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    daiaragu

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    daiaragu

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    オル光?ぼのぼの。
    オルシュファンの訓練から逃げ回るうちのこの話です

    英雄の逃走劇星四月十日 ドラゴンヘッド雪の家
       時刻/朝 天気/晴れ

     コンコンと扉がノックされ、木の板越しに明るい声が聞こえた。タタルが「どうぞでっす!」と返事をすると、爽やかな笑みを浮かべ私の盟友が部屋の中に入ってきた。
    「おはよう! 今日もイイ朝だな!」
     ハキハキとした声が部屋中に響き渡った瞬間。
    「風遁」
     私達の追いかけっこが始まるのだった。

    『えいゆうの逃走劇』
    「はぁっ! ここまで……こればっ! みつからないだろっ!」
     建物の影に隠れ、荒い息を整えるために深呼吸する。額に浮かぶ汗を拭い、建物に背を預けた。建物の端から辺りの様子を伺うが、オルシュファンの姿は見えない。どうやら上手く撒けたようだ。
     私は、オルシュファンに見つかるわけにはいかない。なぜなら、なぜならッ——
    「朝から騎乗訓練とか、馬鹿げてるッ!」
     見つかってしまえば、オルシュファンのスパルタ騎乗訓練が始まってしまうからだ
     事の発端はつい先日、バディの世話をしている時だった。
     オルシュファンと『うちのチョコボが一番かわいい』論争を繰り広げている最中、ふと奴がこう言った。
    「ずっと気になっていたのだが、お前のバディは少し大きくないか? 私の見立てではハイランダー用に見えるのだが、騎乗するときはどうするのだ? しゃがんでもらうのか?」
    「いいや、違う。この子の背には乗らないし、乗れないよ」
    「と言うと?」
    「この子は人を乗せられないんだ。理由は分からないけれど、誰が乗っても振り落としてしまう」
    「ふむ、それは冒険者のバディとしては致命的だな」
    「うん。でも私は背中に乗るつもりはないし、荷物が沢山載ればそれでいいから引き取ったんだ。人は運べないけど、とても賢くて優しい子なんだ。私はこの子と会えて幸せだよ」
    「そうか」
    オルシュファンが頬を緩ませて、いい主人に引き取られて良かったなとオルシュファンが私のバディを撫でると。「きゅい」と嬉しそうに鳴いて、オルシュファンの手に頬をすり寄せた。
    「ならば移動するときはチョコボ屋のを借りるのか?」
    「いいや? 借りないよ」
    「……移動のときはどうするのだ」
    「歩くよ」
    「チョコボには」
    「乗らないし、乗れない」
     私の言葉を聞いたオルシュファンが、眉を顰め考え込む。
     そして奴の頭の中で、色々な答えが交差して。
    「明日からチョコボに乗れるよう、騎乗訓練をしよう」
     爽やかな笑みで、鬼のような宣言をしたのだ。
     こうして、チョコボに乗れるようになるまで訓練することが決定したのであった……。

     くぅとおなかが鳴る。
     そういえば朝ご飯を食べていなかった。それを忘れるほど夢中になって逃げ回っていた。ああ、意識すればするほど、体が重だるく感じる。
     大きなため息をついて項垂れていると、ふわりと風に乗って香ばしい匂いが鼻先に届いた。肉の焼けるイイ匂いと、焼きたてのパンの匂いがする。そうか、今ちょうど朝ご飯の時間なんだ。ぐうぐうと腹が音を立てて「飯をよこせ」と抗議する。おなか減った、ご飯食べたい、食べたい、食べたい……。
    「いいや、ダメだ! 今食堂に行ったら確実に捕まる!」
     ポコポコと自分の頭を叩いて正気を保たせる。捕まれば地獄の騎乗訓練だ。それに比べれば朝ご飯なんて——
    「いやー今日の朝飯うまかったなぁ。まさかあんなに大きなソーセジが出るなんて思わなかったぜ」
     食事を終えた騎士の声が聞こえる。喉から手が出るくらい欲しいものを手に入れた、幸せそうな騎士の声が——
    「パリッとしてて最高だったなぁ」
    しょくじをおえた 騎士のこえが きこえる。
    「肉汁たっぷりで……あんなイイ飯食えるの何年ぶりだろうな」
    しょ くじ を おえた きしの……こえ が……
    頭の中がぐちゃぐちゃになる。口の中がよだれでいっぱいになって、口の端からこぼれだした。
    どこからからジュウと肉を焼く音と、パリッと皮のはじける音が聞こえる気がする……。
    「そーせーじ……そーせーじ……」
    ふよふよと目の前にこんがりと焼けたソーセージが現れる。手を伸ばせば届きそうな位の距離に、イイ匂いをさせて、ふわふわと。
    小さくしていた体を起こし、ふらふらと前へと進む。大きく口を開けて隠れていた建物から身を乗り出した。あともう少し、もう少し……!

