ピロートーク「なぁ、パーシヴァル」
「なんだ、ランスロット」
パーシヴァルがその濡れたような黒髪に手を伸ばすと、ランスロットはくすぐったそうに少し身を捩った。
「最近のフェードラッヘの情勢についてなんだが…」
「…………」
またか、とパーシヴァルは頭を抱えそうになる。
先程まで甘く溶けていたランスロットの瞳が怜悧な光を取り戻し、熱い吐息を漏らしていた小さな唇が自身が騎士団長を務める国の情勢の憂いを紡いだからだ。
黒竜騎士団時代から分かっていたことだが基本的にこいつの頭の中は、国、仕事、鍛錬のどれかに支配されているのだ。
それは情事の後も例外ではない。
無欲無私に仕事に打ち込む姿は騎士団長の身分に相応しく、どんな時も国のことを思うその忠誠心は気高く美しい。
パーシヴァルはランスロットのそういったところを好ましいと思ったし、そういったところに惹かれた部分もある。
国の話、仕事の話、鍛錬の話、そのどれもがパーシヴァルにとっても興味深いもので、見識もある。
パーシヴァルならば常人には難しいだろう、ランスロットが目を輝かせるような議論を交わしてやることもできる。
だが、せめて情事の後くらいロマンティックな会話がしたいと思うのはいけないことだろうか。
情事の後くらいお前を重い鎧を纏った白竜騎士団団長ではなく、何も纏わず何も憂うことなく俺の腕の中に収まって眠るだけのただの男で居させてやりたいと思うのはいけないことだろうか。
「ランスロット…」
低く名前を呼んでやるとランスロットはキョトンとした顔でこちらを見つめた。
「ん?どうした?
…あぁ、まだ足りないか?」
「違うっ!!」
全くこの男は、情緒やらロマンティックやらの機微を把握する力が大きく欠如している。
足りないか?と言われれば違うと答えられるくらいパーシヴァルの心は充分に満たされているというのに。
しかし、パーシヴァルにはランスロットがもう一度と強請るのならば、一度ならず二度…いや、それ以上の回数をこなせるくらいの体力はまだ残っていた。
けれど明日も仕事があるランスロットに無体を強いるわけにはいかないから、こうしてベッドで2人横になっている。
それをパーシヴァルは疎ましく思ったりしていない。
何も行為をすることだけが心を満たす方法ではないと知っているからだ。
「褥ではせめて、そういった話のことは忘れないか」
「…あぁ、ごめんなパーシヴァル
つまんなかったか」
「そういうわけではないが…」
「そうか…
でも、こう…どうしてだろうな?
お前といると気が緩むというか、お前なら何を話しても許されるような気がしてさ
つい…な」
ランスロットは困ったように眉を下げて笑った。
「ランスロット」
「うん?」
「さっきの話の続きを話せ
フェードラッヘがどうした」
「…いいのか」
「いいと言っている」
俺といると気が緩むのか、俺ならば許されると思うのか、ランスロットの言葉を心の中で反芻させたパーシヴァルは、頬が緩みそうになるのを力を込めて耐える。
これがお前がにとっての安らぎと言うのならば、喜んで受け入れよう。
あまり多くを語らないパーシヴァルは、それをわざわざ口には出してやらないが、聡明なランスロットはきっとその真意に気づいているだろう。
パーシヴァルはランスロットの全てを受け入れる覚悟があると。
だが、パーシヴァルはランスロットと過ごす甘い夜への希望を捨てたわけではない。
でもそれは今じゃなくていい、そう思ったのだ。
パーシヴァルはランスロットにとことん甘い。