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    はろるど

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    はろるど

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    こんなんだったら可愛いな~~~~~の妄想100%

    輪廻リヒアネの馴れ初め まだ夏の暑さが残るようなそんな季節だったと思う。今年で十歳になったアネットは首をかしげながら廊下を歩いていた。
     親に連れられて訪問したベルモンド家は貴族ではないものの、豪奢な屋敷を持っており聞けば別荘もあるようだ。先代が鑑定士として優れた技能を持っており、さらに骨董品輸出入で荒稼ぎをしたと父から説明を受けた。
     文字通り世界中から集められた収集品は廊下などにも飾られており、それはどこか不気味で気味が悪い。
     同じく商人である父がベルモンド家にやって来たのは融資を受けるためだという。これがアネットと関係があるのか、ちょっと考えれば分かる。父は政略結婚としてアネットを利用しようとしている。
     現当主の息子も同じくらいの年齢だと知ってから、父は考えていたのだろう。
     父とベルモンド家の当主との話についていけず、アネットはこの屋敷を散策することにした。
     当主から蝋燭に触らないこと、たまに扉が空いていることがあるが中を覗かないと約束したが、どうも同じところをグルグルと回っているような気がするのだ。
     そんなはずがないとリボンを閉まっているドアノブに結んだのだが、自分の先に現れ呆然としてしまう。戻っても進んでも同じ場所にたどり着いてしまう。
     どうしようどうしようとベルモンド家に向かうときに聞いたメイドのうわさ話を思い出す。
     ベルモンド家は闇を彷徨く化け物を祓い続けているが、同時に呪われている。その呪いは血脈に刻まれており、同じ人と思えないほど尋常ではない力を持っている。
     足が疲れてしまったアネットは廊下の端で座り込む。家に帰りたい。膝に顔を埋めてぽろぽろと涙がこぼれるのを止められない。
    「ねえ、なにやってるの?」
     最初聞いたときは空耳かと疑った。戻っても進んでも変わらないのに、異変が起きた。眼の前に立っていた少年―栗色の髪に半袖から見える肌は健康的に焼けている―が声をかけてくれていた。
    「ど、どこにもいけ、なくて」
     お家帰りたいとアネットは少年に抱きついた。飛び跳ねるほど少年は驚いたのか、手の置き場も知らない。
    「ん、その髪留めこわしてもいい?」
    「え、だめだめ! メイドさんが用意してくれたの」
     少年は同じようなの代わりにあげるからと、アネットの髪からアズライトとラピスラズリが嵌められている髪留めをスッと外した。
    「かえして」
    「ごめん、でもこれは悪いやつだから」
     何か唱えたと思ったら少年の手の中でそれは燃え上がり朽ちてしまった。アネットは少年に抱きつきながら、炎の中で断末魔を上げる何かを見てしまった。
    「これで安心! 君は家に仕掛けた魔封じの罠にかかっちゃったんだよ」
    「本当に大丈夫?」
    「じゃあ、俺と一緒に行こう。しゅぎょー終わったから用意してあるおやつ食べていいって言われているし、君も食べよ」
     また一人になって出られなくなったらと考え、アネットは頷くしかなかった。彼に置いていかれたらと思うと不安で仕方ない。
    「そうだ、名前聞いていない! 俺はリヒター」
     急に恥ずかしくなって離れたアネットの手を握り、ぶんぶんと振る少年ことリヒター。何にも考えてないような顔が妙な安心感を与えてくれる。
    「私はアネットって言うの」
    「よろしく、アネット」
     にこにこ~と笑いかけられアネットも思わず破顔した。道すがらベルモンド家のことを教えてもらう。
     噂より変な一族ではなさそうだ。ベルモンド家には分家も多くあり、彼もまたその一族の出なのだろうとアネットは思った。本家で吸血鬼狩りの技術を学んで修行するというのは、彫金師や鍛冶屋が弟子を取って育成するのと同じことだろう。
     アネットの家にもそんな人物はいる。父の手腕を聞いて見て手伝い、覚えたあとに自分の店を持つ若者。
    「ここが俺の部屋」
    「男の子だもん、もっと散らかっているかと思った」
     ふふっとアネットが笑うとリヒターは確かにちょっとテキトーなところはあるけどと頭をかく。
    「ぬいぐるみもあるのね」
     ベッドに置かれている羊のぬいぐるみは経年劣化で汚れていた。
    「それは母さんが作ってくれたやつ。苦役を課せられて、かがみ込み彼は口を開かなかった。
    屠り場に引かれる小羊のように毛を刈る者の前に物を言わない羊のように彼は口を開かなかった……って覚えられなくて、こいつに付き合ってもらったなあって」