    「こんなとこに居たのか。まったく、探したぞ」
    「うぇ?」

    後ろから腰を掴まれ、体がひょいと持ち上げられる。慌てて空を見上げると、そこには——
    「朝の準備運動は終わったな?」
    鬼教官オルシュファンが、にっこりと笑みを浮かべて私を見下ろしていた。
    「——っ
    声にならない悲鳴を上げながら、必死にオルシュファンの手から逃れようと暴れるがビクともしない。オルシュファンはそんなこと気にせず、軽々と私を抱きかかえて歩き出した。
    「さあ行くぞ。今日はチョコボ乗りの基礎から始めるからな。いい加減、覚悟を決めろ!」
    「——っ!!——ッ!!!」
    誰か助けてくれと大声で叫びたかった。だが、オルシュファンの笑顔を見て悟った。助けを求めても無駄だと。
    だってあの顔は、奴が自分の世界に入り浸っているときの顔だ。大方「チョコボに跨がり、雪原を走り抜く盟友の姿……イイ!」とか、思っているのだろう。
    はぁ、と大きなため息をつく。もうだめだ、どうしようもない……。
    オルシュファンという男は、他者が本当に嫌がることはやらせない人だが。ほんの少しでも可能性があれば機会を作ってチャレンジさせ「どう頑張っても無理」と本人が諦めるまで応援し、支え、努力させる男だ。私はそれに何度も助けてもらったし、感謝している。が! 何事にも例外があるように、オルシュファンの優しさの中にも例外がある。
    オルシュファンは、自分の夢見ることだけは、なんとしてでも実現させようとするのだ。
    そんな厄介者が、夢心地に独り言を呟きながらうっとりしているということは。
    無論今回の「チョコボに騎乗して、雪原を走り回る私を見てみたい」というのも例外のうち……なのだろう。
    「そうだ、訓練の間。お前のバディは私が責任を持って預かる。安心してくれ」
    「そんな心配はしていない。私は自分のソーセージが残っているのと、お前の暴力的な訓練内容が心配なんだ」
    「お前の朝食はしっかりと取ってある」
    「ほんとうか」
    「もちろんだとも。しかし時間が押しているからな、ソーセージは昼までお預けだ。代わりにパンを持ってきた、コレを食べてすぐ練習開始だ。いいな?」
    「…………」
    オルシュファンの言葉を聞き流し、私はそっと目を閉じた。

