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    Akira_s4

    @Akira_s4

    文字書きです。どこにも投げられないような短いのとか腐ったのとか投げてます。

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    Akira_s4

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    アルリュ♀ちゃんのアルフレッドとディアアイちゃんのディアマンドが男子トークするお話です。どちらも既に関係ありかぽー同士。秘めるディアアイと憚らないアルリュ♀が入っています。

    #ファイアーエムブレムエンゲージ
    fireEmblemEngage
    #ディアアイ
    idea
    #アルリュ♀

    恋歌う花と黙する金剛 彼の二十余年の人生において、自制というのは当たり前のように求められ、当たり前のようににできることだった。ブロディアを継ぐものとして子供の頃から一挙手一投足に注目を浴び、誰の発言に笑った、誰の発言に怒った、そんな他愛のないことが貴族たちの翌日の話題になる。だからこそ言動には細心の注意が必要になり、必然ディアマンドという青年は何事にも配慮し慎重な振る舞いを心がけるようになっていた。
     だからこそ、今彼は戸惑っている。
    (まさか自分がこんなにも貪欲だったとは思わなかった)
     彼女をプールに誘ったのはディアマンド自身だ。今日は心地よい暑さを感じる陽気だったし、息を切らしながら行う鍛錬を彼女はあまり好まなかったから。ただそれだけだ。下心があったわけではない――断じて。
     だが、彼の視線は彼女の艶めかしい肢体をつい追いかけてしまっている。普段から太腿や肩などを大胆に露出させた彼女だからこそ、その姿でさえ常に覆われているはずの部分が露わになっていることに耐え難い衝動を覚える。
     あまりに不躾だろうと我に返り、視線をそらしてひと泳ぎし雑念を払うも気がつくとまた視線は彼女を追いかけている――その繰り返しにディアマンドは少々くたびれていた。

    (こんな雑念まみれで、鍛錬に身など入るはずもないか……)
     またひと泳ぎして、今度こそは彼女の方を見ないと心に定め視線を無理に水面に落としたところで軽く肩を叩かれる。振り返るとこちらも水練に来ていたアルフレッドの笑顔があった。善意の塊のような眩しい笑顔に、ついディアマンドも微笑む。
    「随分上の空だね、ディアマンド王子」
    「アルフレッド王子。いや……ああ、そうだな、すまない」
    「謝ることはないよ。何か悩みごとがあるなら、相談に乗ろうか?」
     何か、と問うアルフレッドの視線はプールの対岸で談笑している女性陣の方へ向けられている。察してはいるが敢えて踏み込まない彼の社交術はさすがのもので、ディアマンドはありがたく彼の好意に頼ることにした。
    「では、少し話を聞いてもらえるか」
    「喜んで」
    「君は、自分の感情や欲望が制御できなくなったことはないだろうか」
    「あまり経験はないね。もっとも、例外はあるけれど」
    「神竜様か?」
     ずばり、指摘するとアルフレッドは楽しげにくつくつと笑った。隠すつもりもないのだろう。彼は神竜と深い絆を結んで以来、自身が幸せだと周囲に触れて回っているくらいだ。彼女は自分のものだと宣言するような振る舞いは堂々としていて、いっそ清々しささえ感じる。
    「御名答。彼女に対しては、どうにもね」
    「分かる。私が悩んでいるのも、まさしくそのことなのだ」
     ディアマンドの視線は、またも彼女を追いかける。対岸で神竜リュールと嬉しそうに話している、隣国の王女を。戦乱の間に密かな絆を紡ぎ、結ばれたばかりの伴侶を。
     ディアマンドの横顔を眺めていたアルフレッドは、プールサイドによりかかり歌うように言った。
    「気を抜くと彼女のことばかり考えている。目は彼女を追いかけて、やめようとしてもやめられない……といったところかな」
    「その通りだ。すごいな、私の心を読んだのか?」
    「僕も経験があるんだよ。さては、抱いたね?」

