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    きたまお

    @kitamao_aot
    なんでもいいから書いたもの置き場。
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    きたまお

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    フランスに行くやっくんがキリンに打ち明けるだけの話

    ##進化
    ##キリヤク

    やはり少し遠いな、と倉敷ヤクモは思った。以前はこの施設に来る際は、ほとんど車だった。今日は、あえて電車にした。同居人が通っているのと同じ道を通ろうと思ったからだ。
     品川駅から上野東京ラインに乗った。大宮駅までは乗り換えなく一本、乗車時間は四十分。大宮駅で降りてホームから階段を上り、駅構内の店を左右に見ながら西口へ。平日昼間なのに、大宮駅はなかなかの人出だった。看板を見ながらニューシャトル乗り場というほうへ進む。通路には幼児を連れた若い母親や、祖父母、メガネをかけた少年たちの姿が目立った。
     ニューシャトルはコンパクトな箱形の列車だった。入線時には昔のアニメの歌が鳴った。同居人はこんな音楽が鳴るなどひと言も言っていなかった。彼は知らないだけなのかもしれない。
     一駅、五分の乗車で目的地だ。親子連れや少年たちのほとんどがこの駅で降りるようだった。彼らと目的地は一緒だが、入る入り口が異なる。鉄道博物館の正面を通り過ぎ、裏口そばまで来てからヤクモは電話をした。
    「仕事中に呼び出して悪いね」
     内側からドアを開けた彼にヤクモは言った。長い金髪をゆらして、キリンはかまわない、と答える。キリンは、朝出かけていった服の上に、白衣を着ていた。
     そのまま彼の所属している地下の研究所に行くかと思ったが、キリンが向かったのは鉄道博物館の屋上だった。円形の屋上は、外周に腰の高さくらいまでのコンクリの壁があり、その上に透明なパネルがはめ込まれた壁でぐるりと囲まれている。どうして透明壁なのかはすぐにわかった。屋上の左手に高架があり、ちょうど奥の方から緑色の車体が走ってくるところだった。壁に張りついていた子供たちが、歓声をあげる。博物館脇を通過する新幹線を見るための透明壁なのだ。
    「ここ、初めて来たよ」
     もともとヤクモは鉄道にはさほど興味がない。仕事で仕方なしに鉄道に関わってきたが、この施設に来ても地下の研究所にしか行かなかった。
    「キリンは、ここによく来るの」
    「たまにだな」
     ベンチも円形に並べられていた。一番奥のベンチにキリンが腰掛けた。その右にヤクモも座る。長い金髪と青い目、西洋人風の見た目のキリンはここでは目立ちすぎるのではないかと思ったが、周囲の人々は気にしている様子はない。誰もが、通り過ぎる新幹線や、屋上から見下ろせる博物館施設に夢中のようだ。ホウキと箱形のちりとりを持った作業服姿の中年女性が、キリンを見て目元を和らげて会釈をしてきた。キリンも軽い目礼を返す。知り合いのようだ。
    「キリン、本当にここで働いているんだな」
    「疑って、見に来たのか」
     いや、とヤクモは答える。かつて、シンカリオンたちを敵に回して戦い、敗れたキリンは超進化研究所の総合指令部に捕らえられていた。九ヶ月ほどの勾留ののちに条件付きで解放された。さらに一年たって、超進化研究所大宮支部に呼ばれるようになった。
     ——キトラルザスのもつ技術を新規シンカリオン開発に提供して欲しい。
     それがキリンの新しい仕事となった。どうやら、同じく大宮支部で働いている他のキトラルザスからの推挙があったらしい。以来、キリンはヤクモのマンションからここ大宮の研究所まで通ってきている。
    「昼からこんなところまできて大丈夫なのか」
    「うん、今日はもう休みにしたんだ。定岡に頼んだ」
     ヤクモは首を上に向けた。冬の空はどこまでも青い。周囲に高い建物の少ないここでは、空が遠く見える。
    「なにか言いたいことがあるのか。それとも今、聞かないほうがいいのか」
    「うん……」
     視線を正面に戻し、ヤクモはメガネの位置を直す。と、突然肩に重みを感じた。左から伸びてきたキリンの長い腕が、ヤクモの首の後ろに回り手が右肩にかかった。手首が返され、ヤクモの顔はキリンのほうに向けられる。
     近づいてきた白い顔が、視界を覆う。そのまま、薄い唇がヤクモの唇に重なった。ふわりと風が吹くように、一瞬、唇を合わせてすぐに離れていく。
    「おい、外だよ!」
    「誰もいない。何の問題がある」
     慌ててヤクモは周囲を見渡す。たしかに、さっきまで壁に張りついていた子供たちも、清掃員の姿もない。だからといって、ここはキリンにとっては職場ではないか。
    「ああもう、きみは見た目は欧米人だけど、中身は別に欧米人じゃないだろう。外でキスとかってさあ、どうなんだよ!」
    「フランスだったら、こういうこともありうるのではないか」
     ぎくり、とした。キリンは知っているのだ。ヤクモが言い出せないでいたことを。
     研究所の中で聞いたのか、それとも例によって、彼のもつヒトとは違う力で知ったのか。
     肩にまわされたままのキリンの手に、ヤクモは手を重ねる。
    「以前、シンカリオンの共同研究をしようとしていたフランスの研究施設だ。来ないかと誘われている」
    「ああ」
    「いまの仕事は定岡が好意で雇ってくれているだけで、いつまでも彼の好意に甘えていてはいけない気もする」
    「ああ。それに、やつはたぶん今でもおまえに気があるな」
     同級生の定岡がヤクモに言い寄ったのはもう十年も昔のことだ。あのとき、キリンは定岡を殴り倒した。
    「フランスだと、きみと一緒に行くことはできないと思う。きみは日本国内で所在が確認できること、というのが解放の条件だったから」
    「ああ」
     つまり、ヤクモがフランスの仕事を選んだら、キリンとは離ればなれになる。
     高校生時代を一緒に暮らして、卒業とともにキリンは家を出た。科学産業省勤めのときはたまに会うだけだった。キリンが勾留から解放されたあとに、やっとまた近くにいられるようになったのだ。また、離れなければいけない。
    「選べ、ヤクモ。おまえが選んだ道が、正しい道になる」
    「……意地が悪いな」
     ここに来るあいだもずっと考えていた。そばにいることを選ぶか、仕事を選ぶか。どちらを選べばいいのかわからない。
    「大丈夫だ。ヤクモ。おまえはいつだって正しい選択ができている」
     ヤクモが手を下ろすと、キリンの手はヤクモの頭にあがり、髪をくしゃりと触った。
    「キリン。俺は——」
     折良く走ってきた新幹線の轟音が、ヤクモの言葉をかき消していった。
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    きたまお

