「こんなところにいたんスね」
いつもは喫煙者の溜まり場である屋外の踊り場。紫煙はくゆらないが、繁華街特有の喧騒から細やかながら逃れることのできる静かなこの場所に、柘榴はひとりでいた。
「おやおや。これはこれは、カスミではありませんか」
「柘榴がこんな所にいるの珍しいッスね」
「ええ、まあ。ワタクシとてたまには、ひとりになりたい時もございますので」
そう言う柘榴の声には覇気が無い。いつもの彼ならこんな調子では決して言葉を紡がないだろうに。どうやら今夜は相当参っているらしい。
……何か悩み事でもあるのだろうか。気になるところではあるが、口出しをするのも野暮だろうと思いカスミは言葉を飲み込むことにした。代わりに隣に立ってただ黙って隣にいることにする。
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