     思い切り核心に踏み込まれて、さすがにディアマンドは表情をこわばらせた。誰にも言っていないし気取られるような振る舞いをしたつもりもない。見抜かれたことより、それをはっきり口に出して訊ねてきたことに驚いてアルフレッドの方を振り返る。
    「……あからさまに聞くのだな」
    「歯にものの挟まったような上品な話をしたいわけではないのだろう、君は。僕らも年頃の男だ、別に恥ずかしがるようなことではないと思うけどなあ」
     閨の話などこんな明るい日の下でするものではないとディアマンドは思っていたが、アルフレッドはそうではないらしい。あっけらかんと言われると、話題の持つ粘質なものが取り払われるようでいくらか気が楽になる。
    「そのことばかりを考えているわけではないのだが……どうにも、彼女のことばかり考えてしまう。ふとしたことで彼女が脳裏をよぎってしまうのだ」
    「わかるよ。夢中になってしまうんだよね。禁欲的に過ごしてきたからこそ、なおさら」
    「君もか。少し意外……といったら失礼かもしれないが」
    「僕だって男だ。今はもういくらか落ち着いたけどね。こらえきれなくて雑念から逃げるように走り込みをしたのも一度や二度じゃない」
     見るからに麗しく物語の王子さま然としたアルフレッドにもそういう欲望がこらえきれない瞬間があると言われると、少し意外な気がする。この気のおけない友人はいつも飄々としていて、ともすれば花の妖精かなにかなのではないかとつい思ってしまうことがディアマンドにさえあったからだ。
     軽く笑って受け流して、そこで最も重要な部分を見逃していたことに気付く。
    「……待て。ということは神竜様を?」
    「抱いたよ? 僕らだって神竜と王子である前にただの男と女だからね。もちろん、お互いの意向を確かめた上でそうすると決めた。流されたり、勢いだけでしたという話ではないから安心してくれ」
     小首を傾げて言うアルフレッドへさすがに返す言葉がとっさに見つからず、ディアマンドは感嘆のため息をつくことしかできなかった。
     神竜はこのエレオス全土で信仰されているいわば信仰対象だ。愛し合う男女だからといって、それを抱いたとこともなげに言うアルフレッドの胆力には驚かずにいられない。
    「後悔はしたくないんだ。ただでさえいつ死ぬか分からない状況なのに、未練は残したくないだろう?」
    「それは……そうだな」
    「ディアマンド王子。君は何も言わなくても人の気持ちが察せる男だ。だからきっと、彼女の胸中も最大限汲んでしまうのだろう。それは素晴らしい能力だけれど、こういうことは話し合うのも肝心だと僕は思うよ」

     アルフレッドは説教をしているわけではない。友人として忠告してくれているのだが、それはそれとして耳に痛い話ではあった。事実、初めて彼女を抱いた日からその話題をディアマンドは敢えて避けている。気恥ずかしさや気まずさもあっただろう。とにかく、閨の話題を口にするのは憚られる、そんな心境であったのは確かだ。
     事情あって夜毎訪ねてくる彼女とそういう雰囲気になって、その空気に流されるようにして抱く。そんな夜を何度か過ごして今に至るが、その間ディアマンドが敢えてそのことについて触れることはなかった。そうしなくても、彼女の願いを理解している――それは大変な驕りだったと、ようやく気がついて頬が熱くなる。
    「私は、随分傲慢な振る舞いをしていたのだな」
    「傲慢は言い過ぎかな。その気遣いだって褒められるべきものだよ。僕も常々見習いたいと思っているんだ」
    「ふふ、君だって気遣いは十分出来ているだろう」
    「とんでもない。デリカシーがないとセリーヌによく怒られるんだ。これでも気をつけているんだけどなあ」
     大仰に天を仰ぐアルフレッドのその口ぶりこそ気遣いというものだろう。ようやく笑うことが出来て、ディアマンドは彼女に視線を戻した。ようやくその視線に気がついたのか、彼女ははにかんで手を振ってくれる。
    「大丈夫だよ、ディアマンド王子。君ならきっと、大丈夫だ」
    「君のその言葉は不思議だな。わけもなく、大丈夫だと思えてくる」
    「だって実際、大丈夫だからね。少し話をしてみるといい。気恥ずかしさはあるだろうけど、きっともっと素直に彼女を見つめることができるようになると思うよ」
     僕がそうだったからね、と軽くディアマンドの肩を叩いてアルフレッドは水の中に潜っていった。綺麗な姿勢で対岸まで泳いだ彼は神竜の手を取って泳ぎに誘う。
     苦笑を浮かべた神竜が彼女に軽く詫び仲良く競争を始めた神竜に置いていかれて――実際はアルフレッドが気を利かせてくれたのだろう――苦笑を浮かべる彼女の元へ、ディアマンドは水をかき分けるようにしてゆっくり歩み寄っていった。
    「アイビー王女」
    「ディアマンド王子。ごめんなさい、せっかく誘ってくれたのに一人で泳がせてしまって」
    「いや、構わない。だがたまには水の中もいいものだろう?」
    「そうね。今日は特に暑いから、水の中が気持ちいいわ」
     楽しそうに上がる笑い声を背景に、当たり障りのない会話が続く。本当に話したいのはそんな上辺だけの話ではないのに、切っ掛けが上手くつかめずディアマンドは焦れた。アルフレッドのあの見事な話題の切り替え方に比べれば、自分の話術など児戯に等しい。
     いっそ何もかも強引にぶちまけてしまおうか。そんな乱暴な考えを追いやる彼の手を、アイビーはこわごわ握ってきた。
    「そろそろ上がりましょうか。二人の邪魔をしては悪いし」
    「あ、ああ。そうだな」