    TRAINING特殊清掃員のりばいさん2今日の現場も一人で死亡した老人の住まいだった。大きな庭のある戸建ての二階で老人は死んでいた。老人には内縁の妻がいたが、折り悪くその妻は姪と一緒に十日間の海外旅行に出かけていた。家の状況から見て、老人は内縁の妻が旅行にでかけた初日の夜に倒れたようだった。さらに悪いことに、寒がりの老人は自室の暖房を全開にしていた。
     年齢のわりに老人は身体が大きかったようだ。ベッドに残された痕跡でそれを知ることができた。おそらく老人はリヴァイよりも二十センチ以上は背が高い。二階の部屋は天井が傾斜していて、ベッドは天井が低い方の壁にぴたりとくっつけておかれていた。
     リヴァイが最初にやることは、遺体のあった場所に手をあわせることだ。神も仏も信じてはいないが、これだけは行う。手をあわせているあいだはなにも考えていない。一緒に仕事に入ったことのある同僚には経を唱えたり、安らかに、などいうものもいたが、リヴァイは頭をからっぽにしてただ手をあわせる。これはもう習慣だった。
     後輩と一緒に、まずマットレスを外す作業をした。いくらかはまだ生きている虫がいる可能性があるので、殺虫剤を全面に散布する。動くものがなくなったこ 1271