    「イザヤ書五十三章よね。神父様でも目指しているのかしら」
    「そういうわけじゃないけど、う~ん、言葉じゃなく物理で救う方なの」
     説教とか懺悔室をするなんて俺のやることじゃないとリヒターは首を横に振った。依頼人の関係者であるアネットにあまり自分のことを話すべきではないと思った。
     依頼が解決してしまえば、アネットとの関係もそこまでだ。
    「あ、カントゥッチだ。牛乳つけて食べるとおいしいよ」
     ホコリよけにかけられていたナプキンをどかすと、リヒターは喜びの声を上げた。ホットミルクはちょうど良くぬるくなっている。
    「クッキーみたい?」
    「かちかちだから気をつけて」
     がりがりぼりぼり。そう思えないほどリヒターは頬張っている。アネットは硬いそれを何とか噛み砕いた。ナッツの甘みもあり、クッキーとは違う食感もおいしいと感じる。
     ただ、ものすごく乾いている。口中の水分を吸われているようだ。
     思わずむせるアネット。リヒターは迷わず、ぬるいミルクが入ったカップを手渡した。
    「ありがとう、リヒター」
    「あ、口についている」
     白いおヒゲが生えてしまったアネットの口周りを用意されているキレイなナプキンで拭う。
    「はぁ、リヒターみたいな人が相手だったらよかったのに」
     ベルモンド家の嫡子と婚姻関係を結ぶのが憂鬱だ。男同士なら友になれるが、男女の関係になればそうもいかない。
     化け物を狩る一族の直系ともなれば、見た目も熊か獅子で気性も荒いはずだ。父と話していた当主も独特の雰囲気があった。ずっといたら息が詰まってしまう。
    「相手ってなんの?」
    「結婚相手、父さんはベルモンド家の莫大な資産と教会への圧力がほしいのよ。でも、私は怪物なんかと結婚したくない」
     ふんふんと話を聞いているリヒター。とても言いことを思いついたのか、手のひらにぽんっと拳を乗せた。
    「俺がその怪物を倒すよ。それで、君と恋人になっちゃえばいい」
    「恋人って意味分かっているの」
     おずおずと尋ねるアネットに唸るリヒター。よく分かっていないが、ベルモンド家嫡子たるリヒターが選んだ女性を他の者がちょっかいを出すとは思えない。
     アネットの結婚相手はきっと、はげちゃびんで意地悪い分家のおじさんかもしれない。こんな可愛らしい子がそのおじさんといっしょになるなんて可哀想だとリヒターは考えた。
    「あまり分からないけど、俺に君を守らせてほしい」
    「言うのは簡単だけど……」
    「約束をちゃんと守る。これでも俺は――」
     言いかけたところで扉が勢いよく開いた。父さんとアネットが駆け寄り泣きついたのを見て、何も言えなくなった。
    「探したんだぞ、アネット」
    「ごめんなさい、道に迷ってしまって」
     でも、彼が助けてくれたとアネットはリヒターに視線を向けた。少し悔しそうな表情をしている。どうしてかしらと首を傾げるが、父はリヒターに対して形式だけの礼をした。
    「アネット、俺はその」
    「また、会いましょう。助けてくれて、とてもうれしかった」
     そう言われてしまえばリヒターは何も言わず俯く。ただ、今は二人を見送るしかなくぎゅっと拳を握りしめた。
     無情にも閉ざされた扉の前でリヒターは大きくため息をつく。一族にも同年代の少女はいるが、不思議なすみれ色をした髪が忘れられない。近づいたときに見えた瞳はエメラルドのようで、祖父が見せてくれた指輪やネックレスより美しいものだ。
     馬の嘶きに窓ガラスから外を見れば馬車に乗る二人が見えた。この屋敷には二度と来ないかもしれない。
    「代わりの髪留めを渡していない」
     彼女の大切なものを壊してしまったのだから、それを弁償する義務はあるはずだとリヒターは考えた。何とかもう一度会う理由を作らなくてはならない。
     会いに来てくれないなら、こちらから会いに行けばいい。約束を破ってしまうというのが性分的にどうも受け入れられない。
     できない約束をするのは嘘じゃないか。誰かを傷つける嘘は大嫌いだ。リヒターはとにかく曲がったことが嫌いなのだ。
     たった一人の女の子を守れずして、何が最強の吸血鬼ハンターだ。
    「俺はリヒター・ベルモンドだぞ」
     まぶたを閉じればあの花を咲かせたような笑顔が浮かんでは消える。寂しいような、悲しいような気持ちに胸が締め付けられる。
     無自覚ながらも恋をしたと気づくのに、そう長い時間はかからない。
     そもそも、アネットの結婚相手はリヒターである。次回、両親立会のもと出会った二人が、同じような叫び声を上げるのはすぐなのだから……。
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