「なあ、正守。今日何の日か知ってる?」
キッチンで夕飯のあとの洗い物をしていると良守がソファにもたれたまま聞いてくる。
対面式のキッチンなので、リビングはよく見えるがソファに座る姿は頭だけしか見えない。その頭を思いっきり後ろに逸らせてこちらを見てくる。
「今日は…」
カレンダーを見る。特に記念日というわけではなさそうだ。この弟、意外と記念日好きでことあるごとにカレンダーに書き込んでいる。
「うーん、11月22日か…あ、いい夫婦の日?」
「は?」
不機嫌な声が返ってくる。望んでいた答えではなかったようだ。
「だって、今日はいい夫婦の日だろ?まさか、俺とお前でいい夫婦とか言わないだろうな?」
「ふ、夫婦!?バッカじゃないの!?!?」
冗談で言ったつもりが真っ赤になって本気で怒られてしまった。頭から湯気が出ているのが見えそうなぐらいだ。
「じゃあ、何の日だっていうんだ?」
「やっぱりもういいや」
そういうと、興味をなくしたようにずるずるとソファに雪崩れてしまい見えなくなってしまった。どうやら年下の恋人は臍を曲げてしまったようだ。
求めていた答えはなんだったのだろうかと考えながら残っていた洗い物を終えてソファまで行くと、隣に腰を下ろす。
本を読んでいたようだが、隣に座ったと同時にパタンと閉じてこちらにもたれかかってくる。
今日は甘えたか?珍しいこともあるもんだと思ってると上目遣いに先ほどの話を蒸し返される。
「なあ、今日何の日か知らないの?」
どうしても答えさせたいようだ。
「お前が思っているやつ当てたらなにかしてくれる?」
「考えとく」
「なんだそれ」
そうは言ったもののとりあえず先ほど考えていたものを答える。
「いいツインテールの日」
「俺がそんなこと答えてほしいと思う?ってか正守がツインテールって。やっぱりツインテールの女の子のほうがいい?」
「なんでそんな話になるんだ?何の日かって話だろ」
「そうだけど。まさかその答えが出てくると思わなかったから、やっぱり好きなのかなって…」
急に不安そうな顔をしてくる。
「何を心配してるんだか。お前以外考えられんけどな」
「ふーん」
なんだか不満そうな顔をしているが、これ以上勘繰られても面倒くさい。というか何が不満なんだろうか。
「で、答えは?」
まだ続くようだ。とりあえず当たり障りのないところで攻める。
「いいにゃんにゃんの日」
「ぷはっ!正守がにゃんにゃんだって。似合わねぇ」
今度はお腹を抱えて笑い出した。なんだ?情緒不安定か?
「にゃーん」
猫の鳴きまねをしてすり寄ってくる。これが正解だったのか?なんなんだ今日のサービス精神は。とりあえず猫になっているようなので頭とあごをなでてやるとくすぐったかったのか目を細めてはにかむ。本当に猫みたいだ。今日はこんなことまでしてくれてご機嫌なんだろうか。今度猫耳でもつけさせるかと不埒なことを考え始めると、それに気づいたのかスンともとに戻る。勘がいいやつめ。
「残念でした。違いますぅ。はい、次」
次の答えを求められる。何のゲームだこれ?
「うーん、いいにーにの日」
とりあえず数字のゴロ合わせで攻めてみる。
「いい兄ちゃんの日ってこと?残念!いい兄さんの日は明日ですぅ」
「久しぶりにお前から兄ちゃんって言われたな」
「兄ちゃんって言って欲しいの?」
「まあ、たまにはな。可愛かった頃のお前思い出すし」
「今は可愛くないのかよ」
「可愛いって思われたいの?まあ、シてるときはすごく可愛いけどな。さらに兄ちゃんとか言ってくれると色んな意味でもっと可愛いがりたくなるから今度言ってみて」
「変態!なにそれ。ぜってぇ言わねぇ。で、話それてるけど?」
話を戻される。とりあえず今度絶対に言わせてやると思いつつ、もう手持ちの答えがない。
「もう思いつかないんだけどな。そろそろ答え教えてよ」
「ヒント欲しい?」
どうしても答えさせたいらしい。
「うん」
ここまで来たら最後まで付き合ってやる。
「じゃあヒントです」
そう言いながらもたれかかったまま上目遣いにじっと目を見てくる。これがヒントなのか?全然思いつかない。そのまま固まって考え込んでいると、良守からちゅっと唇を重ねてきてすぐに離れていった。
「わかった?」
「今のキスがヒント?」
「そう」
「キスの日なんて聞いたことないしなぁ」
ますます謎が深まる。答えを出せない正守に良守もだんだんと眉が下がってくる。
「ほんとにわからないの?もう一回ヒントいる?」
「うん、お願い」
すると良守は寝そべっていた体を起こし、あろうことか正守に向き合うように膝をまたぐ。何をしてくれるのかとドキドキしていると、またキスをしてきた。今度は2回続けて。啄むような軽い口づけをすると、正守の膝の上にそのまま腰を下ろして答えを待つ。
「わかった?」
「そんな可愛いことされると答えを出すどころじゃないんだけどな」
苦笑いをしながらそう言う。
「なんでわかんないんだよ。もう答え言ってるも同然なのに」
「ん??」
良守がキス。しかも今度は2回してきた…いろいろと考えを巡らせているとピンと閃いた。なんだ!そういうことか。それにしたってなんでこんなかわいい誘い方をしてるのだろうか。もう少し遊んでみたくなる。
「ん-わかりそうなんだけどな。もう1回ヒントちょうだい?」
「えー、なんでわからないんだよ。もう1回だけだからな」
不服そうに言いながらも顔は笑っている。今度は首に手をまわし、顔を引き寄せて2回キスをしてくれる。
「もう1回」
「えー」
それでもまたキスをしてくれようとする。ここまで来たらもう期待に応えるしかない。同じようにキスをしてくれようとした2回目が口づけられた瞬間、膝の上の良守を抱きかかえるとそのまま自分の下に組み敷く。ソファに縫い留められた形になった良守は驚いて正守の顔を見上げた。
「え?」
そのまま有無を言わせず今度は正守からキスを送る。今度は啄むだけのものでなくねっとりと唇を食みながら強く吸い上げる。
「んぅんんん…」
唇を離すと息も絶え絶えな良守ににらまれる。
「正守てめぇ」
「ん?だって今日はこういう日なんだろ?日付が変わるまでいっぱいしような。まあ、ちゅっちゅだけではもう済まないけどな」
正守はすでに膨みかけた下半身を良守に押し付ける。正守の意図に気づいて良守は慌てて逃げ出そうとするが、すでに腕の中に組み敷かれている状態ではどうすることもできない。
「うぁぁそういう意味で言ってたんじゃないのに!!もう離せ!」
「嘘だろ?あんなに可愛く誘われたら、断れるやつなんているのか?良守だってもうその気だろ」
「……」
同じく膨らんだ下半身を探られては何も言い返せない。
そのまま口づけを再開すると、正守はテーブルの上にあったリモコンを手探り探し当ててそっと電気を消した。
そうして11月22日、いいちゅっちゅの日は更けていくのであった。