     プールを上がったアイビーの身体に自分の上着を掛けてやり、アルフレッドに軽く声をかけてその場を後にする。部屋まで送り届けようかと女性用の宿舎へ足を向けると、アイビーはそれを拒むようにディアマンドの腕にギュッと抱きついてきた。ではどこへ行きたいのかと言えば思い当たる場所は一つしかなく、ディアマンドは自分の部屋へ向かう。
     不思議と、言葉は全くない。行き先は自分の部屋でいいのかと一言訊ねればいいのに、この期に及んでその一言さえ出てこない。こんなにも自分は臆病だったのかと愕然とする。
    (アイビー王女は、どう思っているのだろうか)
     つい先夜まで、褥を共にしたいと先に言ってきたのはアイビーの方だ。初めての夜、怯えて最後までできなかったことを気に病んだのか彼女は半ばムキになってディアマンドの部屋へやってきた。何度か夜を重ねてようやく一つになれた、その幸福感が今度はディアマンドの方を虜にしたがアイビーは果たしてどうなのだろう。
     ディアマンドから求めることに、否と言われたことはないけれど。
     とうとう自室に着いて、扉を開く。当たり前のように中に入るよう勧めれば、アイビーも当たり前のように部屋に入ってくる。そこに否定的な感情は見当たらない。
     後ろ手に扉を閉め、部屋の中には二人きり。お互いまだ濡れたままで向かい合うさまは妙に色っぽい。上着の間に覗く豊かな谷間から視線をそらし、ディアマンドはようやく深呼吸をして心を落ち着かせた。

    「アイビー王女、その」
    「ずっと私のこと、見ていてくれたわね」

     ディアマンドの言葉を遮って、アイビーがぽつりと呟く。常の彼女らしい、あまり感情を乗せない淡々とした口調だ。出かけていた言葉を思わず飲み込み、ディアマンドは目顔で続きを促す。
    「今日だけじゃない。最近はずっと……あなたの視線を感じるわ。私の気のせいではないわよね?」
    「その通りだ。気がつけば、あなたを目で追いかけている……最近は、ずっと」
    「よかった。そんな顔をしないで? 嫌ではないの。嬉しいのよ」
     ようやくアイビーの顔が笑みに綻び、ディアマンドの胸に顔を寄せてくる。ひた、と裸の胸に押し当てられた頬は微かに熱く、濡れた髪の感触がざわりと胸をざわつかせた。この距離は、よろしくない。否応なしに閨のおこないを思い出してしまう。下腹にじわりと積もる熱を、ディアマンドは奥歯を噛みしめて耐えた。
    「貴方と初めて夜を過ごしてから、随分貴方を困惑させてしまったでしょう? 自分が面倒くさい女だってわかっているの。でも、何も言わず受け止めてくれる貴方に私はずっと甘えていた。いつか、愛想を尽かされるのではないかって怯えながら貴方によりかかっていたわ。だから、貴方の視線が私を追いかけてきていると気づいて、とても嬉しかったの」
    「不躾な視線を送ってしまってすまなかった。もっと早くに言えばよかったのだが……どうやら私は、今まで以上にあなたに惚れ込んでしまったらしい」
     まあ、とアイビーの目が丸く瞠られる。素直な感情の吐露に慣れていないわけでもなかろうに、ディアマンドは自分の頬も熱くなるのを感じていた。
    「寝ても醒めてもあなたのことばかり考えてしまう。こんなことは、初めてだ。少なくともブロディアの王子として立っている間は、自分の感情など制御できると思っていたのに……今は、こんなにもあなたへの気持ちを御せずにいる」
    「貴方はそれを恥ずかしいと思っている?」
    「恥ずかしい……とは違うな。戸惑っている……いや、持て余していると言ったほうが正しいのかもしれない。放っておけば際限なくあなたを求めてしまうのではないかと、不安もある」
     誰が相手でも適切な距離というものを保ってきたディアマンドにとって、これほど誰かにのめり込むということ自体が初めての経験だ。臣下はもちろん、家族だってここまで四六時中相手のことを考えはしない。アイビーが許してくれるままどんどんのめり込んでいったら、いつかは彼女を傷つけることにもならないかという不安がずっと胸の底から消えず、かといってそんな不安をブロディアの第一王子たる者が吐露しては彼女を幻滅されるのではないかという別の不安がまた積み重なってディアマンドの口を噤ませていた。

