♯キスの日思えば若かったあの日。初めて会った時、なんと簡単に触れてしまったのだろう。
もう一度その髪に触れてみたい、そう思い始めてから成就するまでには、随分と時を要した。
休日の人気のない小さな公園での逢瀬だった。散策の合間の休憩にと噴水の縁に隣り合って腰掛けて、ふたりの馴れ初めを思い起こす。
細かいしぶきを浴びている冷たそうな今日のその髪や肌の感触を確かめてみたい。
美しい恋人を眺めながらそう考えていると、不意にリュミエールの白い手が伸びてきて指先が自らの頬に当てられた。
嘘だろうと驚きつつも、思わせぶりなその手を握り返し、体を寄せて華奢な唇へ軽いキスを返す。
オスカーにとってそれは殆ど条件反射のようなものだった訳だが。
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