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    ルカ🍹

    @RukaDc

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    ルカ🍹

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    ワンライに挑戦し玉砕した成れの果ての産物。
    とんでもなく時間オーバーしました。
    お題は「夏祭り」「真実」をお借りしました。
    くどー視点の降志未満のお話です。しほちゃんにモブ彼氏がいます。

    彼と彼女の近未来 新一には、不思議に思っていることがある。
     目の前の運転席と助手席に座っている、一組の男女についてである。

     真夏の夕方は長い。夜と言える時間帯ではあるが、まだ宵の口という言葉を使うには早いだろうか。
     けれども。お囃子の音、下駄の音。高揚した様子の人々の話し声が、華やかな夏の夜のはじまりを連れてきてくれている。路肩に停車した車内には、たとえ窓を閉め切っていても、それらの音が届いている。
    「ねぇ。帯、崩れちゃったりしてないかしら」
    「大丈夫。崩れてないよ」
     助手席に座っているのは宮野志保だ。シートベルトを外した彼女は、背中をくるりと運転席側へ向けた。
     頷いたのは降谷零だ。公安警察官である彼の依頼により、自分を含むこの三名は志保の自宅兼ラボへと集合し、つい数十分前まで議論を交わしていた。
     それが、今何故、彼の車でここにいるのか。
     答えは簡単。浴衣姿の志保を、夏祭りの会場まで無事に送り届けるためである。
     降谷により召集が掛かったのは、些か……いや、本当にかなり急であった。今夜入っている予定のために、志保は既に着付けを終えてしまっていたらしい。
     志保と新一が解放されたのは、彼女の予定ギリギリの時間であって。だから、降谷が責任を持って、彼女の足となることを買って出たという訳だ。
     かくして、その予定とは。浴衣を着て、祭りへと共に繰り出すその相手とは。
     やはり、答えは簡単だ。
     そう。デートだ。

     何故、オレまでここにいるのか。そう思わないこともない。
     米花町の夏祭りなのだから、本来ならば新一だって恋人と出かけたいのだ。
     だが、今日に限って、その彼女はいなかった。新一の恋人である毛利蘭は、大学最後の部活動の、遠征合宿へと出かけてしまっていた。
     なので、単純に羨ましい。コイツだけデートかよ、と、唇を尖らせたくなってしまう。
     ……しかし。
     この人はどうなのだろうか。
     チラリと目線の先を流し、シートから覗いている蜂蜜色の頭を見つめる。
    「ねぇ。この浴衣、変じゃないかしら」
    「うん。よく似合ってるよ」
    「子どもっぽく見えたりしない?」
    「大丈夫だって。一番落ち着いて見えるヤツを選んだだろ?」
     恋をすると、人はこうも変わるのか。新一が知っている志保からは想像もできなかった彼女が、今目の前にいる。ついつい、珍しいものでも眺めるかのように凝視してしまう。
     志保がその身に纏っている濃紺の浴衣は、降谷と共に選んだものだそうだ。別の男と出かける浴衣を、別の男が選んだということだ。
     聞くところによると、捜査協力の御礼で買ってあげたとかなんとか。御礼って、便利な言葉だなと思ってしまう。そんなことは、特に降谷には、口が裂けても言えないけれど。
    「ま、似合ってんじゃねーの? 自信持てよ」
     ここで何も言わないのは、友人としても男としてもどうなのか。そう感じたため、新一はとりあえずの褒め言葉を述べた。
     とりあえずと雖も、本心だ。志保からは「それはどうも」と、関心のなさそうな目つきで、とりあえずの御礼が返ってきた。

