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    huyuhi2

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    huyuhi2

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    魔法AU進捗 スティーヴンが目を覚ましたのは、朝早く、まだ日も登りきらない頃だった。
     薄明るい部屋の中で小さく欠伸を零し、目を擦りながらむにゃむにゃと周囲を確認する。穏やかな寝息を立てる子どもたちはまだまだ夢の中にいるようだった。
     種類は違えど、彼らと同じように昨夜の自分も緊張や不安でいっぱいになっていた。だからきっと今夜は眠れないだろうななんて思っていたのに、ベッドに飛び込むや否やあっさりと眠りに落ちてしまった自分につい笑みが漏れる。緊張に晒された子どもの身体は思っていたよりも疲れていたのかもしれなかった。
     同室の少年たちを起こしてしまわないよう気を付けながらベッドから抜け出す。確か大広間には何時に行っても良いはずだったから、先に向かって三人分の席を取っておきたかった。
     かつての自分からは想像も出来ないほど素早く着替えて、まだ静まり返っている寮をひとりで抜け出す。なんとなくジェイクも起きているような気がしたから、先に声をかけておけばよかったなと両面鏡を思い浮かべながら広い廊下を歩いた。
     子どもの足では寮から大広間までは結構な距離があるようだった。昨夜ジェイクと落ち合った空き部屋だってそう距離は変わらないはずだっけれど、昨夜の不安と今抱いている期待や焦燥では感じる長さが違うのかもしれない。肌寒さを感じながらてけてけと駆けて、扉の前で小さな影を見つけてぱっと顔を輝かせた。
    「ジェイク!」
     飛び上がって手を振ると見慣れた顔が振り返る。大広間の中を覗き込んでいたらしい彼は、スティーヴンを認めるとほっとしたように表情を緩めて手を振り返した。
    「おはよう!こんなところで何してるんだ?」
    「おはよう。……その……」
    「……もしかして、マークがいる?」
     赤い目に緊張を走らせたジェイクが小さく頷く。
     扉にしがみつくように覗き込んだ彼にくっついて、隣からこっそりと広い部屋を覗いた。
     賑やかな笑い声が聞こえる。
     マークの寮の一年生たちは随分早起きらしかった。
     明るい声に、まさかもう仲の良い人が、と不安が湧いてくる。喜ばしいことであるはずなのにどうしてかもやもやとしてしまって、黒いものの渦巻いた胸をごしごしと擦りながら彼の姿を探した。
     マークは長い机の端にぽつんとひとりで座っていた。
     所在なげに指を弄り、困ったように一年生たちを見て、果物の盛られた皿に視線をやっては足元へと落としている。いくら身体の年齢に引っ張られているところがあるとはいえ、歳の離れた子どもたちにどう接すれば良いのかわからないでいるようだった。
     それは自分たちも同じだったからわかるよとつい頷いてしまいそうになる。スティーヴンも同室の子どもたちとどう接すれば良いのか決めかねているところだった。
    「……それで?結局君は何してたわけ?」
    「……」
    「どう顔を合わせれば良いのかわからない?それともまさか……」
    「……昨日のは、勢いだったから……」
    「て、てれてる!」
     つんと顔を逸らしたジェイクに、まったくもう仕方ないなあとわざと肩をすくめる。彼の手を掴んでぐいぐいと引っ張った。「ひぇ」とか細い声を零しながら止めようともしないジェイクに頬が緩む。彼はスティーヴンが来るのを待っていたらしかった。
    「マーク!」
     小さな足を見下ろしていたマークがはっと顔を上げる。その表情が心底安堵したように緩められるから、スティーヴンは胸が痛みながらも喜びに満たされるのを感じていた。引っ張られていたジェイクが細い息を吐き出すのが聞こえる。緊張と、それから同じぐらいの痛みを抱いていたようだった。
    「おはよう。隣、いい?」
    「あ、ああ……ジェイクはどうしたんだ?」
    「ああいや、なんでもない、マーク、よく眠れたか?」
    「……実は、そんなに……その、嬉しくて」
     そんなに、と聞いた声に走った不安が一瞬で霧散する。照れたように頬を赤らめて足をぶらぶらと揺らしたマークは、ちら、と二人を見て眉を寄せた。悪いかとでも言いたげな目がたまらなく可愛い。自分たちと再会出来た喜びを素直に伝えてくれる彼が愛おしくて、気付けばスティーヴンはジェイクを引きずってマークに飛びついていた。
    「おわっ」
     驚いたような声を上げたマークがおずおずと背中を抱き返してくれる。されるがままになっていたジェイクは、緊張でいっぱいの顔をしてスティーヴンごとマークを抱き締めていた。
    「マーク」
    「うん?」
    「おはようのキス、してもいい?」
    「……もちろん」
     きゅうと細められた目を見つめ返してから、以前の世界ではすっかり習慣になっていた挨拶をする。ちゅ、と頬に押し付けた唇にマークがくすぐったそうに笑った。ちゅ、ちゅ、とスティーヴンとジェイクの頬に返してくれる熱に懐かしさは無い。昨日にだって行われたような、自分たちの中での『当たり前』を再認識したような、そんな感覚だった。
    「何か食べた?」
    「いや……今はまだ果物だけみたいだ」
    「へえ……?人が増えたら出てきたりするのかな」
    「マーク、何か食べたいものは?」
    「……俺は別に、」
    「マーク」
    「……何も言わずに聞いてくれるか?」
    「場合によっては」
    「今のところは」
    「……昨日みたいなメニューだと、重くて入らなくて……」
    「……なるほど」
    「マーク、りんごはどうだ?」
     困ったように弄る、彼の栄養の足りない指を見つめて頷く。彼の環境は彼のせいではないのに、自分たちを困らせるかもしれないと言えずにいるようだった。
     いつか全部聞き出してやると心の中で決意を固めて、にこにこと笑って皿の上のりんごを手に取ったジェイクを見る。そのままでは食べにくいと思ったのか、彼の手にはナイフが握られていた。
    「どこから!?」
    「ああそうだ、こっちの方が食べやすいか?」
    「すりおろし器!?どこから!?!?」
     ひょいと大きなおろし器を取りだしたジェイクに思わず素っ頓狂な声が飛び出る。相変わらずにこにこと笑ったままの彼は、どうだと首を傾げてマークを見つめていた。おろし器やナイフの収納箇所について教える気は無いようだった。
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