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    Akira_s4

    @Akira_s4

    文字書きです。どこにも投げられないような短いのとか腐ったのとか投げてます。

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    Akira_s4

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    盛り上がりが冷めないので書いちゃうよ!先走りまくったサイモンの息子(サザル)くんと勇者ちゃんのお話。息子くんが仲間になるifルートです。

    #ドラゴンクエスト3
    dragonQuest3
    #女勇者(DQ3)
    womenOfValor
    #サイモンの息子

    使命と願いと 早朝の空気はまだ肌寒く、彼女は後ろ手に扉を閉めるとぶるりと震えた。
    花は綻びだしたが、陽のない時間は外套なしでは心許ない。羽織った外套の前を掻き合わせ、足早にその場を離れる。
     母が大切に育てている花は、あと半月もすれば花を咲かせるだろう。柔らかく花壇を飾る様々な色を暖かな日差しの中眺めるのが毎年の楽しみだったが、今年はきっとその機会はやってこない。
    (ううん。今年は、じゃなくて……たぶんもう、ずっと)
     東の空が昇り来る太陽の光を受けて赤々と燃えるような色を帯びていた。もう少し陽が昇れば、早起きな隣の老人が朝の散歩に出てきてしまう。それまでには町を出なければならなかった。
     急がなくては。それでも名残惜しさは振り払えなくて、彼女は何度も振り返った。
     父の無事を空に向かって祈り続けたベランダ。最初は祖父の指南で。それから師に戦い方を習って何度も素振りをした庭。日に数度は父が帰ってこないか、母と二人で佇んだ小さな門――どこにだって思い出が染みついていて、思い入れのない場所などない。
     少しずつ遠ざかっていく生家ではこれまでの旅を支えてくれた仲間達が眠っている。幼い頃から何くれと彼女の世話を焼いてくれた師も、姉のように慕った人たちも、決戦に備えて深い眠りの中にいるはずだ。
     彼女らを置いて一人行く事に罪悪感がないと言えば嘘になる。仲間達の助けがなければ彼女は間違いなく旅の途中で斃れていただろうし、最後の決戦だって一緒なら心強い事この上ない。
     それでも、彼女は一人で行くと決めた。アリアハンに――この光溢れる世界に多くの繋がりを持つ彼女らを連れて行く決断は、どうしてもできなかったから。
    (ゾーマとの決着を着けたら、きっとこの世界とアレフガルドの繋がりは断たれてしまう。世界が平和になってもアリアハンに帰れないのなら……みんなは連れて行けない)
     確信があるわけではないのだ。単なる思いつきだったし、誰かに打ち明ければきっとそんな事はないと笑われてしまう程度の懸念だった。それでも単なる杞憂であると彼女自身はとても思えなくて。
     だからこうして壮行会と称して故郷に帰り、仲間達を残して彼女は一人で家を出た。もしゾーマを倒しても帰ってこられるのなら、帰ってきて何時間だってお説教されればいい。この街に老いた両親のいる師や、心密かに想う相手がいる友が一生大切な人たちに会えなくなるより遙かにましだった。