    「あ、彼だわ」
     志保が呟き、降谷がフロントガラスの向こうを眺める。新一も、二つのシートの間から顔を出した。
     なるほど、アイツか。浴衣姿の男が一人、こちらに視線を向けている。
    「じゃあ降谷さん、送ってくれてありがとう。工藤君もお疲れさま」
    「ああ。楽しんでこいよ」
    「宮野、またな」
     志保が助手席のドアを開き、アスファルトの上で下駄を鳴らした瞬間だった。
     道行く多くの人波越しに、突き刺さる鋭い視線。
     一瞬だった。ドアを閉め、志保がそちらへ向かって行ってからは、その目には笑みが浮かんでいた。
     ぎくりとした。が、当然か、とも思った。自分の彼女が、見知らぬ二人の男が乗るスポーツカーで現れたのだから。
     新一が気づいたのだ。降谷も気づいているだろう。後部座席からは、彼の様子は伺えない。
     ひとまず、空っぽになった助手席へ移動することにする。次は、新一の自宅へ寄ってくれる予定となっている。
    「今の見たか?」
     シートに腰を下ろすと、新一が尋ねるより前に、降谷から問いかけてきた。
    「見た。見ましたよ」
    「周りを牽制するより前に、自分の手でしっかり捕まえとくべきだろ」
     はあ、と、大きなため息と共に吐かれたセリフ。正直なところ、どの口が言うか、と突っ込みたくなってしまった。牽制されて当たり前だろ、と。やはり、そんなことは言えないけれど。
    「今の男、志保さんがメイク変えても気づかないらしいぞ」
    「はい? メイク?」
    「今日も、変えてただろ。浴衣だし、祭りの夜だし、シチュエーションに合わせたんだろうけど」
     ぱちぱちと両目を瞬く。
     え……メイク?
     アイメイク? 口紅? どこのメイク?
    「僕なら絶対気づくのに」
     はあ、と、ため息をもう一つ。降谷はハンドルの上に肘を乗せ、頬杖をつき唇を曲げた。
     ぽつりと零した今の言葉は、独り言なのだろうか。それとも、新一に返事を求めているのだろうか。
     もう一度、彼の口から告げられた、一つの事実を反芻する。
     メイク。全く気づかなかった。さすがに、アップスタイルへと変貌していた髪型には気づいたのだが。
     自分の彼女が相手だったら、きっと気づいただろう。あれ……気づくよな? ちょっと自信がない。
     ひとまず、自分自身のことは置いておくとして。
     改めて、不機嫌が滲んだ横顔をまじまじと眺める。はあ、と、新一もため息を一つ。
    「だったら、降谷さんが宮野と付き合えば?」
    「……え?」
     ぱちり。今度は降谷がその目を見開き、瞬きをした。
     あ。言ってしまった。降谷と目が合い、新一は初めてそのことに気がついた。
     けど、もういいや。もう、全部言ってしまえ。
    「そもそも今の宮野の彼氏、どうなんかなーって思ってたんですよね。降谷さんが奪っちゃってくださいよ」
     しばしの沈黙。
     いや。しばしと言うか、一向に返事が返ってこない。それどころか、降谷はハンドルに顔を伏せ、動かなくなってしまった。
    「あの、降谷さん?」
    「……いや、そうか。そうだな。そういうことだよな」
     突っ伏した姿勢のまま、ぼそりぼそりと吐き出された言葉。その意味するところを、やがて新一は理解した。
    「えっ、今? それ、今?」
    「……ああ。今」
    「え、ほんとに今? 嘘だろ。全然、全く気づいてなかった?」
    「恥ずかしながら、全く」
    「マジかよ」
     つい、本音で捲し立ててしまった。鈍すぎるだろ、と言いたくなったが、それだけは我慢した。
     流れた長い横髪の隙間からは、真っ赤な耳が覗いている。
     ようやく降谷が顔を上げた。耳どころか、頬も額も、顔中が真っ赤だ。
     こんな姿をした彼は、初めて見た。こんな顔もするのか。
     何ということだろうか。恋が生まれた瞬間に立ち会ってしまった。
     今の降谷の頭の中には、さまざまな感情が渦巻いていることだろう。
     その複雑な感情たちは、たった一つの答えに行き着くのだ。
    「降谷さん。それが、貴方の真実ですよ」
     目と目が合う。何故だか自分自身が嬉しくなって、ニッと降谷に笑いかける。
     恥ずかしそうに、降谷が唇の端を緩める。照れ隠しなのか。伸びてきた左手で、髪がぐしゃぐしゃになるまで頭を掻き回されてしまった。

    「来年の夏祭りは、二人で来れるといいですね」
    「そうだな。新一君もね」
     志保の後ろ姿は、とうに雑踏の奥に消えてしまっている。
     今年の祭りは男二人、このまま引き返すしか選択肢はない。
    「……来年か。それまでは待てないな」
     零れ落ちた彼の本音は、熱く、重い。
     恋を自覚した彼はきっと、彼女以上に変わるのだろうと思う。

     工藤君、見て見て。
     この浴衣ね。私にすごく似合うって、降谷さんが選んでくれたの。

     一時間ほど前。志保の自宅の玄関先。
     車を回してくれている降谷を待つ間に聞いた、志保の言葉を思い出す。
     嬉しそうに、楽しそうに。幸福そうに笑っていた、その顔。

     大丈夫。何も心配することなどない。
     彼と彼女が歩む未来は、名探偵のお墨付きだ。
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