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    nktu_pdu

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    「蛾と踊る」楽しかった~~~通過後の天艸佐儀と天艸千佳良の落書きです。特定シナリオのネタバレなし。浦葉ちゃんも名前だけ出る。

    遊びに来たよ。それじゃまたね~「千佳良くーん、元気にしてた〜?」
     バン、と力任せに内扉が開き、畳の上に寝転んでスマホを眺めていた千佳良は猫のように飛び上がり、反射的に壁へと引っ付いた。
    「な、なん、何だよ」
     バクバクと鳴る心臓のあたりを押さえて、千佳良は突然入ってきた叔父——厳密にいえば養子になった家庭の父の弟であり、千佳良のじつの叔父ではないが——を見上げた。
     さすがに普段は、ノックなり何なり訪問の合図をしてから部屋に入ってくるが、彼の浮かべる満面の笑みから察するに、今の彼はすこぶる機嫌が良く、その勢いでドアを開けたらしかった。叔父の体越しに玄関側を覗いてみれば、そちらのドアも開けっぱなしになっていた。築年数が40年を越えるこの古アパートは、ドアを開けたら開けっぱなしになってしまうのだ。千佳良は眉をひそめて立ち上がると、上機嫌な叔父のかわりに玄関のドアを閉めた。先ほどはすごい音がしたから、下の階に住む大家に明日あたり文句を言われるかもしれない。
     はあ、とため息をついて振り向く。
     叔父はすでに、冷蔵庫から取り出したらしい缶チューハイを片手に、ちゃぶ台に腰を下ろしていた。無礼だし行儀が悪いし遠慮がないが、千佳良が文句を言うフェーズはとうに過ぎていた。彼の自由にさせることが、最も穏便で賢いやり過ごし方だ。
     高そうなスーツを着て、やたらと端正な顔立ちをした叔父は、千佳良が一人で暮らす古アパートの物寂しい部屋に相変わらず、まったく似合っていなかった。まるでパソコンで合成したような浮きっぷりを気に留めず、彼は「はい」と千佳良に箱を差し出した。
    「いや〜楽しかったなぁ。色々とありがとう。これ、お土産」
     彼が差し出した箱は全国100ヶ所くらいのお土産屋で売られていそうな、あたりさわりのない山のイラストと観光客の書かれた包装紙で梱包されていた。
    「はあ……」
     急にどうしたんだと警戒しながら受け取る。叔父は明らかに何か待っていた。すぐに気づいて、千佳良は「ありがとうございます」とお礼を述べた。うん、と満足げに叔父が頷く。
     包装紙を破ると、やはり全国100ヶ所くらいのお土産屋で売られていそうな、あたりさわりのない「いってきました」とプリントされたクッキーが入っていた。
    「そういえば、終わったんですか。人探し」
     前回、叔父が千佳良を訪ねてきたとき、人探しの仕事が入っていたと語っていたのだ。なんだったか、明らかに怪しい名前の男の頼みだったようだが、叔父も十分怪しい存在だし、さして気にしていなかった。叔父はさまざまなSNSを駆使してほとんど価値のない安物を高値で売りつけたり、中身の乏しい月額の有料会員グループに入会させたりする詐欺師で、まっとうな仕事を今更するとは思えなかった。だから今回の人探しもろくなものではないだろうと千佳良は思っていたのだ。叔父は悪い人ではない——ことはないが、苦労して生きていた千佳良を気にかけてくれた人間ではあるので、彼が酷い目にあってほしいわけではない。ただ、気にかけたという恩につけこんでパシリにしてくる彼を親身に心配するほどの情はなかった。
    「それがねぇ、もう、すごい楽しかった。めちゃくちゃ映えたし。楽しかった……」
     よほどだったのか、2回も「楽しかった」と口にした叔父は、自分の発言の余韻に浸りながら、缶チューハイを喉に流し込んだ。
    「それはよかったですね」
    「お前の買ってきたファブリーズも役に立ったよ」
    「役に立ったのかよ、あれ」
     近くのドラッグストアに急遽ファブリーズを買いに行かされたことを思い出しながら、千佳良は首を捻った。人探しにどうファブリーズが役に立つのか。まさか、死体があって、その証拠を隠滅したのではないだろうな。
     警戒する千佳良を気に留めず、千佳良がもらったはずのクッキーを食べ始めた叔父は、そういえば、とこちらに顔を向けた。
    「お前の知り合いにあったよ。髪が長くて、すごいデカい幽霊みたいな女の人」
      その表現がぴったりな人物に、千佳良は思い当たる節があった。
    「え、浦葉に会ってんの」
    「あ、そうそう。浦葉さん。頼りになる人だったなぁ」
    「それはそうだけど」
     千佳良が運悪く巻き込まれた騒動で、偶然知り合った浦葉は随分と活躍してくれた。彼女に助けられた場面はいくつもあった。しかし、叔父が彼女と自分が知り合いだと知っているということは、彼女は叔父と自分が繋がっていることも知っているのだろう。こんな胡散臭い男と知り合いであることを知られたのは、千佳良としては少々不本意だった。
    「何? 拗ねてるの?」
     む、と表情を曇らせた千佳良の頭をわしわしと乱暴に撫で回して、叔父が言う。別に、と答えるが、口にしたあとで、拗ねていると肯定しているような返答だったと気づく。叔父は千佳良の顔を覗き込むと、「こんなかっこいい叔父さんがいるっていうのは自慢じゃないの」とこれ以上ないキメ顔を見せた。至近距離で端正な容姿の彼に見つめられ、動揺する。思わず後ろに上半身ごとのけぞると、再度叔父は千佳良の頭を撫でた。正直、クッキーの屑がついた手で撫でるのはやめてほしい。
     叔父の手が離れて間髪入れずに、千佳良はふるふると頭を振ってクッキーの屑を落とした。
    「まあでも、ああいうお友達がいるのはいいことかもな。悪いひとじゃなさそうだったし。よかったじゃん」
     叔父の言葉に、千佳良が顔をあげる。
     すでに彼は立ち上がって、玄関の方へ向かおうとするところだった。
    「え、何? もう帰るの?」
     叔父が千佳良に何か用事を頼まず帰るなんてことは、今まで皆無と言って良かった。逆に不安が募る。
    「お土産渡しに来ただけだからね〜」
     ひらひらと手を振り、玄関のドアを開けるとあっさりと叔父は部屋を出て行った。ドアは開けっぱなしで、千佳良はしばらく開いたドアから見える外廊下を眺めていた。
     ひとまず、浦葉に連絡をしよう。それからあの男は、ろくでもないただの知り合いだと説明しなければ。
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