     ディアマンドの腕の中からじっと見上げてきていたアイビーは、目を細め愛おしげにディアマンドの頬を撫でる。その手付きは褥を共にする時のそれというよりは、姉としての愛情にあふれていた。
    「貴方にも、そんな可愛らしいところがあったのね」
    「可愛らしい、だろうか。情けないとは思わないのか?」
    「どうして? 敵に対して怯むのならそれは情けないと言われても仕方ないでしょうけれど、貴方が怯んでいるのは敵ではないわ。ふふ、私が好きすぎて怯んでいると言われているようなものだもの。可愛いと思うのは当然ではなくて?」
    「好きすぎて、怯む」
     アイビーの例えはすとんとディアマンドの腑に落ちた。
     そうなのだ。ディアマンドの屈託は、アイビーへの気持ちが募りすぎていることがそもそもの原因で、それ以外は枝葉に過ぎない。この今までに経験したことのない重たく湿った気持ちがアイビーにとって邪魔にならないか。それさえ解決できれば、何の憂いもなくなるものだった。
    (堅苦しく考えすぎて、問題の核を見落としていた。アルフレッド王子が言っていたのは、こういうことだったのだな)
     あなたが好きだというその一言を、ディアマンドは無意識に出し惜しみしていた。そう軽々しく口にするものではないと思っていた。だが、アルフレッドと神竜の関係を見ればそうではないことは明らかだ。好きという想いは、言わねば全部は伝えられない。
    「アイビー王女」
    「なあに?」
    「私は、あなたに好きだともっと告げてもいいのだろうか」
    「駄目、と言ったら貴方はどうするの?」
    「む……そのときは、自重しよう。こらえきれなくなったらブロディアの廃坑にでも、一人で叫べばいい」
    「貴方がそんな冗談を言うなんて、意外ね。その光景はちょっと見てみたいけれど……でも、そんなこと、言わないわ。貴方が好きって言ってくれる時の声も顔も、大好きだもの」
     大好きと言ってくれるアイビーの笑顔は、本当に幸せそうだった。いつも控えめでどこか陰のある彼女が子供のように満面の笑みを浮かべていることに――そうして自分が笑わせられたことに、ディアマンドもどうしようもなく嬉しくなる。大好きだと言ってくれる声も顔も、という彼女の言葉を今まさにディアマンドも実感していた。
    「貴方が私の気持ちを尊重してくれるのも、私の気持ちを言葉にしなくても察してくれるのもとても嬉しい。でも、言ってくれた方が嬉しい事だって沢山あるのよ」
    「好きも、その一つということか」
    「言われて不快になるものではないでしょう? そりゃあ、アルフレッド王子のように臆面もなくあちこちで言われたら少し恥ずかしいけれど。貴方だって、ただ見つめているだけよりも楽になるのではないかしら」
    「確かに、あなたを見つめているばかりでは欲求不満が募るばかりだったな。せめて二人きりの時くらいは、我慢せず気持ちを伝えるとしよう」
     アイビーの細腰を抱き寄せ、軽く身を屈めて彼女の耳元へ唇を寄せる。腕の中で微かにアイビーが緊張するのが伝わってくるが、遠慮しなくていいという言葉に甘えてもうそこで止めたりはしない。それまで見つめる視線にだけ込めてきた想いを遠慮無く音に乗せる。
    「愛している、アイビー……能うことなら、君をこの腕の中にずっと閉じ込めておきたい」
    「ディアマンド……私も。まるごと全部、貴方だけのものになれたらいいのに」

