シャツを買いに行く📿さんと付いていく🍃さんのごく短い話 夏服の買い物に一緒に行ってくれないか、と付き合って2ヶ月の恋人から頼まれれば、断る選択肢があるわけがない。待ち合わせに指定されたのは、老舗ばかりが名を連ねる都会のど真ん中。そこだ、と言って太い指が柳の揺れる通りの一角を示す。渋い輝きを放つ金属のアルファベットは、ローマ字で書かれた店名だ。飾りっけがないからこその静かな気迫に気圧されて、小さく唾を飲む。ショーウインドウには仕立て途中のシャツが飾られ、次の一針で命を吹き込まれるのを待っている。そして、そのウィンドウに映るのは、ぴしりとしたシャツに隆々たる肉体を包んだ悲鳴嶼さんと、場違いにカジュアルなカットソーを着た俺。完全に着る物の選択を間違えて、見えない壁の存在を感じている俺をよそに、悲鳴嶼さんはいつもと変わらない歩幅で店の入り口へと足を進める。どうした、と片眉を上げて怪訝な顔で振り返る悲鳴嶼さんを追いかけて、俺も慌てて重いガラスのドアを押した。
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