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    monai

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    monai

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    悪夢を見るファントムの話です。
    博傀と博銀と捏造いっぱい。
    何が来ても怒らない方だけどうぞ。
    (21/07/20改定)

     横たわるベッドの上で目を覚ました時、ファントムはここが夢の中であることに気が付いた。
     薄暗い室内は所々にロウソクが立ち、火の揺らめきと合わせて空間そのものが揺らいでいるように見えた。
     顔の上半分を覆う仮面をつけたもう一人の自分が寝ているファントムの上から覆いかぶさり、彼の顔を覗き込んでいる。
    「ようこそ、今宵の悪夢へ」
     仮面をつけた自分が言う。声は平坦だが顔に落ちる影のせいか笑っているかのようだ。
     彼はファントムから生み出されたもう一つの影、”虚影”である。虚影はファントムがいつも着ている黒い衣装に外套を着こんでいた。
     現実の世界でファントムのアーツを使い生み出された虚影はしゃべらず行動を真似るだけだが、こうして夢を見たときに出てきては自由に動きしゃべる。
     まるで自分も夢の舞台の出演者であると言わんばかりに。
    「またお前の夢か」
     ファントムが起き上がろうとして自身の身体を見た。
     寝る前と同じワイシャツとスラックス姿、虚影は腰のあたりに座り込むようにして身体を乗せていた。
    「動かないでくれ」
     虚影は素早い動きで両手に戦闘用ナイフを握ると右手のナイフをファントムの首すじに刃を押し当てた。
     ナイフの冷たさを感じ、思わず動きを止める。
    「今更、私が死を怖がるとでも?それにお前の目的は私の首輪を取ることだろう」
     ファントムは首につけたサーベイランスマシンに触れた。見た目は青い筋の入った首輪だが、喉にある源石病の症状を抑え、ファントムの声を無害なものに変えていた。
     この首輪を外せばきっとロドスは地獄と化す。
     そしてドクターも・・・。
     虚影はさらに力を加えナイフを押し付けてきた。鋭い痛みが走る。
    「そうだ。演者が舞台を下りるときは死ぬ時だ。なのにお前は舞台を下り、歌うことを辞めてしまった。私はまた大観衆の前で歌い、歓声を浴びたい。だが私はお前の影。お前が自ら首輪を外し再び観衆の前へ進むことを、導くことしかできない」
     抑揚の少ない声には悲しみがにじんでいた。
    「だめだ。私はドクターの影。離れることはできない」
     仮面に翳る目をまっすぐ見据えファントムは言った。
     虚影は口の端を歪ませにやりと笑い、
    「ドクター!ドクターだ!だがドクターもお前の本当の声を聴きたがっていただろう?なぜ外してやらない?受け止められないと疑っているのか?」
    「ドクターの願いでも聞けないことがある。ドクターを殺したくない。私には彼の導きが必要だ・・・」
    「ここはお前の夢なのだぞ、ファントム。夢でなら本当の声を、歌を、ドクターに聴かせてやれる。そうだろう?」
    虚影は左手に持ったナイフの先をワイシャツの合わせに滑り込ませるとボタンに引っ掛け、そのまま切り落とした。
    「今日はカランドのフェリーンが来ているな。ドクターを”盟友”と呼ぶユキヒョウの。奴が来るたびお前が自分自身を慰めているのは知っている。あのユキヒョウがどうドクターに触れられているのか想像しながら・・・」
    「だまれ!!」
     思わず虚影の襟首を掴むと、衝撃で頭にかかったフードがずり落ちた。
     ファントムの顔は羞恥で赤くなり、耳の裏でゴウゴウと血が流れていく音が聞こえる。
    「かわいそうに。お前の成熟した身体はいつもドクターのために張りつめている。求めている。今日はどこまで"触られた"?」
     怒るファントムを無視し虚影はナイフでボタンを一つ一つ切り落としていく。
     ボタンを一つ切り落とすたび身体の輪郭線が滲み、形が次々と変化していくと、平坦であった声色も変わっていった。

