「先生、花火やらん?」
人好きのする満面の笑みと共に頭上に掲げられているのは小型の手持ち花火の詰め合わせ。
聞くに商店街で買い物したときの福引きの景品として引き当てたものらしい。
「野薔薇と恵はー?」
「三人でやるにはちょっと量足んなくてさ?」
悠仁は頬をかいてバツの悪い笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「それに俺が先生と一緒にやりたいんだけどダメ?あとじいちゃんに大人がいないところで火遊びすんなって言われてて」
少し前まで義務教育過程だった子供としてもまっとうな主張に耳を傾ける。
どうにも気分が乗り切らず、ソファから投げ出された長い脚を気だるげに組み換える。
「ギャンブルっていう別の火遊びはしてるのに悠仁そういうのは真面目だよねぇ」
五条はニヤリと底意地の悪い笑みで返した。
どきりと肩を跳ねさせ泳ぐ視線。
背を丸めいたずらのバレた子猫のような姿。
五条の指摘にろくな抵抗の言葉ひとつ返せずに転がされるのに五条は機嫌が良くするが、本命はそちらではない。
「ま、そっちに関してはまた今度にするして。いいよ、やろう。」
話の流れからして断られると覚悟をしていたであろう縮こまった身は予想外の五条の返事に顔を上げる。
散る花火のように瞳を輝やかせた。
その姿に笑みを深め、先ほどまで身を投げ出していたソファから腰をあげる。
先に行くよと言わんばかりに外へと歩みを進めた。
「よっしゃ!ありがとう先生!」
その背に抱き付かんばかりに勢いの良い返事に五条の足取りはさらに軽くなった。
水を張ったバケツに貯まる燃え殻の数も増え、花火も残り僅かとなるころ。
締めと言ったらこれでしょ!と悠仁から手渡されたのは線香花火だった。
「ねぇ先生。どっちが線香花火長持ちさせられるか勝負せん?」
「悠仁、組手でも一本とれたこと無いのに僕に勝てるの?」
「いいよ、そんなこと言うならぜってぇやってやるからな」
五条の軽い挑発に悠仁は眉をつり上げ威勢よく息を巻いた。
じゃあいくよせーのの掛け声と共に蝋燭から離された線香花火の尖端。
蝋燭と花火に照らされた真剣な眼差しの琥珀色。瞬きの間にパチパチと表情を変える線香花火の火花にいま自身の目の前にいる相手を重ねあわせる。
だから見てて飽きないんだよね、と頭の中で独りごちる。
紙撚にすがり付く火種のようにかすかなものだとしてもこのときが少しでも長く続くことを柄にもなく思う己自身に五条は自嘲した。