紺のスーツを身に纏い、金のネックレスや指輪を着け、思いっきり脚を開いて頬杖を付いて座る兄。滅多に着ない服を着て、威圧感を出している。
「本心は?」
「・・・すげぇ恥ずかしい!!」
兄に気持ちを聞いた途端、脚を閉じて恥ずかしさの余り両手で顔を隠す。普段のほほんとしているので、そのギャップのせいで兄は悶えて悶絶している。
「本当はこれ着たくなかったんだよ!!でもカチコミだからもう少し威厳とかあった方がいいかなって思ってるけどいざ着ると恥ずかしい!!」
「本心は?」
「ブッ殺す!!」
「雄華ママ、オレンジジュース」
「は~い」
身悶えながら恥ずかしがり、急に血相を変える情緒不安定な兄を横目に雄華ママにオレンジジュースを注文する。今は雄華ママのお店で兄と一緒にいる。
「まさかカチコミなんてね♡うふふっ、血が滾るわ~♡」
「お兄ちゃん、この人相手をディープキスで沈めそうな気がする」
「その前に一方的に蹂躙するぞ」
「ちゃんとシェイプアップしてるからね♡」
今の雄華ママの格好がシャツを着ずに、ジャケットとタイトスカートだけなので胸や腰、お尻のラインがくっきりと分かってしまう。おまけに雄華ママは男で更に鍛えているため、もう視界の暴力である。
「それはシェイプアップじゃなくてバルクアップだと思う」
「バルクアップしてるのは山口さんだよ」
「あーあの筋肉モリモリマッチョマンの変態か」
「山口さんは変態じゃないわよ、筋肉バカなだけよ」
「どっちみち変人だってことには変わり無いと思うし」
「思ったけど麻里ちゃんって口悪い?」
「たまに毒吐く」
雄華ママと兄が私の話題で盛り上がる最中、オレンジジュースを飲んでいると、バーのドアが開いた。
「あら、いらっしゃい」
入ってきたのは兄よりも年上の男だった。いかにも刑事といった感じの。
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真っ昼間にも関わらずここのバーはやっていた。俺は情報がないかと思いドアを開けると、カウンターにスーツを来た若い男とセーラー服を着た高校生くらいの少女がいた。
「あら、いらっしゃい」
雄華が俺を見た瞬間、営業スマイルから好意を持った笑顔を向けてきた。初めて店に入った時からあの顔で見られているような気がする。
「こんな店にガキがいていいのか?」
「お得意様の一人よ、それに子供にはオレンジジュースしか出してないわ♡」
「いいのかそれで」
「いいのよ♡それより何か飲む?」
「いや、情報が入ってきてないか来ただけだ」
「情報?もしかして如月会か?」
男が俺の言葉から心当たりある名前を出した。まさか知ってるとは思わず、俺は雄華に少し疑う視線を向ける。
「そんな怖い目で見ないで♡私から聞いたわけじゃないわよ♡」
「おい、お前なんで如月会のことを知ってるんだ」
「そもそもヤクザだからだ」
そう言って男はジャケットの胸ポケットから名刺を取り出す。名刺には〈伊月組 三代目組長 伊月暁人〉と描かれていた。俺は男の顔を見るが青年に近い顔つきだった。
「伊月組三代目組長、伊月暁人」
「お前、いくつだ?」
「22、組長になったのは17」
今時ヤクザでもこんなガキが組長になるなんて珍しい。
「そっちは妹か?」
「妹の麻里だ。伊月組若頭、伊月麻里」
「お前の妹いくつだ?」
「17」
「はぁ!?」
年齢を聞いて驚愕した。こんな若くて組の若頭なんてありえないだろう。
「本当か?」
「そうだよ、でも名ばかりだけどね」
麻里という少女は笑いながらジュースを飲む。それにしても、高校生くらいの子がヤクザの若頭になれるなんて珍しいもんだ。
「だって私がやる前に皆がやっちゃうし」
「前に侵入してきた如月会の下っ端を一撃で沈めたのは何処の誰かしらね~」
「だってあんなやっすい銃持ってる素人にやられるわけ無いじゃん」
「お前の拳は凶器だからなぁ~」
俺は麻里の話を聞いて驚く。高校生くらいの子が銃を持っている奴を一人で沈めた?どうやったらそんなことが出来るんだ。
「警察ならさ、あれをお願いできるんじゃないかしら?」
「確かにその手があったか」
雄華の提案に暁人は手を叩いて納得した。俺は何が何だか分からないまま、二人の会話を聞いていると暁人がこちらをみる。
「俺達は近いうちに如月会にカチコミに行く、その時一緒に来てくれないか?」
「いや、さすがにヤクザからお願いされても行かんぞ」
「大丈夫♡もし何かあったら私が守るから♡」
雄華がそう言って俺の腕に引っ付いてきた。胸が当たってるせいで俺は顔を赤くしてしまう。それを見て麻里はニヤリと笑う。胸筋が当たっているだけなのに。
「これはどう捉えればいいんだ?」
「手伝ってやるからその腕を退けてくれ」
「いーやーよ♡」
「勘弁してくれ」
厄介なものに好かれたなと思う俺だった。
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カチコミ当日、如月会の本拠地はビルが建ち並ぶ地域にあり、都内でも有数の繁華街に位置していた。KKの助けもあり、警察が協力して如月会の本拠地に踏み込むことが出来た。
「ここがKKが言ってたビルか」
「あぁ、そうだ」
暁人と俺は本拠地であるビルの目の前にいて、近くには仲間を配置した。周りは警察が囲んでおり、逃げ道はない。
「この中に入れば恐らく待ち構えている連中がいるはずだ。その前に一ついいか?」
「何か?」
「酒飲ませろ!!」
「プロテイン飲みてぇ!!」
「ねえ組長まだですか?」
「イケおじのKKに良いとこ見せちゃおうかな♡」
「武器のメンテナンスはもう済ませたわよ」
「腕が鈍ってないといいんですが・・・」
「お前のとこの連中っていつもこうなのか?」
「普段からそうだよ、でもカチコミだからテンションが高いだけ」
俺は伊月組の連中を見て天を仰いだ。