夢主達交流ネタメモ カンッ、と響き渡る音と手元まで伝わる衝撃に引き締めていたはずの頬の肉が緩む。胴を突き刺そうと先を振り翳しても撃ち返され、逆にこちらを三本に分かれた刃が狙う。
一旦距離を取り、冷静に相手を観察するも久しぶりに感じる高揚感は抑えきれない。
「あなた、いい目をしてる」
「ただの手合わせなのが残念です。これでも獲物を狩るのは得意なんですよ」
「あら、私をそこらの獣扱いですか」
「まさか。例えるなら猛獣の間違いでしょ?」
ラズの足元を狙い、振り払った槍は躱されたが、休まず飛び跳ねたラズの体を突き刺しにいく。しかし、体勢が不安定な空中でも自身の槍の柄を上手く使い狙いはズラされる。
そうこなくては。
「──はっ!」
一瞬にして、槍を捨て、残り数センチまで近付いた私と目が合い、ラズは咄嗟に後ろに下がろうとした。
だが、躱わすと見せかけて振り上げた槍の先は私の背中に向けらる。
私の手刀がラズの首を取るのが先か、ラズの槍が私の胴を貫くのが先か──。
あと一秒もかからず決着が着くところで鋭い声が私達の動きを止めた。
「止めろ!」
ラズの首に触れる寸前で止まった右手と下ろされた彼の槍を尻目にゆっくり息を吐いた。
「あ、ぶなかった……。ごめん、つい」
「いや、まさか最後に槍を捨ててまで距離を詰めてくるとは思わなかったから。こっちも驚いてつい」
「ついで済むか! せめて練習用の槍でも準備しておけ」
私の体をラズから引き剥がしたクロロはこれでもかと眉間にシワを寄せ、険しい顔でラズを睨む。
「満足したか? 鍛錬なら今度は他の奴にでも頼むんだな」
「……どの世界でも、うっとおしいんだなお前」
「なんでそこまで喧嘩腰なの⁉︎ ラズ、ごめんなさいね。ウチの世界のクロロが」
「お気になさらず。慣れてるので」
清々しいほどの笑みで流すラズと彼を見守るレニ、レニの世界のクロロの姿にこれ以上なんと言えばいいのか分からない。
「あの、嫌じゃなければ……師匠って呼んでいいですか⁉︎」
「却下!」
「お前には聞いてない」
「いい加減にしなさい! 師匠なんてガラじゃないけど、あなたほどの使い手に言われると悪い気はしないわね。ふふ、お好きにどうぞ」
「はい! ありがとうございます師匠‼︎」
別世界のクロロに睨まれても全く気にせず、満足気に笑うラズ。相性の悪さは次元をも越えるのかと思わず二人を見比べてしまうのだった。
*
海神を背負い、嵐のような一太刀──正確には青年の身長よりも長い槍が目の前の少女を薙ぎ払わんと狙いを定める。しかし、小柄な少女は金の髪をたなびかせ軽やかに宙を舞う。
「姉さんが見てるから、かっこいいとこ見せるぞ!」
「クロロが見てるから、絶対勝って褒めてもらうんだ!」
両者互いに譲らぬ攻防は、最早手合わせの範疇を超えていた。
「マズいわね」
そう呟くと同時にクロロの腕が私が前に出るのを制するように伸ばされる。
「行くな」
高密度なオーラとオーラのぶつかり合い。下手に近付けば仲裁に入った側もタダでは済まないだろう。
「ラズ! 止めろ! やりすぎだ‼︎」
「駄目だな。クラウン共々聞こえてない」
「だったら──」
こちらを振り返ったクロロと瓜二つの顔に、にこりと笑みを返す。
「二人で止めてきてください」
ポンっとレニと、クラウンの世界のクロロ達の背中を押した。
「……」
背中を押された片方は何か言いたそうに私を見下ろしていたが、「レニは私が守るから安心なさい」と言えば渋々、足を踏み出した。
「大丈夫かな」
「大丈夫よ、レニ。〝クロロ=ルシルフル〟ならここでくたばるような生半可な鍛え方はしてないでしょ、ね?」
「当然だ」
不安そうに見守るレニだったが、別世界のクロロの言葉に納得し、小さな笑みをこぼした。
「全く、好き勝手言ってくれる」
「……あの様子だとうっかり殺しかねないな」
「待て待て待て、流石に結婚式の前に葬式の準備は嫌だ」
「諦めて止めるしかないだろう。オレはクラウン。お前は義弟」
「はあ……」
鬼気迫るラズの槍の前に飛び出したクロロは寸分の狂いもなく片足で蹴り上げ、穂先を逸らした。
「っ、邪魔をするな!」
「意外と熱くなりやすいところは似てるな」
「知ったような口を……ッ」
「知ってるもなにも幼なじみだから」
「この野郎‼︎」
止めるどころかラズの矛先はクロロへと変わり、仲裁に入ったはずの本人も面白がって相手にするので余計にラズの怒りを買った。
「私は止めろと言ったはずよね? 喧嘩しろとは言ってない」
「仕方ない。オレが『不思議で便利な大風呂敷(ファンファンクロス)』で二人ごと……」
「あーもう! いい加減にしろラズ! クロロ‼︎」
クロロ違いとはいえ、すぐ側で大声で名前を叫ばれたウチのクロロはぎょっと目を見開く。
「げ」
「姉さん!」
鶴の一声ならぬレニの一声で一瞬にしてラズは正気を取り戻し、レニの世界のクロロも具現化した本を解除する。
「ねえ、ちゃんと見てた⁉︎」
レニの声が聞こえた途端、怒りで我を忘れ縦に開いていたラズの瞳孔は丸くなり、彼女とよく似た相貌を綻ばせた。
「やりすぎだってば! あと素直にクロロの挑発にのるな! クロロはもうちょっとマシな方法で止められなかったのか⁉︎」
「先に手を出してきたのはこいつだろ」
「は? 邪魔をしてきたのはお前だろ」
「いい加減に、しろーっ!」
とうとう本気で怒ったレニを前に二人はこれでもかと身を縮こませ、しまったと言わんばかりの顔をした。
レニに怒られて頭も冷えただろう。あとは彼女に任せるとするか。
「さて、クラウンは……まあ、大丈夫よね」
いつの間にか彼女のクロロに抱き上げられ、自分の奮闘っぷりをアピールしているクラウンが微笑しい。
「クロロ見てくれた? 強かったけど、ぼく勝ってたよね⁉︎」
「そうだな……とりあえず、帰ったら修行メニューの練り直しからだな」
「槍って間合いを詰めたらいけると思ったけど、なかなか上手く攻められないね」
「一流の使い手なら対策もしてあるだろう。長物を扱う団員はいないからな。ノブナガ辺りに戦い方を聞いてみるといいかもしれない」
「そうだね!」
それを見ていたクロロはふっと息を吐いた。
「末恐ろしいな。もう反省と改善策まで考えてる。これではどちらがガキか分からない」
「……もし、クロロ同士で戦ったら誰が勝つのかしらね」
特に深い意味はなく、なんとなく呟いたつもりだったが、鋭い眼光がじっと私を見下ろしていた。
「面白いことを言うな」
「クロロ?」
「誰が強いかどうかはあまり興味がないが、別世界の自分と戦える機会はそうない」
「……冗談よね」
「お前が冗談で終わらせたいうちはな」
妖しくも、美しい笑みを浮かべるクロロを前に失言だったと迂闊な発言をした自分を責めるのだった。