    きたまお

    TRAINING特殊清掃員のりばいさん「先輩はどうしてこの仕事についたんですか」
     行きの車の中で無邪気に後輩が聞いてきた。最近入ったこの後輩は、始めは短期アルバイトの大学生だったはずが、気がつけば正社員として登用されていた。なんか、これがオレの天職だって気がついちゃったんですよね、と大声で事務員に話しているのを聞いたことがある。
     リヴァイはウィンカーを一瞬出して隣の車線に割り込みながら、ぼんやりと答えた。
    「別にやりたくてやったわけじゃねえよ。たまたま、クソみたいな伯父が便利屋をやっていて、そのクソが仕事だけ受けて逃げ出した尻拭いであばらやの清掃に入ることになって、そこからまあたまたまだ」
     母の兄である伯父には、昔からいろいろ迷惑をかけられてきた。便利屋の仕事を借金とともに押しつけられたのが、最たるものだった。
     最初から特殊清掃だったわけではない。ゴミ屋敷の片付けなどを行っているうちに、割のいい仕事として特殊清掃ももちかけられた。六月にベッドで死亡して、一週間発見されなかった老人の部屋の清掃だった。遺体はすでに警察が持ち出していたがベッドには遺体のあとが文字通り染みついていた。床や壁にこびりついている虫を片付けると 674

    きたまお

    TRAININGエルリワンライの没軽くブラシをまわすと、面白いように泡が立った。その泡をブラシの先端にとり、リヴァイが無言であごをしゃくった。上を向けということだろう。
     もみあげから下、あごの先に向けてブラシが小さな円を描くように動いていく。なめらかな動きの中で、ブラシと肌の間に泡が立っていくのがわかった。すこしこそばゆく、しかし気持ちがいい。
     カミソリの扱いは慣れたもの、あっというまに泡をぬぐうように刃があてられて、エルヴィンの無精ひげは姿を消した。最後にぬるま湯の入った桶を寄せられ、身体をうつ伏せに倒せと言われた。
    「すすぐくらいは左手だけでも可能だとおもうんだが」
    「おまえにやらせたら、ベッドが水浸しになりそうだ」
     顔をすすぎ終わり、乾いた布で水分を拭き取るまでリヴァイの世話になった。
    「自分であたるよりも、ずっといいな」
     エルヴィンはすべすべになった自分のあごに手を触れる。
    「以前から、おまえのそり残しは気にはなっていた」
     ひげそりの準備は、エルヴィンが目を覚ます前からやっていたらしい。目を開けたらちょうど、至近距離にリヴァイがいて、手にしていた石けんを取り落としそうになっていた。すぐに医師が呼ばれ、 1958

    recommended works

    きたまお

    TRAINING106話付近、ニコロが料理人として定着したあたりで、ニコロのご飯を食べる皆さん。初めのうちは海でとったものを食べるなんてどうかしていると思っていた。なにせ、人類は一年前に海に到達したばかりだった。ハンジ団長やアルミンは海にいる魚や虫みたいなもの、なにかわからない黒いぐねぐねしたものも夢中になって追いかけていたが、ジャンは気持ち悪くて触るのも嫌だった。
    「海の幸を食べないなんて、海に囲まれた島の人間としてあるまじきことだ。それだけでもおまえらは十分罪深いよ」
     大皿にどんどん料理を盛りながらニコロが言う。ニコロはマーレ人の捕虜だが、もとは料理人をしていたそうだ。自分の店を持つための資金作りとして、パラディ島調査船に志願し、あっけなくこの島で捕らえられた。口は悪いが腕はいい。
    「いやでも、これを食べるってどうかしてると思ったぜ」
     ジャンは大きな鍋から、真っ赤にゆであがった固い不気味な生きものを引き上げる。昆虫みたいに固い殻に包まれて、真ん中の胴体は四角形、足が左右に五本ずつ出ていた。一番上の足にはザリガニみたいなはさみがあって、気持ち悪いことに全身にびっしり短い毛のようなものが生えている。
    「でも、うまいだろ」
     言葉に詰まった。前回も最初は敬遠していたが、ニコロが 2217