三日三晩ほぼ寝ずの仕事を終え、無事に夜行へ戻って来た。
帰ってくるなり刃鳥に風呂に入るように命じられる。
「頭領がそんな格好でうろつかれると子供達に悪影響です」
そうは言われたが、疲労困憊の姿を見て残務処理を後回しにしてでもリフレッシュすることを優先してくれた刃鳥のやさしさだと分かっている。なので、遠慮なく入らせてもらう。
「はぁぁぁぁぁ」
熱めの湯に浸かるとどうしても腹の底から声が漏れてしまう。
そこまで汗をかく季節でないとはいえ、さすがに3日ぶりの風呂は気持ちがいい。
足を延ばし、ふちに手をかけながら肩まで沈むと、お湯に疲れが溶け出していくようだ。
「あぁこのまま寝てしまいたい…」
ほぼ寝ずの仕事だったために、眠気がピークに達していた。いつの間にか寝落ちていたのにハッと気づき慌てて頭を振って目を覚ます。
(いや、いかん。このまま寝てしまったら溺れてしまう)
「兄貴、眠いの?」
その声に驚いて寝ぼけた目をよくよく凝らしてみると、良守が向かいにいるではないか。湯船の中に向かい合わせで膝を抱えて座っている。
「いや、大丈夫だ。というか、どうしてお前がここにいるんだ?」
「は?信じらんねぇ。さっきまで散々やりまくってたくせに」
顔を真っ赤にしながら怒っている。よくよく見ると、体中に赤い花びらが散っているように見える。あれ?これは…
「仕事から帰ってきて疲れ果てていたのは夢だったのか…少し疲れて寝落ちてたみたいだ。悪かったな」
そう言いながら腕をつかむと自分自身に引き寄せながら向きを変えさせて腕の中にすっぽりと収める。何の抵抗もなくぴったりと背中と密着する。
肩に顔をうずめて思いっきり息を吸い込むと、良守の甘い香りも一緒に体に入ってくる。その香りにつられて、下半身がうずき始めた。
強く抱きしめながら胸の突起をいじると、甘い声をもらす。その声にさらに煽られる。
「ちょ、ちょっと。ここ風呂の中だって」
「わかってるって」
わかってはいるが、スイッチが入ってしまったら止まらないのが男というものだ。首筋に噛みつき、強く吸って痕を残す。下に手を伸ばし感じる部分を攻め立てる。
「やっ、あっ、ちょっと待てって。んっ、もうやだ…兄貴、兄貴…」
(兄貴、兄貴…)
どこかで呼ばれてる。
「兄貴、おい兄貴ってば!!」
耳元で大きな声がしてふっと目を覚ますと湯船につかったまま寝ているところを良守が必死に呼びかけているところだった。
「よ、しもり??あれ?なんで服着てるの?」
「何言ってるんだよ。何回呼んでも起きないから死んじゃったかと思ってびっくりしたのに」
「なんでお前がそこにいるの?」
「お前が仕事頼みたいって呼んだんだろ。来てみたら、風呂場の外で刃鳥さんが心配してウロウロしてるから何事かと思ったら、いつまで経っても出てこないから外から何度呼びかけても返事もないし、でも自分が覗くわけにもいかないしってことだったんだよ。他の男性陣もちょうど出ちゃってたみたいだし。風呂場で寝るとかバカなのか?」
「ずっと寝てなかったんだよ。心配かけて悪かったな。もう出る」
ざばーッと湯船から立ち上がると、良守の視線が一点に釘付けになっている。その視線の先を見て見ると。
「うわっ、あっ、えっとこれは…」
「変態。風呂場でそんなにするなんてどんな夢見てたんだよ」
不審者を見るような目で睨まれる。
「えっと、それは…」
良守を抱こうとしてましたとはとても言えまい。
「大人は疲れすぎるとこうなるんだよ」
「嘘つけ。どうにかしてから出てこい!」
そう吐き捨てると、ドアをピシャっと閉じて出て行ってしまった。
「はぁぁぁ、俺としたことが…欲求不満だったのか」
仕方なしにさっと処理をすると風呂を出る。すると脱衣所には良守がまだいた。
「なんだ?俺の裸を見たくて待ってたのか?」
「ばかっ!ちげぇーし!ってか溜まってるなら今晩してやるから…」
最後は小声になっていたが、それだけを言い残して今度こそ出て行ってしまう。その言葉を脳内で反芻しているとまた熱が溜まってくる。
「ん?あれ?また都合のいい夢見てるのか?」
きっと疲れている兄を見ての気遣いなんだろう。いつもはそんなことは言わないのに。なので、今度はなんとか熱を収めると素早く着替え、夜の時間を作るためにいつも以上に張り切って残務処理をさっさと片付けるのであった。