     虚影が伏せていた顔を上げた。いつも傍で見つめ続けてきたドクターの姿がそこにはあった。

    「ドクター・・・」
     ファントムは目を見開いたまま固まっていた。
     虚影が変身したドクターの姿はファントムの夢の中でも寸分違わぬ姿をしていた。
     どれだけの時間、彼を見つめ続けてきたか自分自身がよくわかっていた。ドクターの自室に忍び込み、寝息と心音を確かめたことが何度もある。
     一度ドクターが消えたとき死んだと思い諦めた。しかしまた戻ってきて今度は再び別れることが怖くなった。
     彼の一挙一動を記憶していき、新しい足音もすぐに覚えた。
    「ファントム。私が欲しくないか?君のすべてを受け止めてほしいと思わないか?」
     淡く微笑みながらドクターが顔を近づけてきた。感情の起伏をほとんど見せなかったドクターが記憶を無くして以降、多くのオペレーターたちと関わっていくうち、少しずつ表情を見せるようになってきていることへ気が付いたのは記憶に新しい。
     いつの間にか虚影の両手に握られていたナイフはベッドの下に落とされ、ボタンがすべてなくなったワイシャツの前を開かれていた。
     軽く置かれた手のひらが素肌を滑り筋肉の凹凸を確かめるようにゆっくりと腹から胸へ滑っていく。
    「君は・・・ドクターではない・・・。」
     息も絶え絶えにファントムは答えた。頭では虚影が作り出した像であり、ドクターではないことがわかっていたが、ついに触れられたその手のひらに感極まっていた。なにもかもがファントムの望むとおりだったのだ。
    「鳥肌が立っているな。絶望で?それとも歓喜で?」
    「ふっ・・・ぅ・・・」
     息が上がってまともに口が動かない。頭が煮え立ち興奮で視界が狭まってきている。
     目の前のドクターのことで、頭が一杯になる。
    「ファントム。君のことは私がすべて受け止めよう。君が舞台に立ちたいのならふさわしいものを用意しよう。さぁその首輪を外し、私のためだけに歌ってくれないか。君のすべてを見せてくれ」
     右手が切れた傷を避けるように首筋を撫で、露出した喉の源石を爪先でたたく。
     ファントムが嫌がるように首筋に当てた手を掴むが力が入っておらず震えていた。無言で何度も首を横へ振る。
    「これは夢だよファントム。ここでなら君は、私を好きにできる。時間も気にせず互いの熱を分け合うこともできるんだ」
     なだめるように目元をキスされた。これもあのフェリーンとやっているのだろうか?

     あの日の夜。
     ドクターの自室へ二人で入っていくのをファントムは見た。ドクターのことを”盟友”と呼びながらも探るような言動に疑いを持っており、信用できないものをドクターと二人きりにすることはできなかった。
     あの者はドクターと敵対し危険なところへ導こうとしている。ファントムはそう思っていた。
     ドクターの自室へ忍び込み、そして見てしまった。ドクターよりも頭一つ大きいあのフェリーンをドクターが抱いていたのだ。
     全裸になった古傷のあるたくましい身体がドクターが撫でるたびに肢体はねじれて震え、感じ入ったように引きつった声を上げていた。赤い身体に流れる汗がベッドサイドランプによって煌めいている。
     一方ドクターは普段着ているコート以外は一切服を脱いでおらず、また医療用の手袋をはめていた。
     気配を殺していたファントムに二人は全く気が付いていないようだった。
    「シルバーアッシュは今日も可愛らしい反応をするね。ほら、乳首は尖っているし、突くと痙攣したように跳ねる。ペニスのほうはどう?あまり出しすぎると後が辛いんじゃないか?」
     ドクターの片手が中指と親指で輪を作りぎゅっとペニスの根本を掴んだ。大柄なフェリーンの身体が跳ねベッドをぎしぎしと揺らした。
     優しく声をかけながらもドクターはその手であるいは口で苛烈に責め立てていた。
     あまりの衝撃に立ちすくんでしまったファントムが次に気が付いたときには、自室へ戻ってベッドに腰かけていた。どうやってここまで戻ってきたのか覚えていない。
     脳裏に焼き付いて離れないあの光景を思い出し、体温が高くなっていく。ファントムは自分の着ている服を乱暴に脱ぐと、カランドのフェリーンを抱くドクターの姿を反芻するように自分自身を慰め始めた。

     あの夜の、頭の中でしかいなかったドクターが今、目の前にいる。
     たとえ夢の中である姿でも、こうしてファントムを愛でてくれるドクターの存在によって、判断力を鈍らせていった。意識がふわついてきて、霞がかり、やがて快楽が全身を巡っていった。
     ドクターの細腕がファントムの身体をめいっぱい抱きしめ、体中にキスを降らせ、愛撫していく。追い詰められたファントムはただただ自分でも聞いたことのないような喘ぎ声をあげるばかりであった。
    「ああっ! ~~~~~~~っ ドクターっ!」
    「気持ちいいんだね・・・。もっと見せてくれ。ここは好き?」
     ファントムが弱くて気持ちいいところばかりを責め立ててくる。すっかり服を脱がされ全裸にされたのにも関わらず、やはりドクターは服を着たままだった。
     そういえば彼の身体を見たことがない。
    「ファントム、ファントム・・・。愛してるよ」
     ドクターはファントムにぴったりとくっつきキスをした。キスの合間に何度もファントムの名を呼んでいる。答えるようにファントムはドクターの背に腕を回した。
    「ドクター、ドクターッ・・・。もっと私に触れてほしい。お願いだ、私に慈悲を・・・」
     ファントムにとってドクターは悪霊蔓延るこの現実においてたった一つの灯だった。唯一無二の存在。すべてを曝け出してほしいというドクターの願いをなぜ私は答えることができないのだ?
     ファントムは震える手で首のサーベイランスマシン外す。
     ドクターの唇は少しかさついていて体温はぬるく、想像していたとおりだった。
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