     振り返っては進み、進んでは振り返り。
     何度もそれを繰り返して、ようやく街の出入り口のシンボルでもある大樹が見えてくる。子供の頃、よく木登りをして母に叱られた木はきんと冷えた空気の中、寒々しく伸ばした枝に緑を纏い始めていた。
     見慣れた街のあちこちが春の気配を漂わせ始めていて、冬の終わりを告げる祭に賑わう街並みをもう見られないかもしれないと思うと一抹の寂しさがよぎる。
     それらを振り払うようにして肩で風を切り、せめて堂々と門をくぐって街を出ようとする彼女はしかし大樹の足下で立ち止まった。
    「……一人で行く気かい?」
    「サザル。どうして、ここに」
    「何となく、そんな気がしたんだ。私がキミの立場でも、きっとそうしただろうから」
     大樹の陰に身を潜めていた青年は、彼女を叱るでもなく咎めるでもなく、常と変わらず穏やかに凪いだ表情で彼女を見つめている。
     父の戦友にしてサマンオサが誇る英雄サイモンの子――サザルもまた、彼女にとっては大切な仲間の一人だった。志半ばで散った父に代わり祖国を守ると決意した彼を、国の外に引っ張り出したのは自分の我が儘のせいだと彼女は思っている。
     偉大な英雄を父に持ち、自らも勇者として起つことをいやというほどに期待されるその境遇を、心境を、喜びと苦労を、誰よりも理解してくれるのが彼だった。自分達は同じなのだと感じたのが自分だけではなかったと知った時、どれほどに嬉しかっただろう。
     その喜びのままについてきてほしいと願い、それを彼は穏やかに笑って承諾し――ああ、やはり彼が国を離れたのは自分のせいだ。彼女はその事実を奥歯で噛みしめる。
     サザルはそんな彼女の葛藤と後悔には敢えて触れずに、彼女を見下ろしていた。
    「私も連れて行ってくれ。危険な旅になる。私の父が死んだのも、単身祖国に帰ってきたからだとキミも知っているはずだ」
    「知ってるわ。でも、私はあなた達を連れて行く訳にはいかない」
    「それは、何故?」
    「帰れなくなるかもしれない。ルビス様もその使いも、誰も何も言わないけれど……そんな気がするの。ゾーマを倒せば、もう二度とアレフガルドからは出られなくなる。こちらの世界とあちらの世界の繋がりは断たれてしまう……そんな予感が、したの」
    「それなら心配はいらないさ。私に、もう待っている家族はいないからね」
     刹那サザルが浮かべた苦笑は、寂しさを滲ませていた。それは一瞬ですぐに消えてしまったけれど、微かな感情の機微が分かる程度には彼女とサザルは互いを理解し合っていた。
     彼の父サイモンはその存在を危険視したバラモスの陰謀によって謀殺され、母も十年にも及ぶ暗黒時代の中で亡くなったという。天涯孤独だという彼がこちらの世界に未練を残していない、それは本当なのかもしれない。だが優しい彼が彼女の為に嘘をついていないとも限らない。また一つ積み上げた罪悪感を押し殺し、彼女はわざと眦を吊り上げた。
    「あなたは、お父さんの代わりにサマンオサを守ると誓ったのでしょ。こちらの世界に戻れなくなったらそれも果たせなくなるわ。それでもいいの? お父さんが守りたかった国を、捨てる事になっても……いいの?」
     意地悪な問いかけだ。意地悪だし、いやらしい聞き方だ。
     当然サザルだって悩まなかったわけではないし、迷わなかったわけでもないだろう。英雄サイモンの子という矜恃と、祖国への愛情。それらが彼を彼たらしめている。
     絶望と悲嘆を啜る餌場として十年も続いた偽王による支配をようやく脱した祖国を、父に代わって守りたいのだと語った彼の強さが何よりも彼女を惹きつけた。だからその問いかけは大変に失礼でもあった。
     これで軽蔑されても構わないのだときりりと眉を吊り上げた彼女に、サザルは軽く目を瞠ったけれどそれだけで。やはり穏やかな佇まいを崩さず、優しく彼女に問いかけてきた。
    「それなら、私もキミに聞きたい。キミこそ、大切な母親を一人残して行っていいのかい?キミの母親が夫だけでなく、娘も行方不明のまま――……永遠にその帰りを待ち続けることになっても?」
     それは鮮やかとしか言いようのない切り返しで、思わず彼女は怯む。
     サザルは決して彼女を咎めているわけではないのだ。ただ事実を彼女の前に突きつけているだけ。彼がただ穏やかで優しいだけの青年ではないことを改めて思い知り、唇を噛む。
    (……お母さん)
