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    雪ブドウ

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    雪ブドウ

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    2022/07/23(土)Drunk in Long Nightにて配布させてもらった無配を展示します。

    月夜に照らされた特等席 耳障りな笑い声が鼓膜を揺らし、少しずつ形を成していく。無数の影が、何かを求めて手を伸ばす。

     ――いいナぁ、いイなぁ。すキだなぁ。
     ――あの子のそバは、タノしいナぁ。
     ――きれイだナぁ。ほシいなぁ。
     ――そうダ。
     ――イまスグ あの子 を
     ――つれ テ  い って シま お うカ。

    「……それは駄目だよ」
     嫌な予感がして戻ってきてみれば、あの若造め。また変なモノを惹き連れて来てしまったのか。住宅街の、月明かりも届かぬ狭い小道の先からゆらゆらと這い寄るモノたちを見て、思わずため息が零れる。今回のは、小さなモノが寄り集まった感じか。こういうタイプは理性を持たないから、目を付けられると厄介だ。
    「今、手を引くなら見逃してやろう。どうだね?」
     そう声をかけた途端、抗議でもするかのように周りの空気が重く、澱んでいく。そんな不満そうな態度を取られたって、困るんだよなぁ。
     一歩、また一歩と距離を詰める。近付くと空気の澱みは一層強くなっていき、何と言っても気分が悪い。普通の人間ならこの程度でも体調に影響が出てしまうことだろう。
    「彼の傍は居心地がいいよね。何でも受け入れてくれるから、ついつい長居してしまう……」
     手を伸ばして触れてみれば、指先に感じるのは欲望や憧れ。それから、愛憎。若造に向けられる様々な感情がじわりと伝わってくる。理解はするが、許容は出来ない。

     お前たち如きに、くれてやるものか。

     腕を勢いよく横へ振り抜くと、マントがはためき黒いモヤが霧散する。これで暫くは大丈夫だろう。そうして吐いた息が静かに夜の街へと吸い込まれ、消えていく。自分で思っていたよりも興奮していたらしい。この程度のモノに腹を立てていたら、キリがないというのに。
    「……ドラ公?」
     振り返れば、ジョンを抱えたロナルドくんと目が合った。安心させるように軽く手を振って答えれば、彼は訝しげに眉をひそめて小首を傾げる。
    「なにしてんだ、早く行くぞ」
    「いや~月に輝くゴリラかな、とでも詠もうかとね」
     そう茶化せば、小さな舌打ちと共に素早い動きでロナルドくんの拳が飛んでくる。視線の高さが一気に下へと落ちていき、視界には月をバックに拳を構えるロナルドくんの姿が目に映った。あぁ、本当に。ここは居心地が良くて、困ってしまう。
     ゆっくりと身体を再生して、彼に向き直る。今の私は、どんな顔をしているのかな。
    「帰ろうか、ロナルドくん」
    「いや帰るけどよ……」
     何か言いたげな彼の背を無理やり押して、この場を後にする。背後からねっとりと絡み付くような気配を感じたが、そんなの知ったこっちゃない。だって彼は、
    「——私のだよ」
     まぁ私も大概、他の者の事は言えないか。
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