常世の唄声 歌が、聞こえる。誰かが俺を呼ぶ声がする。
目を開けてまず飛び込んできたのは、大きな泉だった。薄暗い森の中、俺は泉の縁に立っている。こんな不可思議な状況だというのに、どうしてもあの声の元に行かなければならない気がしてならない。
泉に向かって一歩、足を踏み出す。水の上なんて歩けないはずなのに、踏み出した足は沈む事なく身体を支え、気が付けば水面に立っていた。
——……、頭の奥で知らない鈴の音が鳴る。
心のどこかで、これ以上進んでいいのかと不安が過った。せめて相手と意思疎通が取れたなら、安心してそっちへ向かう事が出来るのに。歌声の主は何も答えず、ただ静かに俺に向かって手を伸ばすだけ。白くぼんやりとした光を纏った腕はとても神秘的で、深い水の底にでもいるみたいに、全体が揺らめいていた。
1813