     名前だけで呼び合うのは、二人だけの合図だ。お互い以外の何もかもを忘れて、相手に没頭するためのおまじない。普段はブロディアの王子とイルシオンの王女として、慎ましく密やかに交際する姿を見せている二人の距離がそれだけで縮まっていく。
     もう二人を隔てるものは薄い水着それだけだ。そう意図したわけではない。プールに誘ったのはただ暑かったから――本当にそうだろうか。下心が無かったと言えば嘘になる。こうなる事を僅かに期待していた自分を、ディアマンドはもう否定しなかった。
     密着した腰の辺りを殊更に押しつける。アイビーの瞳が揺れて、そこにはっきりと期待の色が浮かぶ。
    「その。いい、だろうか」
    「ちゃんと言ってくれないと、いやよ」
     口調はまるでおねだりをする子供のようだったが、ディアマンドを挑発するように脚の間に自分の脚を滑り込ませる仕草は紛れもなく大人の女のそれで。いつの間にそんな媚態を覚えたのか、そのアンバランスさがぞくぞくするほど魅力的に見えて思わずディアマンドは切ないため息をついていた。
    「……抱きたい。君を、今すぐに」
     返事の代わりに、アイビーが軽く背伸びをして目を閉じる。それがキスの催促だと分からないほどディアマンドも野暮ではない。その上に顔を伏せ、甘い唇をたっぷりと味わった後はもう頭の中はお互いの事ばかり。
     それまでの屈託と劣情とを振り払い、ありったけの想いを込めてディアマンドは目眩くひとときに溺れたのだった。


    「アルフレッド。さっきはディアマンドと何の話をしていたのですか?」
     ディアマンドとアイビーがプールから上がっていって暫く後。こちらもプールを上がって髪を乾いた布で丁寧に拭いてくれるアルフレッドに、リュールは好奇心に輝く眼差しを向けた。
     随分寛いでいる様子だったし、何だかとても仲のいい友人同士のようにも見えて微笑ましかったから、きっと楽しい話をしていたのだろう。
    「他愛の無い話だよ。僕と彼の近況とかね」
     だがアルフレッドはにこにこと笑ったまま、軽く小首を傾げるばかりで教えてはくれない。こういう時の彼は、何か隠し事をしている時だ。
    「む。内緒話ですか?」
    「ふふ、男同士の話というやつかな。君にはちょっと刺激的すぎるかもしれない」
    「し、刺激的!? 逆にそれは気になってしまいます」
     生真面目なディアマンドと、軽妙ながらも本当は真摯なアルフレッドが交わす「刺激的」な会話とはどんなものなのだろう。リュールは懸命に想像力を働かせたが、やはりこれといった内容は思い浮かばなかった。
    「ないしょは、ずるいです」
    「おっと。機嫌を損ねてしまったかな。では言い方を変えようか。ディアマンド王子の沽券に関わる話だから内緒ということだよ」
    「沽券……つまりちょっと恥ずかしい話ということですか?」
    「ふふ、回答は避けておくよ。彼は僕よりも恥ずかしがり屋だから」
     それはつまり当たりと言っているも同然なのだけれど、それをはっきり言わないのが大人の礼儀というものなのかもしれない。敢えて伏したものを暴くのはディアマンドにも悪いということくらいはリュールにも分かった。
    「そういうことなら、仕方ないですね」

     ようやく納得して、リュールはまたアルフレッドの手に身を委ねる。緩急つけて髪を拭ってくれる手付きは優しくて心地よく、思わずリュールの唇からほっとため息が漏れていた。
    「アルフレッドの手、優しくて大好きです」
    「おや、嬉しいことを言ってくれるね。僕も君の手が大好きだよ。いつまでだって握っていられる」
     大好きだよ、とアルフレッドが言ってくれる時の声がリュールは好きだった。大事に大事に、宝物のように言ってくれる。優しく細められる目も、柔らかく弧を描く唇も、全部が愛おしく感じる。
     それを口にするのは少しまだ気恥ずかしいけれど、リュールは惜しまずその気持ちを伝えるようにしていた。違う時間を生きる自分とアルフレッドが一緒にいられる時間は限られている。その間に何回好きだと言えるか――実はそう多くないのではないかと気づいたからだった。
    「アルフレッド」
    「うん?」
    「大好きです。今日も、明日も、ずっと」
    「僕も。毎日だって、君に伝えよう。大好きだよ……愛してる」
     アルフレッドの瞳が軽く瞠られ、それからとろけるように笑う。幸せそうな笑顔は、リュールも一緒に幸せにしてくれる最高の笑顔だ。この素敵な笑顔に出会えるから、リュールは何度だって彼に大好きだと言える。そうして二人で幸せなら、何も言うことはない。
     落ちかかる唇を甘く受け止め、胸いっぱいの幸福感と共にリュールはもう一度大好きですと囁くのだった。
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