     サザルの言う通りだ。母はこの先、父だけでなく娘の自分の帰りも待ち続けることになるだろう。いつ帰るかも分からない、きっと帰ってこない家族を、そうとも知らないまま待ち続ける。
     それは戦いに赴くよりずっと辛いことかもしれない。いつだかに帰ったとき、一人ぽつんと彼女の部屋に佇んでいた母の、小さな背中を思い出して胸が締め付けられるように痛む。
     母はいつか諦めるだろうか。夫も娘も死んだと思い為して、おのれの為に生きてくれるだろうか。
     彼女には断言出来る。きっとそんな日は来ない。母はずっと帰りを待ち続ける。彼女の決断は、きっと母の人生を大きく壊してしまう。父がいなくなったときよりもずっと――ずっと。
    それでも。
     ああ、それでも。
    「それでも、私は行かなきゃ。だって私は、勇者オルテガの娘だから」
     ゾーマの討伐は自分がやらなければ、誰にもできないことだった。精霊ルビスが解き放たれ、その加護がアレフガルドに戻って来た今が千載一遇の好機なのだ。これを逃せば、次に同じような好機がやってくるかどうかもわからない。
     彼女は知ってしまった。邪悪を倒す方法を、世界に光をもたらす道筋を。別の誰かにそれを託して自分は安穏と祖国で生きていくことを、何より彼女自身が許せなかった。
     だって彼女は、勇者オルテガの娘だったから。
     他の誰かがそれを聞いたら呆れただろう。或いは、そこまでやらなくてもいいのだと窘めたかもしれない。彼女の青臭い矜恃を嘲笑う者もいるだろう。
     けれど、いま彼女の目の前にいるのは誰よりも彼女の境遇を、英雄の子としての矜恃を理解してくれているひとだった。
     彼はにこりと笑い、まさにその言葉を待っていたのだとばかりにその笑みを深める。
    「それなら、私だって戦士サイモンの子だ。自分の役目と使命とを、忘れてしまったつもりはないよ」
    「でも、あなたまで巻き込まれる必要はないのよ?」
    「巻き込まれるなんて考えてはいないさ。私が望んでそうするんだ。父は、オルテガどのと合流できないまま果てたことをきっと一番悔いている。それなら、息子の私がオルテガどのの娘のキミについていくのは父の本懐を果たすことにも繋がるのではないかな」
    「でも……でもっ、サマンオサには二度と戻れなくなるかもしれない。私はこれ以上、あなたから大切なものを取り上げたくない!」
    「大切なもの、か」
     ふ、と涼しげなサザルの眼差しが遠くを追った。故郷の風景を懐かしんでいるのかもしれない。何拍かの内に彼の視線はまた彼女の上で焦点を結んで、どきりとするほど優しい光を浮かべる。
    「祖国よりも守りたいものができてしまった。それでは、駄目かな?」
     大切なものが何かなんて、野暮な事は聞けなかった。
     だって少し照れくさそうに言うサザルは、真っ直ぐに彼女を見つめているから。差し伸べられた大きな手も、彼女に合わせて軽く曲げられた背も、何もかもが彼女の事を大切だと物語っていたから。
     ――それが嬉しいと、思ってしまったから。
    「……ばかね。ほんとうに、ばかなんだから」
    「それは承諾と受け取っていいのかな」
     彼女の声は涙で揺れていて、はっきりと返事はできそうになかった。代わりに、差し出された彼の手に自分の手を重ねる。迷いなくしっかりと握られた手は、どんな時ももう離すつもりはないと言外に告げていた。
     その手を、彼女も全く同じ気持ちで握り返す。英雄の子、勇者となるべき者、これまでも様々な共通項が二人の間にはあったけれど、いま二人を繋いでいるのはそんな大仰なものではなく、ごく単純で強い感情だけだった。
     人はそれを友情と呼ぶのだろうし、愛情とも呼んだかもしれない。単純だけれどこんなに強い感情を彼女は知らなくて、もうその手を離せそうにはなかった。

     茜色に燃える空の果てから、太陽が顔を覗かせる。
     街で一番の早起き老人が、待ってましたとばかりに玄関をくぐる。
     いつものアリアハンの朝がやって来て、そして彼らはそのありふれた風景から永遠に一人の少女を失った。
     大樹の下にもう勇者と呼ばれた男女の姿はなく、早暁、手に手を取って旅立っていった二人の姿を見た者はない。
     ただ、塞がれてしまったギアガの大穴とすっかり失せた邪悪の気配が全てを物語っていて。
     勇者と呼ばれた少女の物語が勝利と共に幕を下ろしたことだけを、地上の人々は知ったのだった。
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