ヴライが風邪を引いた。
何を莫迦な、と思われるかもしれないが、事実である。
発覚したその日、ヴライは何時もより遅い時刻に起き上がり、ふらつく手で宿坊の戸を開け、動けなくなってうずくまっていたところを発見されそのまま自室へと強制送還された。
流行り病の記憶も新しい昨今である。周囲は早々にヒト払いされ、重装備の薬師が部屋にかけつけ、難しい顔でヴライを診察し、
「ただの風邪ですね」
ほっとした様子で告げた。唸るヴライが答えられないぶん、枕元に座るエントゥアが安堵する。
「食事、は、まだ食べられないでしょうから、今は水をたくさん飲んで暖かくして、あとは頭を冷やしてあげてくださいね。熱に効く薬水の作り方を教わったので、材料と配合表を渡しておきますから――」
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