     それからというものの、奴は毎日飽きることも無く私を迎えに来て。
     私は、奴に捕まらないようにと逃げ続けていた。
     だけど。どういう仕組みか奴は必ず私を見つけ、訓練場へと引きずって行く。
     訓練用のチョコボと格闘し続け。オルシュファンの鋭い監視と指摘に辟易しながら練習を繰り返し。投げ出しそうになる私を奴は全力で応援して。もう一度挑戦して。
     そんな日々が続いていった。
    ***
    「よし、いい子だ。そのままゆっくり進んでみろ」
    「うぅ……わかった」
    私は言われた通り、ゆっくりと足に力を入れて、前に体重をかけた。すると私の相棒であるチョコボは、すんなりと前に進んでくれた。
    「おお……」
    オルシュファンが感嘆のため息を漏らす。私は涙目になりながらも、オルシュファンの方を向いてぐっとガッツポーズしてみせた。
    これが騎乗の訓練を始めてから1週間の成果だ。最初はうまくいかなくて何度も振り落とされたが、ようやく上手くいった。
    「努力の賜だな。よく頑張った」
    隣で見ていたオルシュファンが満足そうに微笑む。
    「ううう……もう降りていい?」
    カタカタと震える足でチョコボにしがみつく。チョコボに跨がれるようになったし、地に足がつかない感覚も慣れたけど。やっぱり怖い物は怖い。
    「ふむ。では次は私も一緒に乗ろう。それで少し慣れればいい」
    「え? オルシュファンも乗るの?」
    「ああ、問題ない。私のチョコボなら、お前一人くらい追加で乗せられる」
    そう言ってオルシュファンは自分のチョコボを呼んだ。すると、まるで待っていたかのように「きゅう」と鳴いて、奴のチョコボが駆け寄ってきた。その様子に苦笑いしつつ、オルシュファンのチョコボの背に乗る。
    「しっかり掴まっているのだぞ」
    「わ、わかった……」
    ぎゅうと腕を回して、背中にしがみつく。途端に心臓が跳ね上がった。オルシュファンの体温を感じてしまうほど近い距離。
    ドッドッと早鐘を打つ鼓動。
    頬に当たる汗ばんだ肌。
    オルシュファンの匂い……。
    苦手なチョコボの背の上だというのに、オルシュファンがいるだけで「大丈夫」と、根拠の無い自身が沸いてきた。それどころか、オルシュファンの匂いが心を溶かして、雪空の下だというのに体がぽかぽかと暖まってきた。——ふふ、ふへへ。
    「……出発しても構わないか?」
    オルシュファンの声で、ハッと我に返った。慌てて「なんでもない」と首を横に振る。耳元でずりずりと何かを擦り付けるような音がした気がするが、気のせいだと思いたい。
    「う、うん!もちろん!もちろんだ行こう!早く行こう!オルシュファン、発進」
    胸の音をごまかすように、大きな声で返事をする。そんな私を見たオルシュファンは、苦笑いしながら頭をひと撫でして。チョコボに合図を送り走り始めたのだった。
    そして私たちは一日中雪原を駆け抜けた。
    その後「いつまで主を引っ張り回すんだ」とコランティオに怒られるのは、また別の話。
    ***
    「ほら見ろ! この動き、とてもチョコボに乗っていたとは思えないぞ!」
    「うわー……確かに」
    私の指導に飽きたオルシュファンが、休憩時間に「こんなことも出来るんだぞ」と、曲芸じみたチョコボ乗りを見せてくれた。
     後ろに飛び退いたり、サイドステップしたり。前方にぴょーーーん! と長く飛んでみたり。最後にはチョコボを宙に浮かせ、飛ぶところも見せてくれた。
    「もっと褒めてもいいのだぞ?」
     オルシュファンが珍しく鼻を鳴らし、自慢げに胸を張っている。
    すごいすごいと手を叩いてオルシュファンを賞賛するが、 乾いた拍手にオルシュファンは不満そうだ。
    「本当に思ってるか?」
    「……思ってる」
     ひどいな。本当にすごいと思っているのに。ただ、同じ事をできるようになるまで練習が続かないか心配なだけで。
    「まあいいだろう。それよりも次の練習に行くぞ!」
    「えまだやるの」
    「当たり前だ。お前はまだ基礎中の基礎しか出来ていない。これからも毎日やるぞ」
    「えぇ〜……」
    「文句を言うな。さあ行くぞ!」
    「ちょっ、待って! せめて水だけでも飲ませてくれっ」
    慌てて水筒の中の水を口に含む。ごくりと飲み込んだのを見届けてから、オルシュファンは私の手を引いた。
    こうして今日も、一日が始まる。
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