傷が小さくなってからは腹に直に触られるようになった。白い指が傷口のあたりをいったりきたりなぞって這い回るのは正直変な気分になる。相手はオーエンで、これは夜の闇が見せる錯覚なのだと何度も己に言い聞かせるカインのことなど知るよしもないオーエンの確認作業は夜を経るごとにどんどん大胆になっていく。最近は傷だけでなく腹筋や胸筋にも興味が出てきたようで不思議そうに眺めては撫で回される。本当にやめてほしい。
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